350 62層の攻略を開始します
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上層攻略を初めて体験した数日後、ただいまマイルズとスマホで通話中。
『62層は惑星下環境で、オークメインだ』
オークといえば、ブタ顔をした人型モンスターだっけ。
『個体数は少ないがゴブリン、コボルトの上位だ。個体数が少ないと言っても、地球人より多いが。――恐ろしいのは、かなり高度な機体を使ってくる所だな』
そういえばブタって、メチャクチャ頭いいって訊くなあ。
「高度ってどのくらい?」
『黒体のないバーサスフレームだと思っていいが、時折銀河連合より高度な科学力を使った機体を持ち出してくる。技術開発が得意らしく、ゴブリンやコボルト、あとトロールに技術を提供しているのは、オークらしい。俺も62層の攻略は大々的になるらしいから参加するんで、パーティーを組むか?』
「あ、それは嬉しい。明日の62層の攻略の時、みんな忙しいんだよね」
アリスは仕事だし、リッカは親戚に新年の挨拶。命理ちゃんは体のメンテナンスって感じで。
『とはいえ、スウ。はっきり言うぞ。今回の攻略、ボクとお前は過剰戦力だ』
「え、そなの?」
『上層の攻略には、ボス戦に参加しないようなメンバーが沢山集まってくる。ボクたちのような上位勢は見向きもしない』
「そなのかあ・・・・」
『というわけで、どちらかと言うと初心者達を守る戦いになるかもしれない』
「わかった」
『では明日、62層で会おう』
「うんー」
その日、私は早めに、62層攻略に使うという連合の戦艦オリビアにワープした。
戦艦オリビアは、陸地がほとんど緑一色の惑星ジャラルグの衛星軌道に待機していた。
私がまだ閑散とした格納庫で、フェアリーさんで平泳ぎをしていると、マイルズが来た。
私、生身じゃ泳げないんだよね。バーサスフレームはエンジンがあるから行けるけど。
『何をしているんだ、お前は』
「この間、バーサスフレームで泳ぐことが有って、ちょっと練習しておこうかなって。――あれ、今日はインビシブルでも、ブルースカイでもないんだ?」
『ああ。お前達クレイジーギークスが篇世機や、ビスカムアルバムで強化されて行っているからな。流石にインビシブルやブルースカイでは力不足を感じたんだ。ボクも少し高価な機体を購入した』
「ブルースカイに似てるね」
『銀河連合が新しく開発した機体だ――量産機だが、ボクも設計に参加した』
「設計に参加!?」
『お前のフェアリーテイルみたいな物だ、これでもボクは勲功ポイント一位だからな。ちなみにこの機体も、勲功ポイントにして10000だ』
「あっ、そうだよね。私に作ってくれたのに、マイルズに作らないわけ無いよね――」
当然だった。
「――なんて名前の機体なの?」
『ブルーテイル』
「テイル・・・?」
『命名者は、ボクではない。銀河連合市民による公募だ。お前は銀河連合市民に相当人気らしいぞ。銀河の妖精スウと言われ、プロパガンダとして大活躍だとアドミラー少将が言っていた』
「・・・・ええ」
勘弁してください。と思いながら、私はブルーテイルの元ネタを検索してみる。
「oh. グッピー?」
『ここは、空を語るものと訳せよ。スワローテイルだってバタフライだろう』
「今はおとぎ話だもん」
『写真集ではなかったのか』
「―――」
『悪かった。しかし、サジテイルの進化版にするかとも訊かれたがな。流石にあれの人型形態はお前に似すぎていて遠慮した』
「うん。それは、私の中に乗られてるみたいでムズムズする。でもいいなあ、設計に参加とか憧れる。やってみたいなあ」
『まあ、パテから飛行機を削り出す腕だからな。そのうち飛行機を作ることも有るかもな』
「かなあ?」
『まあ。使い手として、あーしてこーしてという要求をするのも悪くはないんじゃないか?』
「それは、フェアリーテイルの時やったよ。――ブルーテイルは、今回も人型はオミット?」
『いいや。お前がビルに激突した時に受け身を取ったのを見て、人型は必要だと再認識した。しかしこの変形というのは、構造が脆くなりやすくて困るな。人型時の可動範囲も制限されかねないし。日本のトイを参考にせざるを得なかったぞ』
「じゃあ、平泳ぎはできるんだね」
『お前は、いつまで平泳ぎをしているんだ』
練習は繰り返しが大事なんだよ。
私が背泳ぎに移行していると、3機のロブが入ってきた。
もしかして、61層で一緒した3人?
『おっスウ、いるな!』
『スウちゃーん! 数日ぶりー!』
『ちゃんと来てくれて良かったわ。貴方がいれば百人力だもの』
エレハントさん、レナさん、タマさんと挨拶してくれた。
どうやら皆さん、普段から一緒に行動してるんだね。
「みなさん、久しぶりです!」
マイルズが、ブルーテイルを人型に変形させる。
お、マイルズも平泳ぎの練習するのかい?
と思ったら、どっかりと胡座をかいた。
『なんだ、知り合いか?』
「うん。61層の攻略を一緒にやったの」
『ほう。お前の知り合いなら、また化け物か?』
『ん? その人は誰だ? 初めて見る機体だが』
エレハントさんがバーサスフレームの指で、胡座をかいたマイルズのブルーテイルを指さす。
というかブルーテイル、胡座をかける変形機って凄いなあ。
模型に胡座をかかせるのって、難しいんだよねえ。
マイルズ、どんな玩具を参考にしたんだろう。
『合衆国宇宙軍所属のマイルズ・ユーモアだ。今日は宜しく頼む。』
『マイルズ・ユーモア!? えっ、本物!?』
『誰?』
『い、1位の人よ! 総勲功ポイント1位!! ちなみにかなりのイケ面よ!』
エレハントさんが驚くと、レナさんのロブが首を傾げた。
VRだから中の人が首を傾げちゃうと、バーサスフレームも首を傾げちゃうんだよね。
タマさんがイケ面と言うと、レナさんが大きく反応する。
『マジ!? イケ面なの!?』
そこで皆さん、自分たちが自己紹介を返していないことに気づいたみたいで。
『おっと、ビックリしてないで自己紹介を返さないとな。俺はエレハント、総勲功ポイント80万!』
『私はレナ、総勲功ポイント75万!』
『アタシはタマよ、総勲功ポイント65万よー』
『マイルズ・ユーモア、総勲功ポイント5000万だ』
『ご、5000万!?』
『何この絶望感』
『絶望に打ちのめされそうよ』
マイルズは驚かれ慣れているのか、三人を気にもとめず背泳ぎをする私に向き直る。
『スウ、お前はどうだ。何ポイントくらい貯まった?』
『え・・・・わ、私? 答えるの?』
『ああ、教えてくれ』
『俺も知りたい』
『私も!』
『アタシもよー』
言わないといけない雰囲気みたいなので、答える。
『じゃ、じゃあ――ス、スウです・・・・総勲功ポイント4000万です』
ロブたちが一斉にたじろいだ。




