373 ヒキョウモノは嫌い
『了か――』
命理に襲いかかるコウヤ部長とアイリス。
さらに海斗とコタニも野放しだ。二人は、水面から狙撃してくる。
命理が、冷や汗を流す。
『不味い―――。これは流石に、キツイ』
『――命理、今狙撃ポイントを移動してるから! なんとか耐えて!!』
海斗とコタニの射撃が命理を追い回す。命理は木々を使いながら弾丸を避け、顔を歪める。
『アイリスさんが加わっただけで、海斗先輩とコタニ先輩が、すごく強くなってるんだけど! ――こんなに強くなるとか、どうなってるの!?』
ネモが、コックピットで歯噛みした。
「一対一にならない、どうして!?」
部長と人型に戻ったアイリスが、命理を左右から挟み撃ちにして襲いかかる。
アイリスが、部長に伝える。
『向こうチームの2年生が来るまで最速であと8秒。それまでに命理さんを撃墜するよ』
アイリスが通信を通じて言ったこの宣言に、命理が反応した。
『8秒くらい、耐えられるに決まってるでしょ!?』
『私から8秒も耐えるなんて、大口叩くね』
『8秒〝も〟!? ――8秒程度よ!!』
『では部長、お伝えした通りよろしく』
部長が、命理に襲いかかる。部長の剣を命理は、自機の寸前で受け止める。
だが、今度は背後からアイリスの剣が襲いかかる。
アイリスの方に振り向けば、部長が背中から襲いかかる。
部長とアイリスの攻撃は、まるで群狼の戦術だ。
さらに隙を見せれば、海斗とコタニの銃撃。
少しずつ剥がされていく、命理のイントロフレームのプラモデル装甲。
『背中からばかり・・・厭らしい。それでも、きみは貴族なの!?』
『私、平民なんで~』
ここで、命理とアイリスの戦いを観ていたネモが毒づく。
『あのアイリスって子! 個数制限のあるパーソナル動作に、トリッキーな動作ばっかり用意して! なのに、なんで全部使ってるのよ! ――なんで私達の行動が、最初から分かってたみたいに、使い切ってんのよ――ドンピシャな動作ばっかり入力してんのよ!! ・・・・使い切――まって――そうよ!』
ネモがここで気づいた。
『命理、相手が手の内を全部明かした!! ――ソイツは、アンタの得意な袈裟斬りに対しては後ろに飛ぶしかない! 袈裟斬りから突進の突きを入れれば、コアごとぶち抜ける!!』
『な、なるほど、分かった!』
「貰った」ネモはそう思った。
アイリスさえいなくなれば、後はいつもの部長と海斗&コタニのトリオ。
イントロフレームが稼働しなくなった選手の声は、チームメンバーに届かない。アイリスは指揮を続ける方法が無くなる。
アイリスの指揮さえなくなれば、あのトリオには毎回勝ってきたのだから。
ネモの視界で、命理のイントロフレームが袈裟斬りを仕掛けながら突進していた。
『よし、勝―――・・・・なんで!?』
アイリスが後方宙返りしながら、命理の剣を蹴り上げた。
突進してくる命理が、アイリスの下を走り抜ける。
さらにアイリスは、命理の剣を空中で掴んだ。
驚くような正確な動きだが、それより何より、この動きは今まで見せたことのない動きだ。
21個目のパーソナル動作。
『コ、コイツ――なにかプログラムに細工して!! 監督――アイツは反則――』
ルール違反を突きつけようとするネモだが、監督のジャッジは――
『いいやネモ。問題ない、アイリスは戦いながら動作パラメーターを入力していた』
『た、戦いながらァ!? ――そんな馬鹿な、あんな正確かつ、複雑な動きを戦いながら入力したっていうの!? ――しかも、命理が袈裟斬りで突撃してくる事を読んだ上で!?』
命理も、驚愕するしかなかった。
『なんなの・・・・このアイリスって人・・・』
しかし、命理もしぶとかった。
予備の剣を取り出し、あっさり8秒耐えてしまう。
アイリスが舌打ちをして、続ける。
『不味い・・・部長一旦距離を取らないと、敵の増援が――左側から、』
『どう!? ヤチマタさん! 私は、8秒ちゃんと耐えたわ!!』
ここで命理は安堵した(自分は耐えきった。二年最強の2人を加えた3対4なら、この窮地を抜け出せる)――そんな安堵が、いけなかった。
アイリスは残酷に告げる。
『来ないよ』
『え?』
命理はアイリスの言葉の意味が分からず、瞬きするほどの時間、脳がショートしたような感覚になる。
その刹那―――命理の胴に部長の剣が炸裂、プラモの装甲が弾け飛ぶ。
すると、アイリスが放ったプラ弾がコアに炸裂。
命理が操作するイントロフレームの動力が、止まった。
アイリスが自ら撃墜した、命理に語りかける。
まだ僅かな時間、通信は切れない。
この時間をソルダートプレイヤーは、絶対時間とか、煽りタイムなどと呼んでいる。
『そっちの増援は、最速でも10秒掛かるんだよね』
『10秒!? さっき8秒って――騙したのね・・・!!』
到着した2年二人の前に、敗北判定の命理。
彼らを無視して、アイリスは命理に語りかける。――勝負は決したとでも謂わんばかりに。
『だから言ったじゃん。私を信じちゃ駄目って――戦いはね、正確な情報を得ることが一番大切なの。でないと道順も分からないで目的地に向かうような物だもの。だからこそ不正確な情報を与えるのが一番効率的。戦いはいつだって、初めて行く場所に向かうもの。――なら初めて行く場所に、別の場所への道順を教えられたら、辿り着けないでしょ?』
『ず、ずるくない!?』
『戦力を覆すには、奇襲でもなんでもズルい事しなきゃ』
『卑怯者! アイリスさん、大っ嫌い!!』
『策ってのは根源的に卑怯なものだから、あまり拗ねないで。私は正々堂々で一生懸命な貴女のこと嫌いじゃないよ、命理ちゃん』
2年最強の二人がうなだれる。
『・・・命理』
『間に合わなかったか』
『部長、左へ』
『おう』
アイリスと部長はすぐさま2年二人の斜め後ろに回り込み、包囲する。
2年二人に、背後から残酷な射撃が襲う。
『無理だ、こんなの!!』
『ごめん、命理、ネモ!!』




