383 一番、大事なこと
ハイレーンの天才1年が叫んだ。
『部長!!』
彼、ポールはシュネが吹き飛んできたのを観て、シュネがピンチだと思ってしまったのだ。
ポールは命理を蹴り飛ばし、部長の助けに入ろうとしてしまった。
「私にあって、シュネに足りないもの――それは、」
アイリスの目が獲物を捕らえた。
「信頼」
ハイレーンの3年生が叫ぶ。
『行くな、一年!!』
その言葉に、シュネが背後で起こっている事態を察した。
『ポ――』
言い終わる前に、シュネの機体にアイリスの機体が抱きついてきた。
『私とシュネの差、それは―――仲間と過ごした時間。それが、信頼の差を生んだ。シュネ、戦術で一番大切なのは、信頼だよ』
『な―――っ』
(不味い、アイリスに銃を返したら、一年が狙撃される――)
シュネの機体が、アイリスの機体の銃を、自分の後ろに投げた。
それを観たハイレーンの1年生は、アイリスの狙撃は肩のバルカンからしか無いと確信する。
だから、肩のランチャーの銃口を躱す軌道に入った。
ハイレーンの1年の取った軌道は、アイリスの読みどおりだった。
(私の銃はいらない)
(――あ、違う!!)
「信頼してるよ、貴女の銃整備の腕」
僅かだった、シビリアン1位と2位――その僅かな思考の初速の差が、勝負を決めた。
(――アイリスは、私の銃を奪――)
アイリスはシュネの機体の背中にある銃を外して、その銃口をハイレーンの1年に向けた。
「え―――っ」
ハイレーンの一年が口をポカンと開けて、気づいた時には遅かった。
もはやシュネは祈るしか無かった。アイリスが、ハズレのコアを撃ち抜くことを。
だが、運の問題すら――
「どうせ、読み合いの末にコアの位置はランダムで決めてるでしょ、シュネ。私は一応胸がアタリだと予想していたけど、変更するよ――アタリは腰だ!! これで、確率は上昇する!!」
タタタ
撃たれた3発の銃弾が、ハイレーンの1年の機体のプラモを弾き飛ばしコアに叩き込まれた――本命のコアに。
1年の機体の動力が止まる。
シュネの隠し腕が、胴と腰に覆いかぶさる。コアを撃たれないように。
アイリスが笑った。
『苦し紛れだね。私にそんな手段が通用するとでも? ――命理ちゃん準備して!』
『応―――ッ!!』
自由になった命理の機体が壁や天井を蹴って、どんどん加速していく。
『私にコアを手で覆うなんて初歩的な手段が、通用するなんて思ってないよね?』
『―――ッ!!』
慌てたシュネの機体の頭のカメラに、アイリスの機体の拳が叩き込まれた。
カメラが壊れ、シュネの情報が一気に奪われた。
『シュネ。私達の最大の弱点、視覚情報――去年は、よくも奪ってくれたね』
『―――意趣返しなんて!!』
その間に、命理が準備を終えた。
『アイリス、いくよ!!』
『来て!』
アイリスがシュネの機体を壁際で抱いて、拘束。
動かないように固定した。
『は、――離せ!!』
シュネが叫んだと同時、シュネの機体が背後から突き上げられた。
『ごめん、シュネさんの機体!!』
命理の謝罪の声の後、悍ましい振動がVRを通じてシュネを揺らした。
――命理の剣が、シュネのプラモデルを突き貫いて、背後からイントロフレームのコアに届いたのだ。
内部に人間がおらず、どこまでも加速できる宇宙空間だからこそ、出せる威力だった。
コアがはじき出される程の攻撃を受けて、シュネのイントロフレームが、まるでただの人形に戻ったかのように動かなくなった。
シュネの戦士は死んだ。
VRから切断されたシュネがうめいて、目の前の手すりを握った。
「―――参った」
シュネは静かに、アイリスにも聞こえない声で呟いた。
こうなれば、もう3vs1。――勝負は決した。
ハイレーンの3年生は、たった一人にされたとは思えない程の善戦を見せたが、流石に勝利は出来なかった。
こうして帝立ユニレウス学院は、この年のソルダート全銀河大会の優勝を手にしたのだった。
表彰台で、シュネがアッシュブロンドを振り乱して地団駄を踏む。
「あああああ!! 負けたよ、負け負け!!」
「ふっふっふ。ざっとこんなもんよ、2位さん」
「去年は、ボクが勝ったんだからね!!」
「じゃあ、来年」
「そうだね、ボク達の最後の大会・・・・そこで決着をつけよう」
「うん!」
二人は握手を躱し、大会が終わった。
試合が終わり、アイリスたちは控室に戻る。
アイリスと命理は抱き合って、遂に手に入れた優勝を、噛み締めた。
「観てくれてたかなあ、コウヤ部長」
命理、ネモ、海斗が、嬉しそうにトロフィーを掲げるアイリスを微笑ましく観ていると、コーチの先生が飛び込んできた。
「お前ら・・・大変だ・・・・タカモリ・コウヤが―――死んだ」
「―――え?」
トロフィーが落下して、砕けた。




