表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

369/468

371 謀

「命理・・・ちゃん・・・?」

「正々堂々、教えてくれてありがとね。でも注意して、戦いは騙し合いだから。私を信じちゃだめだよ、命理ちゃん。海斗先輩とコタニ先輩が最弱だって情報も、疑うべきだし。―――時給800クレジットの為にも、私は負けるつもりはないから」

「まあ、こっちも負ける気はないよ。誇りに懸けて」


 こうして、アイリスの入部を掛けた戦いが始まった。

 フィールドは森と湖と河と崖がある、よくあるフィールドが選ばれた。

 過去の女子先輩が残していった、本物の木が盆栽のように生え、水も湧き出しているテラリウムのような見事なフィールドだった。ちなみに木々の幹にはプラ弾が当たっても傷つかないように、ダイラタンシーによる防護が巻かれている。

 アイリス、コウヤ、海斗、コタニが開始位置に着いた。

 アイリスは、フィールドと相手メンバーの情報を見つめ続ける。

 目と、指を素早く動かし、ゲームを解いていく。


 しかし部長はアイリスの機体を観て、少し訝しがる。


『アイリス。無重力ステージで対戦する時に使う、小型ロケットスラスターを背負っているように見えるんだが?』

『うん、必要だと思ったから』

『その機体は確かに空を飛べるが、小型スラスターなんかで重力下を飛んだら、またたく間に燃料切れになるぞ。それは無重力で小刻みに使う為のスラスターだ』

『飛ぶのは、プロペラで飛ぶよ――』


 アイリスは部長に返事をすると、自チームのメンバーに説明を開始した。


『部長、海斗先輩、コタニ先輩。まずは作戦の前提を、話しておくね』

『ん、なんだ?』


 アイリスはゲームを解きながら、部長の問いに答える。

 ただ返事はしているものの、その姿は自動で答えるコンピューターの様であった。


『この戦い、3対4になる』

『どういう意味だ?』

『私は、このイントロフレームっていうのを初めて操作するから戦力外って事。VRで操縦桿を握るとか初めてだし』

『なるほど』


 すると、海斗が悪態をつく。


『うっげぇ、そんなの勝てるわけねーじゃん。部長、俺、コタニが組んだら、4vs4でも今まで勝ったこと無いのに。俺等一回も命理とネモに勝ってないし、部長vs命理ネモ、2年最強の二人の、実質1vs4じゃん』

『そうとも言える』


 肯定したアイリスの言葉に、海斗が涙声になった。


『ちょっとは否定しろって1年生。2年生を虐めるのはよくないぞ!』


 コタニも涙を流す。


『今年の1年は、どうしてこう2年に優しくないんだ』


 アイリスは二人の様子を気にしないで、言葉を続ける。


『そして作戦だけれど。古来から、数的劣勢を覆す方法は限られている。それはつまり――』

『奇襲か』


 部長が、アイリスの言葉を先に続けた。

 ここまでは、タカモリにも思いつく話だ。


『そう。奇襲を仕掛けるしか無い。命理先輩とネモ先輩は、先程の試合では奇襲に対して無警戒だった。けれど今回は、私の情報が敵に知られている。だから――』




 アイリスが味方に作戦を説明している間に、ネモもメンバーに考えを共有していた。


『というわけで、部長以外は脅威じゃない。他の相手は、インフレを初めて操縦する一年生に、私たちに一度も勝った事が無かった海斗先輩と、コタニ先輩。――なら、これは実質1vs4。せんぱいくんか、コタニ先輩か、一年生か。どこか一箇所が、隙を見せたらそこを潰す。そこから手薄になった場所を順に潰していけば、いつも通り部長が一人になるんで、囲んで終わりよ♪』

『今回も、簡単に勝てそうだね』


 命理の言葉に、ネモが首を振って返す。


『油断しないで。さっきは私と命理が油断したから、海斗先輩くんとコタニ先輩に負けた。だけど今の私達は、ヤチマタって子が何かの作戦を使ってくる事が分かっている。そんなアドバンテージは、油断すれば無くなる』

『なるほど、そう言われると、そっか』

『けれど、どちらにせよ――不利を覆すのはいつだって〝奇策〟よ♪ 奇襲さえ警戒すれば良いの』


 ネモチームの、2年の二人組も返事をする。


『わかった、任せろ。俺たちだって、ポッと出の下級生に負けるわけに行かない』

『うんうん』


 命理も頷いた。


『了解』




『――なんて、向こうは考える』

 アイリスは、メンバーに通信を続けていた。

『なに・・・? ――アイリス、つまりはどういうことだ』

『相手の考えは、今言った通り〝奇襲〟の警戒。だから、私達は正々堂々真っ向勝負で行く』

『おいおい。俺たちの味方は、海斗とコタニとお前だぞ。ネモと命理相手に、真っ向勝負だと勝負にならない』


 するとアイリスがお礼を言った。


『部長、戦闘機の操縦マニュアルありがとうございます。全部覚えました。本棚に返しときました』

『は? 全部覚えたって、10分前に渡したテキストだぞ? あの戦闘機のテキスト、詳しい航空力学や航宙力学、果ては戦闘機の歴史や実戦例まで載ってて、ちょっとした辞書一冊分はあるんだぞ』


 海斗とコタニが、アイリスの言葉に驚く。


『え、うそ』

『俺たちイントロフレームの操作マニュアルすら、全部読めてないのに』

『お前らは、さっさと読め』


 コウヤは海斗とコタニにツッコミを入れてから、アイリスに訊ねる。


『本当に憶えたのか?』

『はい』

『なら試すぞ? ちょっと待て、』


 コウヤがVRにテキストを呼び出す。


『581ページ、5行目から』

『ブラウンアウト。砂漠などで起こる現象。砂塵などを巻き上げる事で起こる視界不良。また機体が砂塵を吸い込む事により、機動性を著しく失う危険性や、動力停止の可能性もある危険な状態。交戦中ブラウンアウトを起こした場合、事故や墜落は30%以上に及んでおり――』

『オーケー。お前・・・・マジで全部憶えたんだな』


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ