387 つながるソルダート
シュネが死んだことにより、新たなる元帥が生まれた。
シュネはデータノイドとして復活し、作戦顧問として大将の立場になった。
マザーMoBがブラックホールに落ちた後、MoBの攻勢は暫く止む。
星団帝国はマザーMoBとの戦争が終結したと考え、銀河連合から領土を取り返そうと、戦争を開始。
終わらない戦火により、銀河の国々は疲弊していった。
星団帝国と銀河連合の戦いが始まって3年目、生前のシュネがマザーMoBのコアを分解する酵素の情報を隠蔽していたことが発覚する。
このことでシュネのデータノイドは、階級を剥奪され――銀河の果てに幽閉された。
さらに数十年後、ハイレーン近くに数億のMoBが出現する。
人類同士の戦争で疲弊しきった人類はこれに対抗する力を、最早有していなかった。
戦力を失い、シュネを失った人類は追い詰められていく。
星団帝国は、分解酵素を持って射手座A*を目指した。
しかしすでに、銀河の中央部はMoBによって防衛線を張られていた。
人類の層攻略は50層で止まる、人類が射手座A*に到達することはなかった。
やがて人類は、文明を徹底的に破壊させられ――一人残らず滅ぼされた。
こうしてマザーMoBは停止し、戦いは終結したのである。
――たった一人のデータノイドが、射手座A*を目指し続けた以外は。
ここで涼姫は目を覚ました。
彼女はベッドから上半身をもたげ、隣のベッドで眠るアリスの寝顔を視る。
そうしてから、窓の外に視線を向けた。
一面の水平線に、昧爽。
涼姫は、呆然と呟いていた。
「・・・そっか、これが・・・」
そうして、頬を拭った。
涼姫が海を見つめていると、突然 ゴォン ゴォン と鐘の音が聞こえた。
『全プレイヤーにお知らせします。ただいま重要情報〈1100年前の真実〉がプレイヤーIDスウにより発見されました。フェイテルリンク・レジェンディア・オンラインは第三章〝それはきっと奇跡の始まり〟を終えて、これより第四章〝おはようをしにいくんだ〟を開始します。つきましては日頃のご愛顧に感謝して、章を進展なされたスウ様、及びプレイヤーの皆様にプレゼント企画をご用意しております。今後ともフェイテルリンク・レジェンディアを宜しくお願いします』
「え゛―――私が章を進展させたの・・・・!? しかも夢を見せられただけで章を進めたって事!? いやいや、それってアリなの!? ―――確かに超絶重要な情報だったけれども・・・! 運営、もう変プレゼントいらないからね!? 変な事態は懲り懲りだからね!?」
◆◇◆◇◆
これは、涼姫たちがホテルから帰った少し後の出来事。
「スウさん、ここを金で縁どりたいんですが、直接金を塗ってもあんまり輝かなくて」
「それはサフを吹いたあと、黒く塗装して、黄色を薄く塗装すると、綺麗な金で縁どれるよ」
涼姫とアリスとはプラモデル作成配信をしていた。
アリスは、ステイルのプラモを塗り直し。
涼姫は十六夜テイルの、さらなる強化を考えていた。
「え・・・それで金色に光るんですか? なぜでしょう?」
「鏡の裏って黒なんだけど、アレと同じなんだよね。黒が金には要らない光を吸収してくれて、反射してほしくない光が見えなくなるから。早い話、ぼやけ防止」
「あー、なるほどです!」
アリスの質問に答えてから、スウは自分の手元を見た。
(アイリスさんの機体、間違いなくこの十六夜テイルだった・・・十六夜テイル、キミ、ずっと時間をループしてるの?)
アリスが色を塗りながら呟く。
「今度こそ350点を超えてみせます!!」
「まって、改造とかそんな直ぐに上手くなるわけじゃないから、ムキにならないで」
涼姫はワンルームを見渡して、アリスが再び持ち込んだ、浮かれたモモンガが横から殴られたような人形を〖念動力〗で動かす。
そうして、アリスの前で胸を張らせ、右手を挙げさせた。
「アリスちゃん、そんなに焦っちゃダメダヨ」
アリスは、突然動き出した人形に目を白黒。
「えっ、人形が動いて――。え―――!?」
アリスは混乱しながらも、なんとか状況を飲み込もうとする。
「は、話すのは初めてですね・・・ンガァ」
(そんな名前だったの・・・?)
涼姫はアリスのネーミングセンスに脱帽しながら、ンガァに腕を組ませる。
「良いかい、アリスちゃん。モデラーさんたちも沢山頑張って上手くプラモデルを作れるようになったんだ。みんな、すぐに上手く作れるようになった訳じゃ無いんだよ」
「それは、そうですけど・・・」
「だから、スウを頼るといいよ! プロみたいな腕は無いけど、アイツは好きな事の知識だけはあるからね!」
「あはっ」
アリスが楽しそうに笑った、
「これ、〖念動力〗ですか? ――」
種は、あっさりバレた。
「――なるほど、そんな使い方もあるんですね」
アリスが沢山〝草〟を生やしながら、涼姫を観る。
涼姫は思う。アリスが咲かせた草は多分全部、四葉のクローバー。
なんだろう、この豊穣の女神。なんて事を。
「よろしくお願いしますね!」
アリスの笑顔が涼姫の眼にはあまりに綺麗に映って、涼姫は少し赤くなった。
「う゛、う゛ん」
涼姫は、自ら女たらしの手の中に入っていく。
その後、
「なるほど、ぬいぐるみにイントロフレームを仕込めば――動いてくれる訳ですね・・・・これは良いですね・・・!」
涼姫は、アリスに閃きを与えてしまった。
数日後、アリスはイントロフレームで動くぬいぐるみたちを完成させる。
さらに、イントロフレームに自動動作AIが有ることに気づいて、ぬいぐるみが自由的に動くぬいぐるみ王国を作るのだったが・・・それは、またちょっと先の話。
「この十六夜テイルの仕組みを、バーサスフレームにも持ち込みたいんだよねえ」
そもそもスワローテイルが十六夜テイルを元にしてるみたいだけど、ちょっと物足りないんだよねぇ。
「え、十六夜テイルみたいな飛び方をするバーサスフレームですか?」
「無理かなあ?」
「あんなハチャメチャな飛び方を、バーサスフレームできるんでしょうか・・・?」
「だよねぇ。重量の問題がなあ」
言った涼姫が、ふと何か呼ばれたような気がして、コメントに目を向ける。
❝ソルダートを好きになって有難う。ボクはうれしいよ❞
というコメントがあった。
涼姫は訝しがる。〝好きになってくれて嬉しい〟? まるで前からソルダートを知っていたみたいな。
涼姫が(もしかして、データノイドさんのコメント?)と思いながら首を傾げていると、アリスがFL製の食器乾燥機でプラモデルを乾かして、
「出来ました!」
とステイルを涼姫に向けた。
涼姫はアリスに、ニヤリと返す。
「よぉし、じゃあ始める?」
「はい! 始めましょう!! レッツ、」
「「ソルダート!!」」




