380 二人の策略家
進む戦艦の甲板で腕を組んだ、十六夜テイルを操るアイリスが、3人に更に詳しい説明をする。
「流れはこう、」
アイリスは、3人のVRにウィンドウを出して、指を3つ立てて一つづつ折っていく。
「1.こちらの遮蔽である戦艦と、向こうの遮蔽である戦艦同士を衝突させる。これで互角の状態――いや、コッチが有利な地形になる。
2.戦艦内で室内戦を開始。
3.こっちの陣を譲り渡す。
あとは一人削って、人数差で押していく」
「譲り渡す? 有利な陣を?」
「そう。最後はこっちの地形を、相手にプレゼントする」
「アイリス。お前、ソルダートは有利な場所を取り合う陣取りゲームだって、前に言ってたよな? いくら一人削っても・・・・」
「だからこそ地形は餌になる。古い言葉にこうある。戦においてチャンスは地形に敵わない、地形は人の団結に敵わない。ならば地形を餌に、敵の一人を取れれば僥倖。結局は人を取るために、地形を利用するんだから。なら地形は餌として、最大限に利用させて貰う」
「ザコせんぱい♥ 相手は冗談抜きに強いんですよ。『肉を切らせて骨を断つ』って言葉、知らないんですかぁ♥」
「マウント取ってんじゃねえよ、クソビッチ!!」
アイリスが敵陣を睨みながら、思考し続ける。
(だけど、こんな作戦はシュネにはバレている。地形をプレゼントしただけでこっちは、なにも得られず終わる可能性もある。最悪、こっちが一人持ってかれる可能性すらある)
アイリスは、幾つもの盤面を思い浮かべた。
このシュネという相手には盤面を一つに絞れない、シュネ以外なら相手を操って絞れる。
でもシュネだけは、そんな生易しい相手じゃない――どんな盤面になっても対応するしか無い。
アイリスが唇を切り結ぶ。
「だけど、勝ってみせる――コウヤ部長のために」
(コウヤ部長、観てくれてるかな――観客席にいなかったけど―――きっと、観てくれてるよね?)
回転しながら進んだアイリスの陣の戦艦が側面中央を、シュネの陣の戦艦の先頭にぶつけた。
敏感な無重力で正確にぶつけるため、緻密に計算しつくされた軌道で衝突させられた。
アイリスの陣の戦艦の腹にシュネの陣の戦艦が突き刺さり、フィールドがT字になる。
これはシュネの側に縦陣を強制させる。縦の陣は突破力こそあれ、各個撃破される可能性がある。
ただもちろん、戦艦の外から回り込んでも来れるが、
「遮蔽物のない宇宙空間を進んでくるなら、それこそコッチの思うつぼ――たとえデブリを盾に使って侵入しようとしても、入ってこれる場所は一箇所――どちららにせよ、相手の不利は確定」
こうして、アイリスとシュネの激突が始まった。
『各選手、前後左右に動き回ります!! なんだこの試合の展開速度は!!』
アイリスの指示が、目まぐるしく飛び回る。
「海斗先輩、右の遮蔽物に移動して!!」
「命理ちゃん、下がって敵の射撃に備えて!!」
シュネの指示も同じく激しく変化した。
「ジルベール、ポール、射撃は中断、バレてる!!」
「ジャン、囮のデブリは用意できたかい!?」
海斗が苦しげに呟いた。
「アイリスもシュネも、反射神経で反応するみたいに指揮を変更し続けてやがる。命令についてくだけで、VRから伝わってくるGが酷くて、ゲロ吐きそうだ」
「ザコ部長、VRヘルメットの中でゲロとか止めてくださいよ♥ 誰が掃除すると思ってるんですか ♥」
命理が機体を天井に張り付かせ、獲物を狙う目で敵の船首を睨む。
「ずっと読み合い、騙し合ってる。その上、秒も掛からず相手の罠を見抜く――どの罠も知恵の輪を解くみたいな話なのに」
ネモが呆れる。
「つまりアイリスとジュネはずっと、知恵の輪の解法を反射神経みたいな速度で見つけてるって訳? 思考って遅いものだよね? ならこの二人、もう人間じゃないよ」
海斗の困惑の声が、通信に響いた。
「まるで互いの陣の動きが、ボクシングだぞ。ジャブジャブ、ストレート、スウェーって。どっちも本命を一発も食らわねぇ」
『両軍、まるで水のように自在に変化する――いやこれはもう濁流だ、激しい動きで相手を近づかせない!!』
ネモが狙撃に成功、相手の1年の頭のコアが外れだと明かす。
しかし、ネモも被弾、同じく頭のコアが外れだとバレた。
アイリスは歯噛みした。
(やっぱり、シュネには読み合いだけじゃ押しきれない。ほとんど互角で全く戦況が進まない――これは思った通り、パイロットの腕で決着をつけるしかない)
アイリスは決断する。
「みんな、正攻法じゃ決着がつかない。――全員一度下がって、さっき伝えた布陣で相手の船首を挟み込むように、左右に展開」
「いよいよ、俺達の陣地のプレゼントタイムか? 受け取ってくれるのか?」
「ザコ部長くん、大丈夫ですよ。受け取りに来ます、間違いなく♪ 向こうも、こうして遠距離で撃ち合っても決着がつかないのは理解しています。――これじゃ今日一日かけても、試合が終わらないですよ」
「いつでも来ると良い」
命理が言って正面を睨む中、シュネが楽しそうに嗤う。
「来たね。みんな、ユニレウス学園がパーティーにご招待しているよ」
「マジでシュネの言う通りにしてきた」
「そりゃあ、ああでもしないと試合が終わらないからね。もう10分近く戦ってるのに、装甲一枚ずつ、コア一個づつしか奪い合えてないとか、冗談じゃないわ」
「部長、デブリ用意できました」
「じゃあ、気休めの囮デブリを投げた後、他のデブリの影に隠れて前進。機首まで来たらデブリで拠点設営。ここがキモだよ――拠点が設営し終わるまで耐えられないと、ボク等の負けだ」
アイリスがハイレーン学院の動きを警戒しながら、皆に通信する。
「さっき言った通りだからね。相手は必ず鋼のデブリを盾に前進してくる。その間は攻撃をしても無駄だから、無駄撃ちは無し。相手が拠点設営を初めたら、一斉射撃――ここで勝負を決める」
シュネもユニレウス学院の気配を観察しながら、通信をしていた。
「いいかい、相手のウィークポイントはクリアボディの機体だ――おそらくコイツが動力を一つ失っている。しかも頭のコアがハズレってバレてる、当たりは胴体か胸――そいつを集中砲火する」
「おーけー」
「了解」
「はい!」
「じゃあ行くよ。全員、ロケット最大――ユニレウスの股間を蹴り上げろ!!」




