388 シュネさんがやって来たことを語られます
◆◇sight:鈴咲 涼姫◇◆
またもアホになるほどバカンスを楽しんで帰ってきたけど、層攻略もないという事で、私はフェアリーさんのワンルームで、チグにお料理を教える配信をしていた。
❝チグさんも美人だなあ❞
❝アリスさん、チグさん、フーさん。スウさんの学校、美人多すぎ問題❞
おい、なぜその問題から私を除外した。
❝こんなギャルギャルしい子とスウたんが仲いいの意外。ちなみに俺氏、チグさんみたいな子には話しかけられない模様❞
「チグは慈母神だから、大丈夫だよ」
「なにそれ笑う」
チグがレモンを切りながら吹いた。
このお料理の手ほどきは、チグの恋の応援。
なんと、鷹森くんへ渡す為のお弁当作りなのだ!
私は、ふとホテルの夢で見た鷹森くんを思い出して、振り払うように頭をふる。
「鶏の唐揚げは串で穴を開けておいて。そして2度揚げね。鶏肉は火が通りにくいのに、生焼けが本当に怖いから。二度揚げは美味しくもなるし――あ、衣は薄めでいいよ」
鷹森くんも男の子、男の子はきっと唐揚げとか大好きだろうから、真っ先に唐揚げを教えることにした。
私がチグに説明していると、通信ウィンドウが急に開いた。
◤CLOSED◢と書かれている。
『やあ』
「あ・・・・」
アッシュブロンドに、少女のような見た目。
「・・・・シュネ――さん」
『4章が始まったね』
「はい。――ちょっと待ってください」
私は、ここからの話を視聴者やチグに聴かせたら不味いのでは? と、移動することにした。
「チグ、揚げる一回目の温度は160度で4分間。そこから6分間休ませて、2回目は180度で2分間。――温度計はお鍋のここに付いてるから目視を。――ちょっと離れるね。――油の跳ねに気をつけて。まあチグのお肌に何か有っても〖再生〗できるけど」
「ん? ――おう、ありがと、分かった」
私はコックピットに向かった。
暗闇で瞬かない星が見えてくると、シュネさんが話しかけてきた。
『夢、見てくれたかい?』
「はい・・・・その・・・なんと言って良いか分かりませんが・・・、すごく辛くて、大変だったんですね」
『まあ・・・ね。最初のボクの気持ちは今のボクにも残っているよ。4章が始まったらボクの目的を話すって約束したね』
「――というか目的は、もう話してもらわなくても分かると言うか――」
私は一呼吸置いて、尋ねる。
「おはようをしにいくんですね。アイリスさんに」
『話が早くて良いね』
「まあ、アレだけ全貌を見せられれば。アイリスさんを助けるのは、やっぱり難しいんですか?」
『ボクはね、何度も過去を変えようとした――何度も、何度も何度も何度も――でも、変わらなかった・・・別の道筋の同じ結果が増えていくだけ。アイリスがマザーにならないようにするには、世界にかなり干渉しないといけない・・・・変えるのは無理だった』
「そう・・・ですか」
『なら、とボクは考えたんだ。過去が変えられないなら、未来を変えよう』
「――未来を? それって、結構当たり前の事では?」
『いいや、アイリスが元に戻せるか戻せないかを確定させず、出来うる限り変えやすい過去を作りながら、最善であろうルートを辿り続ける』
「な、なるほど――それは、当たり前じゃないですね」
『そのキーが君さ、伝説のパイロット――スズサキ・スズヒ。運命の星のつながりの英雄とは君の事だ――スズサキ・スズヒ。ボクは君に会いに、何度も時間をループしている』
「わ、私に会うために!?」
『―――だけどね・・・・まず大前提として、〈発狂〉デスロードをクリアしている君が滅多にいないんだ。途中で諦めていたり、そもそも〈発狂〉デスロードをやっていなかったり。それにもう一人のキーマン、アリス君が死んでいたりね――アリス君が死んでいたら、そもそもアイリスが産まれないから・・・その世界にもボクは用事はないし。それにアリスくんが何か行動をする度、世界が変えやすくなってくれるんだ――マザーMoBアイリスの誕生の起点になるアリスくんは、どうもこの宇宙の特異点らしい』
「アリスが特異点? ――というかアリスが死んでいるルートとかあるんですか!?」
『うん。相当数あるよ・・・・層攻略の途中で死ぬことも有る――その場合・・・「アリス君を返せ」と君がボク達の敵に回り、やがて君はMoBになる』
言われて私は、〖テレパシー〗をくれた黒い妖精に見せられた光景を思い出した。・・・・確かにあの光景の私の胸には、アリスを光にされた事による憎悪が渦巻いていた。
『アリスくんを復活させるために死体を回収すると君は怒り狂う――事情を話しても、君の大幅弱体化は避けられない。だから、〈発狂〉デスロードをクリアした君がいて、アリス君が生存しており、〖再生』まで手に入れている。―――過去が変えにくい世界で、こんな状態まで来れたのは本当に奇跡的なんだよ。ただ、残念だが・・・・ボクは久遠の呼笛が鳴った辺りで、殆どのルートも破棄してきた。その先を見ていない――理由は分かるよね?』
「私が・・・・死ぬ、からですか?」
――占い師のお婆さんが見た未来の映像だ。
『そうだ、あそこが一番の難所だ。ボクは君が死んだらすぐさまルートを破棄するようにしてる。そして特異点であるアリス君を使って、あの時点をなんとか変えようとしてきた。―――でも無事あそこを乗り越えられたとしても、その先をボクは知らない。あの瞬間に対してのアドバイスも出来ないし、その先のアドバイスもできない』
「そう・・・・ですか」




