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381 罠


 アイリスたちの前に、囮のデブリが目にもとならぬ速さで突っ込んできて奥の壁に衝突した。

 海斗が微動だにせず、敵の(ふね)の艦首を睨む。


「アイリスの言ってたデブリ到着」

「次が本命」

「狙撃ならネモちゃんに、任せなさぁい♪」

「ネモ、貴女が真っ先に狙われるから注意。だけど、どこを狙ってくるのか分かってるのは、メリットにもなる」

「私、囮かあ――そういえばアイリスと初めて会った時も、囮作戦に負けたなあ」


 アイリスの忠告にネモが楽しそうに答えると、海斗が叫んだ。


「来た、みんな一斉射撃!!」


 浅い十字砲火が、ハイレーン学院の選手たちに襲いかかる。

 ハイレーン学院のメンバーは、矢じりのような形の陣形でデブリを盾に突っ込んできて、すぐさま拠点設営に掛かる。


「させるか――!!」


 海斗が吠えて、ユニレウス学園の全員で砲火を浴びせかかるが、ハイレーンの学院の防衛は崩れない。

 しかし、アイリスが弱点を見つける。


「上に隙間がある、僅かな隙間だけど――」


 だが、その隙間はシュネの誘いだった。

 シュネがハイレーン学院の生徒に、作戦開始を伝える。


「上の隙間を狙って、向こうの最強戦力、〝命理〟が飛び込んでくるよ―――ッ!!」

「ラジャ!!」

「部長、そこを撃ち落とせば良いんだな!!」

「いつでも来なさい!!」


 全員が〝右手側〟にいる命理を警戒し、銃口を向けた。

 だが、()()は〝左手側〟からきた。

 シュネの目が見開かれる。


「――え」


 ()()()()が来た!?


(そんな馬鹿な、彼女の腕では、弾丸の雨の中を躱して来るなんて無――違う!!)


 シュネは、瞬く間に気づく。


(そうか――アイツは、地区大会から銀河大会まで、ずっと罠を仕掛けてたんだ!!)


 シュネの顔色が悪くなる。


「戦う前に君に負けていたなんて、認められるものか!!」


 アイリスは確かに去年より強くなっていた。シュネは「随分努力したものだ」と思っていた。


 「尋常の努力では、あそこまでは強くなれない」と。


 だが、アイリスの成長は尋常の努力では無理だと称したシュネすら想像し得ない物だったとしたら。


 シュネは当然アイリスの試合は全て観てきた。しかしこのライバルはこの決勝まで、隠し続けていたのだ。

 どれだけピンチになっても、決して懐の剣を抜かなかった――肝心の情報を見せようとしなかった。

 ここまでのアイリス達の試合――危ない出来事が何度も有った。

 ――だがアイリスは、全て味方との結束と指揮だけで乗り越えてきた。


「なんて奴―――ッ!!」


 アイリスは全てを、この一戦に賭けて、その実力を決して明かしてこなかったのだ。

 なんて賭け。

 なんて無茶。


 けれどこの賭けは、もう一つの事実を明白にしてくれている。


 アイリスのシュネに対する評価だ。

 ここまでの無茶をしなければ、ギリギリの綱渡りをしなければ、シュネに勝てないというアイリスの判断。


 シュネが、嬉しそうに笑う。


「いいよアイリス! そうまでしてくれるなら――受け取るよ、その気持。そしてがっかりさせないことを誓うよ!!」


 突っ込んでくるアイリスに気づいたハイレーン学院のメンバーが、アイリスに集中砲火を射掛ける。

 だが彼らの使う弾丸を、アイリスの操る十六夜テイルが回転して躱す。


「なんだよあれ、弾丸を避けてるぞ!?」

「宇宙で、なんて正確無比な動きをしてやがるんだよ!!」


 アイリスは弾丸を回転で躱しながら――さらに先程ハイレーン学園が囮として投げ込み、宙をさまよっていたデブリを掴んで、盾にして突っ込んでくる。

 すると、シュネが前にでた。

 それを観たハイレーン学院の一年生が慌てて叫ぶ。


「何やってるんですか、部長!! ――まさか、アイリスと一騎打ちをするつもりですか!? 今、向こうの陣に入ったら敵の銃口が向いているんですよ!? そんな場所で一騎打ちなんて無茶だ!!」


 心配する1年生――だが3年生は違う、


「いいや、シュネなら考えがあるはず!」


 信頼の声を挙げた。

 ハイレーン学院の3年の言葉の言う通りだった。シュネはアイリスに――向かわず、無視。

 アイリスと同じく弾丸を躱し、持ってきたデブリを盾にしながら――さらに、背中にあった銃を隠し腕で銃を取り出しネモを狙撃。


「隠し腕――!? 不味ッ」


 ネモは一機しかないロケットでは避けきれなかった、応戦するがアサルトライフルでプラモの装甲を剥がされ、コアを撃ち抜かれ撃墜されてしまう。

 ――しかしアイリスも、シュネの背後でハイレーン学院の一年生を1人、撃墜していた。


 アイリスが頭を掻きむしろうとして、VRヘッドギアで邪魔されながら歯ぎしりする。


『シュネ、やってくれる!! ああもう、予定が滅茶苦茶だよ!! せっかく初戦からギリギリの戦いで決勝まで来たのに――その作戦の成果が、ただの1-1交換とか!! ――てか、隠し腕とかあったなんて!』

『決勝まで来れるかを左右するような、そっち程の秘密じゃないけど――こっちも最後まで君の為に秘密を用意してきたんだよ――それが1-1交換とか、たまったもんじゃない!』

『――だけどシュネ、あんたは自陣に戻らせ――いいや、そうか!!』

『そう、戻ったりしない! 陣地のプレゼントを貰いに来たんだからね!!』


 シュネは戻らず、逆に敵陣の奥へ潜り込む。

 そうしてドアの向こう、格納区画に入り込んだ。


『面白い、そこで私と一騎打ちをするつもり!?』

『ボクだってイントロフレーム操縦者としての努力を続けてきた、それを見せてあげる!!』


 十六夜テイルの白鞘の刀とフェイテルワンダーのグラディウスがぶつかり、火花を散らせた。


 格納庫の手前では〝命理と、ハイレーンの1年生〟〝海斗と、ハイレーンの3年生〟も激突していた。

 命理がVRヘルメットの中で、冷汗を垂らす。


「この1年生、強い・・・!」

『このポール、天才タカモリに匹敵するって言われてるんだ! 命理さん、アンタにだって負けない!!』


 海斗が通信で、ハイレーンの3年生の女子生徒に挑戦状を叩きつける。


『去年はやってくれたな! 借りを返すぞ、ジルベール』

『今年も同じ結果ですよ、海斗さん!!』

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