392 さくらくんとクエストします
ツッコミが入ったところで、私は姿勢を正して正座になる。
急に私が正座になったので、さくらくんも正座になった。
私はさくらくんの瞳をみて、一つ頷いてから、口を開く。
「――さて、さくらくんには、今から大事なお約束をしてもらいます」
「大事な約束・・・ですか?」
私とさくらくんの瞳が交差した。
「はい。私と同じ学校に来るからには、これだけは必ず守ってもらわないといけません」
❝さくら君とスウさん、同じ学校になったのか❞
❝スウさんとさくらきゅんがいる学校ってなにそれ、楽園?❞
❝一式 アリスもいるぞ、メープルちゃんもいるらしい❞
❝世界の重要人物集まっちゃってんじゃん!?❞
「必ず守る事・・・・ですか」
さくらくんが少し真剣な顔になった。
そう、大事な話だからね。
「さくらくん、まず――」
「はい」
「――私が体育の授業を受けている時、絶対にグラウンドを見てはいけません。それはもう、鳩が機を織っている時くらい」
「・・・・――ッスー」
❝機織りするのは鶴や、鶴❞
「次に、私の教室に会いにきてはいけません」
「・・・・・・・・――――ッスー」
なぜかさくらくんが、過呼吸になっている。
「最後に、廊下で偶然私を見ても、すぐに視線をそらしなさい」
「・・・・・・・・・・・・――――――ッスー」
緊張のためか過呼吸気味だったさくらくんが、深刻そうな瞳になった。
そう、深刻な話なんだよ。
「スウさん」
「なんでしょう」
「・・・・きっと来年はクラスメイトも、スウさんを一人にしないと思いますよ」
「――だ、誰もボッチだから見るなとか言ってないし!!」
「・・・・そうですね。一言も言ってないですね」
「可哀想なものを見る目、止めて!?」
とりあえず気を取り直して、質問をしてみる。
というか話を変えたいので変える。
「――だ、だけど空間の裂け目って全部で100光年を調べるんだよね? それ数万人でやっても何年も掛からない?」
「流石に、ある程度目星はついてるみたいです。昔はワープ港が射手座A*まで繋がっていたんで、プレイヤーが持ち帰った情報から算出したらしいです」
「あー、私もその手のクエストを昔受けたなあ・・・・」
ドラム遺跡の奴。
さくらくんがウィンドウを開いて、私に見せてくれる。
球体状の宇宙マップが3Dで浮かんで、その半分近くが青く塗られていた。
「この球状の地域が、連理演算器によって算出された、空間の裂け目が隠されていると予想されている場所です。そうして、青い部分が探索済みの部分です」
「もう半分くらい青くなってるんだね。あと恒星と惑星が、何個かあるね――恒星の残骸みたいなのもあるし」
「その恒星は、昔の戦争で敵性存在に破壊されたらしいですね」
「え、恒星破壊爆弾とか?」
「らししいです」
・・・・本当に恒星破壊爆弾が、有るんだ?
そういえばホテルで見た夢にもチラッとそんな話が出てたっけ――冗談じゃないな。
「破壊された恒星は、今は星雲になってますけど、危険な地域もあるらしいので気をつけましょうね」
「うん」
ここで通信が入った。
『やあスウくん。ロンレイル・ユタだ』
「ユタ中将。どうしました?」
さくらくんの配信のコメントがさわぐ。
今日は私の配信はやってない、さくらくんの為の配信だから。
❝さすがスウ・・・当たり前に連合の中将が話しかけてくる❞
❝これがスウさんか・・・さくらくんの配信では一度も接触無かったのに❞
❝つか、スウさんが落ち着いてるけど、俺等からしたら違和感。・・・・スウさんは、完全に慣れてる感ある❞
『スウくんが、64層の攻略に参加していると訊いてね。ちょっと頼みがあるんだけれど』
「えっと、なんでしょうか」
『普通のプレイヤーじゃ探索できない危険宙域があってね。そこの探索を頼めないかな――クレジットとポイントは弾ませてもらうよ。具体的には二人共に100万クレジットと100万ポイントほど』
「あー、なるほど」
今日のコラボ相手が普通のプレイヤーなら断ってたけど、さくらくんは猛者だしなあ。
私は、さくらくんに尋ねてみる。
「さくらくんが良ければ受けますね。――さくらくん、どう?」
「むしろ100万も貰えるなら、望むところです! 心中は『やったー』です」
「じゃあ、このオーダー受けようか!」
「はい!」
『連合クエスト。今日は宇宙でサーフィンだ!〝ダブル・スペシャリスト〟を開始しますか?
⇨はい
いいえ』
⇨はい
こうしてクエストを開始した私達は、先行している戦艦にエネルギーが充填されたところでワープ。
私達はここから「亜光速航行で進んではサーチ、進んではサーチ」を繰り返す簡単なお仕事をはじめた。
ただまあ、ユタ中将が言う危険宙域だというだけあって、宇宙空間に嵐が起きているんだけれども。
でも私とさくらくんは慣れたもので、
『スウさん、ちょっとあっちの小惑星帯調べてきますね』
「りょー。私はあっちの雲の中サーチしてくる~」
『はーい』
❝いや、あんたらなにほのぼの会話してんの?❞
❝外見ろよ、宇宙的恐怖の世界だぞ❞
❝あんな場所、普通はまともに飛ぶことも出来ない❞
「確かにレーダーが返ってくるまで、機体が流されちゃったりしたら上手く探索できないんで、そこがちょっと難しいですね」
❝「ちょっと」❞
❝駄目だ、常識が違うと会話が通じない❞
❝まるで宇宙人と会話してるみたいだ❞
レーダーの反応を待っていると、私の眼に円盤型のなにかが見えた。
「さくらくん、あれってなんだろう。赤い渦の方向」
『なんでしょう、人工物みたいですね――コロニーの残骸かな』
「なるほどコロニーの残――ん? あっ、空間の裂け目の反応があった!! あのコロニーの残骸の中だよ!!」
『ええ・・・あの中ですか!?』
私とさくらくんが発見にざわついていると、ユタ中将から連絡がすぐにあった。
『よく見つけてくれたよ、ふたりとも。――しかし、とんでもない場所に見つかったな。その場所にワープ港を建設して、ワープ補助装置を置けるかどうか』
「そ、そこは銀河連合でなんとか頑張ってください」
『ああ、そこまでは頼らないよ』
ここのワープ港の外の光景は恐ろしいことになりそうだなあ・・・来たい人いるんだろうか。
いや、逆に観光名所になるのかな?
とりあえずほっと胸をなでおろすと――視界の端にあったコロニーの残骸から、何かが飛び出してくるのが視えた。
「なんだろう、あれ――人型兵器? ――プレイヤーさんがいたのかな」
『マスターへ警告。識別番号なし、バーサスフレームではありません』
「えっ、じゃあ、MoBの? オークとか」
私が少し警戒すると、ユタさんの方が大きく警戒しだした。
『違うスウ君、あれはアクティブアクター――AUⅢだ!!』
「えっ、アクティブアクターってなんでしたっけ」
❝並行世界人の兵器だよ、スウさん!❞
「あ、命理ちゃんが言ってたベクターの人型兵器!?」




