374 約束
ものの2秒で撃墜される、二年最強の2人。
命理は削られていく戦力を見ながら呆然とした。
「全部読まれてた。私とネモと、2年の最強のメンバー――部長を除けば部で上から順番で構成されたチームが――部長以外は、最弱の筈の3人がいるチームに負けた」
ネモも唖然としている。
「アイリス・ヤチマタ? ――なんなの、この化け物・・・?」
結局一人になったネモが勝てるわけもなく、アイリス達の勝利となった。
かくして部長の口から、アイリスの正体が明かされる。
命理とネモは、驚愕の声を挙げた。
「「シビリアンの一位?」」
命理とネモが部長の言葉に食い気味に言葉を重ねて、前のめりになる。
「それって、全銀河ナンバー1って事よね? 銀河で1番強いシビリアンプレイヤーって事なのよね!? チャンプなのよね!? なんの種類の化け物かと思ったら、――そういう種類!?」
アイリスが「化け物?」といいながら、傾いた。
そんなアイリスの隣で、部長が呆れた。
「だからさっき、言おうとしただろう」
命理が納得したように呟く。
「シビリアンって、ズルするゲームなのね。アイリスは銀河1の卑怯者なのね」
「命理ちゃん、その認識は間違ってないけど、間違ってるから」
ツッコミを入れていたアイリスに、ネモが握手を差し出した。
「私達じゃ勝てないわけだわ。全て見通されてる気がしたけど、そういう訳だったのね。でも、これはむしろラッキーかも♪」
アイリスがネモの手を握ると、ネモの表情が嬉しそうになった。
「アイリス、『認めない』とか言ってごめん。下地が有る、ちゃんとした本物は大歓迎♪」
「認めてもらえて良かったよ」
命理も、握手の手を出す。
「卑怯は嫌いだけど、勝つのは好き。そして私は好物から食べるタイプだから」
「じゃあ、まずはソルダート全銀河大会で勝とうか」
「大口叩くねー」
「むしろ、叩き付けてやんなきゃ!」
アイリスと命理も、握手を交わし微笑み合う。
「さて、じゃあもうちょっと練習を――」
部長が言い掛けた所で、監督から「待った」が入った。
「1年はここまで。明日は身体検査だろう」
「あ、そうだった」
「それがあったっけ」
「身体検査?」
「なんか中学の一年は、全帝の女子が受けるんだよ」
「ふぅん」
こうしてアイリスは、ソルダート部に入ることになった。
2ヶ月ほど経ったある日の帰り道、アイリスはコウヤ部長と二人きりになり、帰り道に小さな公園で話すことが有った。
アイリスはブランコに揺られながら、隣でブランコの上であぐらを組む部長に尋ねる。
夕暮れでも空の星は、宝石箱のように輝いていた。
「部長は、どうしてソルダートをするんですか?」
「んー?」
しばし返事は無かった。
部長は空を見上げた、そこに何かを探すように視線を巡らせて。
一番輝く星を見つけて、手のひらを伸ばす仕草をした。
「会いたい奴がいるんだ」
「会いたいヤツ?」
「そう、ロベルトって奴。幼い頃俺はソイツと何度もソルダートで遊んだ――だけど一回も勝てなかった」
「ぶ、部長がですか!? ――て、天才って言われる部長が!?」
アイリスは、策略はともかく、純粋な戦いではコウヤ部長の足元にも及ばない。
これは、部内の誰でも同じだ。
部長の強さは一線を画している――その部長が一度も勝てなかったという、相手。
「天才っていうのは、ロベルトみたいなのを言うのさ」
言って部長は、アイリスの瞳を覗き込んだ。
アイリスが首を傾げると、コウヤ部長が視線を離して、話に戻る。
「だけどアイツは、ハイレーンに引っ越しちまってさ。俺、悔しくて空港に行った時、別れの挨拶をするどころか『逃げるな、勝ち逃げするな!』って怒っちまったんだ――」
アイリスは静かに耳を傾けている。
部長は腿の上で触れ合わせた両手の指を、見詰める。
「――そしたらアイツ、言ったんだよ『てっぺんで待ってる。だからそこで会おう!』って。だから俺は『必ず行くから、待ってろ!』って、約束したんだ」
「てっぺん?」
「アイツ、高校のソルダートの大会で、去年も一昨年も優勝してる――だけど俺はこの2年間、まだ決勝にすら行けてない」
「そうなん、ですか」
アイリスは、部長がなぜ自分に拘ったが理解できた気がした。
「今年で最後だ――俺、士官校に飛び級が決まっててさ、今年の大会で決勝に行かないとアイツとの約束が守れない。それに戦争が起きている今の時代、ハイレーンとユニレウスはあまりに遠い――今年の決勝に行かないと、きっと二度と会えない」
「・・・・・・そうですか」
「だから今年こそ、アイツとの約束通り決勝まで行って――」
コウヤ部長が再び顔を挙げた。
そうして一番強く輝く星に、再び手のひらを向けて――握りしめた。
「――勝つ」
部長が握った拳を、アイリスに持ってくる。
一瞬「きょとん」としたアイリスだったが、その意味を理解して微笑んだ。
「部長を連れていきますよ、決勝まで――そして、今度こそ勝たせてあげます!」
「頼むぜ、相棒――俺はお前を信じて、ただただ前に走るから――全力で駆けるから――俺を上手く使ってくれ!」
「お任せ下さい!!」




