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369 雇われ部員

 驚いたのは命理だけではない、コタニもだ。


「は? なんだこりゃ」


「うそっ、なんで命理がコタニ先輩なんかに撃墜されたの!?」


 慌てたネモがコタニを狙撃しようとするが、彼女は2対1の不利をもろに喰らう。

 コタニと海斗は同時に、ネモへ接近戦を挑んだ。

 接近戦が苦手なネモは、瞬く間に撃沈。


 鮮やかな海斗とコタニの勝利に、勝利した本人たちも、敗北した1年生コンビも――観戦していた人間も、コウヤも、監督すら唖然としていた。


「―――嘘だろ。海斗とコウヤが、ずっと勝てなかった命理とネモに、あっさり勝っちまった。・・・まじかよ」

「命理さんとネモさんは、一芸に尖っているだけで、その他は弱点だらけ。尖った物はひっくり返すと、簡単に転ぶ。そういう話」

「どういうことだよ!?」

「ただの意趣返しの囮作戦。じゃあ、私はこれで」

「まて、アイリス!」


 また、コウヤがアイリスの腕を握る。

 しかも今度は両腕だ。


「・・・あの」


 何度注意しても繰り返される行為にアイリスはジト目をコウヤに向けるが、コウヤは鋭い視線が突き刺さっているのに、気にもせず告げる。


「アイリス、お前が欲しい!!」


 廊下でコウヤの口から突然放たれた告白のようなセリフに、アイリスはパーティー用のクラッカーで不意打ちでも食らったような顔になった後、――真っ赤になった。

 部室の外にいた観客達もアイリスとコウヤに、何事かと視線を送った。

 アイリスは感情の制御ができなくなって、言葉を忘れる。


「な、な、な―――っ?」

「頼む、ソルダート部に入ってくれ!!」


 ああ、そういう事。と、アイリスの頭が一気に冷静になる。

 コウヤの握力が強くなった。


「―――い、いた――」


 コウヤは、思わず鼻声になったアイリスに気づいて慌てて手を離す。


「ご、ごめん。でも、頼むから入ってくれ!」


 アイリスは自分の手首に残る熱さに、ため息を吐いた。


「――そこまで言うなら。――でも、条件が有るんだけど」

「条件?」

「お給料ちょうだい」

「・・・給料?」

「これでも平民出身で、アルバイトしてるんだよね。その時間を削るなら、お給料ちょうだい」

「今、いくら貰ってるんだ?」

「一時間で400星団クレジットほど」

「なるほどそうか、じゃあ一時間で800クレジットでどうだ?」

「本当!?」


 因みに400クレジットは日本円にして4000円だ。――一時間で4000円。既にかなり割がいいバイトなのに、その倍だ。

 アイリスは心の中で思った(コレは凄く割が良い。さすがは貴族のボンボンだ)と。

 家庭教師のアルバイトをして、もう同い年の貴族のクソガキに、勉強を教える必要もない。


 ちなみにアイリスの言う同い年のクソガキは、貴族でないアイリスを汚らわしい平民と馬鹿にするタイプの貴族であった。

 ただし彼は外面(そとづら)だけは良く、人前では決して本性を見せない。

 しかし裏ではアイリスに種々様々な嫌がらせをしており、アイリスに「クソガキ」と言われるのに十分な資格を有していた。


 また他にも、アイリスという最高の家庭教師の力をまったく理解しておらず、自分が優秀なのは才能だと鼻にかけていた。


 アイリスをただの頭でっかちな愚か者だとすら思っていた。

 それでもアイリスにとっては、家庭教師のアルバイトは割が良かった。

 だからアイリスは渋々続けていたが、コウヤがより良い条件を提示したことで、あっさり止める決断ができた。


 「Mr.クソガキにはなんの未練もないし、義理もない」、と。


 この事だけでも、アイリスはコウヤに感謝し尽くしたいほどだった。

 ちなみに後々の話では有るが、Mr.クソガキと呼ばれた人物はアイリスという家庭教師を失った事で、成績を一気に落とし落ちこぼれて行く事となる。

 そのせいで、親から散々罵られる事になった。

 するとMr.クソガキは自分のかつての行為も顧みずアイリスに、「戻ってこい」と命令したり、「お前は義理人情を知らない、恩知らずか!」などと罵倒したり、「お前を襲わせるぞ!!」などと脅迫もした。

 するとアイリスはあっさりポリスに連絡した。


 外面だけは良かったMr.クソガキは女性を脅迫したことで、前科までついて立場を失って行くのだが――それは、また別の話だ。


 閑話休題。


 アイリスがコウヤに勢い込んで返事をする。


「い、一時間で800クレジット!? それで!!」

「よし、じゃあこれから頼むぞ」


 こうして、アイリスはソルダート部に入部する事となった。


「じゃあ、部員にアイリスの事を紹介するぜ。着いてきてくれ」

「そういうのは、別にいらないですけども」


 監督、コウヤ、アイリスの順に並び、部員12名の正面に立つ。


 ネモが尋ねてきた。


「ブチョー。誰ですかぁ、その子」

「新しい部員、アイリス・ヤチマタだ。さっきの試合で俺は海斗とコタニに3つ命令しただろう?」


 海斗とコタニが頷く。


「あ、はい」

「俺が下へ展開。3秒後コタニを上へ展開。俺は5秒後、適当に発砲」


 海斗が部長からの作戦を口にすると、ネモが膨れた。


「なるほど。あの囮作戦のやり返し、ブチョーが考えたんですか。――なんですか、せんぱいくん。部長の力を借りるなんて、ヒキョーじゃないですか。ザコからヒキョー者に変態ですか?」

「っさいなぁ、たった3っつの命令だろ」

「そりゃ、うちの部サイキョーなブチョーの力を借りれば、ザコな海斗先輩くんでも勝てますよね。ヒキョー者、ヒキョー者ぉ。私はザコ先輩じゃなくて、ブチョーに負けたんですね。安心しました」


 すると、コウヤがネモの言葉を否定する。


「いいや、俺は力を貸していない」

「なに言ってるんですか、実際ブチョーは命令してるじゃないですかぁ」

「俺が作戦組んだだけで勝てるなら、もう沖田とコタニはお前らに勝ててるだろう。――力を貸したのはこっちだ」


 コウヤはアイリスの背中を叩いて、前に出した。

 ネモが、半眼を鋭くしする。


「はぁ? この子が?」

「作戦を考えたのはコイツだ。それもたった3つの命令で、海斗とコタニを勝利させた」

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