352 オーダーします
私の前に2つのウィンドウが開く。
見た感じ、大陸の真ん中の方の人かな?
私は、翻訳機をオンにした。
戦闘機は――音子さんが乗ってる、三角形の機体と同じ。
DA‐49 デルタエースって奴。
このデルタエースの着眼点は、どうせ人型で離着陸するんだから、可変翼なんていらないじゃんって感じで可変翼機構を取っ払った機体。
ただ真横に翼を伸ばす形のテーパー翼がないから、運動性(空戦機動の力)はスワローテイルとかにちょっと劣る。速さはスワローテイルとほとんど互角。可変翼をオミットしたかわりに武器を積んでいるから、火力は高め。
私が〈発狂〉デスロのお供に選ばなかったのは、ちょっと大きいから。
『シャンだ。こんにちわ』
『パンよ、よろしくね』
私とマイルズも、相手にウィンドウを開く。
「よ、よろしくお願いします。スウです」
『合衆国宇宙軍のマイルズ・ユーモアだ。よろしく頼む』
『マジで、スウとマイルズだ』
『すっご。後で握手してもらいたいわ。私達まだ初めてそんなに経ってないから、着いていく感じでお願い』
『了解、リーダーはスウでいいか? そちらはそちらで分隊を組んでくれ』
でもシャンさんとパンさんには、分隊の意味が分からなかったみたい。
『分隊?』
『分隊って何かしら』
上空に飛びながら、マイルズが二人に手短に説明した。
説明を終えて、マイルズが二人に尋ねる。
『しかしお前たち、この部隊に選ばれるのだから腕は良いのだろう?』
『仲間からは雷光の槍と、雪崩の剣と呼ばれているけど。俺が雷光』
『私は雪崩』
「すごい、二つ名が有るんだ!!」
『お前にも有るだろう。狂陰という二つ名が』
「それは二つ名ではなく、悪口っていうんだよ」
『二つ名などそんな物だ。ボクの蒼き精霊だって、不健康で女々しい見た目を揶揄したものだからな』
「え、そうなの!? すんごい綺麗で羨ましいって思ってたのに」
❝悪口がやがて、敵には恐怖の象徴になっていくのが二つ名なのかな?❞
❝まあ相手がMoBの場合は、恐怖にならないだろうけど❞
❝銀河連合には、狂陰が頼もしく響いてたりしそう❞
「そっか。私が小学生の頃に言われてた『キモい』とか『おもらし』とかもやがて」
『それは涙を拭いておけ』
私は眉尻を下げたブタさんみたいな顔で「ショボーン」とした。
『見えてきたぞ、レーダー施設だ』
まだだいぶ距離があるけど、カメラで拡大すると、見えてきたのはでっかい玉みたいなの。
森を切り開いた基地の中央に、高いタワーみたいな物の先っぽに丸いのがくっついてる
「あれ? お皿みたいな形じゃないんだね」
『何時の時代のレーダーだそれは、よしアタックを開始するぞ』
「うん。あ、敵の戦闘機が出てきたよ」
向こうも4機。
ジェットエンジンが後方に十字に配置された、マッシブな見た目な機体。
バルクが、キレてる。
あと、なんだろう。コロンビアの遺跡から発掘された、黄金シャトルって奴みたい。
オーパーツって言われてる奴。
コックピットは地球の戦闘機みたいな感じ。
床も有るし、計器もある。
『相手してやるか。スウ指揮を頼む』
「じゃあ全機、ここからさらに上空に向かいながら散開。私とマイルズが左上側から攻めるから、シャンさんとパンさんは右上から挟み込んで。降下しながら攻撃したら勢いを殺さず上空に戻って――まずはドッグファイトとかせずに、一撃離脱で行こう」
『分かった』
『なるほど』
『良い指揮だ』
私は散開しながら、手始めにコンパクトミサイルを放つ。
マッシブな敵戦闘機に向かって尾を引いて飛んでいく、無数のミサイル。
多分、命中する軌道だ。と私が確認していると、マイルズのウィンドウが急に開いた。
『まてお前!! この距離で、どうやってロックオンした!?』
「え」
❝『え』、じゃねぇ!!❞
❝俺たちには、ロックオンポイントすら見えない距離だよワロwww❞
❝相変わらずイカれ切ったAIM力www❞
❝あ、一機撃墜した❞
❝FLのミサイルって地雷武器だよな? あれ、俺がおかしいの?❞
❝お使いの脳みそは正常です❞
オーク戦闘機が、火と煙を撒き散らしながら太めの赤いシャープペンみたいになって森林に消えていく。
中のオークは脱出したみたいだ。
オークっていうから、まん丸いブタみたいな見た目なのかと思ったら、すんごい筋肉質。
顔も悪くない。
見た目が人間っぽくて、心理的にちょっと戦いづらいな。キューピィも人型だったし今更か。
『まあ、とにかくナイスだ。これでボク達が、圧倒的有利に立った』
❝あ、敵機が全部逃げていく❞
❝空中戦だし、基本1機やられたら逃げるわな。空中戦では数的有利が覿面すぎる❞
空中戦は本当にそうなんだよね。すべての戦闘機が互いに交戦可能な場合、数のパワーに2乗のバフがかる。
FPSゲーマーニキにとってはお馴染みの法則、いわゆるランチェスターの第二法則。
例えば10対9で両方相手の一人を集中攻撃するとすると、9人側はさらに人数差を広げられ、その差はどんどん大きくなって、最終的に9人側はボロ負けするという法則。
だからなのかランチェスターさんは、空軍力の強化を説いた。
『戦争は数だよニキ』って、『オードリー』のパパも言ってたし。
逆の発想もあって「少数側は一点突破――各個撃破を狙うしか逆転の目がない」という理論にもなる。ただ、多数側も各個撃破してきたら結局ボロ負けになる。
『追うか?』
シャンさんが尋ねると、マイルズが返した。
『いや、別の部隊が出てくるみたいだ。今度は8機か。こっちの危険性を認識したようだな』
私は〈臨界励起バルカン〉でピッピッピと撃つ。
3機撃墜できた。
『お、お前・・・・もう、呆れて声も出ない。戦闘機でランチェスターの第二法則を無視するな』
❝スウが、とうとう摂理にまで喧嘩売り始めた❞
❝ランチェスターさん涙目ワロw❞
❝勲功ポイント1位のマイルズが、唖然としてるぞワロw❞
❝スウに掛かったらオークでも、ハーピィとそんなに変わらない相手なのなwww❞
❝そもそも上位勢が出張ってくるクエストでも無いのよね。しかも上位勢の中の上位勢であるランカーがいると、こうなってしまうわよね❞
❝今度は逃げないみたいだ、さっき退いた3機と合わせてこっちに来る同時に12機か❞
❝小隊を組み直して、向かってきてる❞
私は作戦を伝える。
「じゃあ全機、急降下しながら攻撃開始!」
『ラジャ』
『お、おう』
『了解よ』




