344 魔王城
アイスマンが、〖デュエル〗で出現した剣を振り下ろす。
スウと、50人の体が淡く輝いて、決闘が始まった。
しかしこの後、ハッキリ言って50vs1でも全く話にならなかった。
そもそも、宇宙空間で高速戦闘をできるのはスウか、ほんの僅かだけだ。
足を止めていてはいい的、アグレスはバリアを張るがヒーラーがいないバリアは削られる一方。
さらにスウの針の穴を通すような正確無比なドリフト。
武器を発射した反動すら計算に入れた挙動。
周りの50人が撃つ無数のガトリングが、掠りもしない。
スウには、上手く機体の滑りをコントロールできない攻撃など避けるのは造作も無かった。
『なんで当たらないんだ!?』
『いや、俺等同士討ちさせられてるぞ!!』
『囲んで撃て!! ――って、俺に当てるなバカ!!』
『スウが、射線を誘導してくるんだよ!!』
しまいには、アグレスに味方の射撃が命中しだす。
『やめ、俺を撃つなって――くそ、スウの後ろに回れないから当てやすいように誘導してる筈なのに!!』
かくして、スウが手を下すまでもなく爆散するティラノノーツだった。
決闘は終わり、スウの上にスキルの効果か『WINNER』と表示され、アグレスのスキルがスウに移動した。
『お、俺の唯一のスキルが・・・・』
スウは呆れながらアグレスに言う。
『〖パイロキネシス〗確かに頂きました』
スウは(このスキル、バッチい感じがして嫌だなぁ)などと思いながらも、一方で考える。
(〖パイロキネシスβ〗弱いし、ゴミスキルってみんな言ってるけど――実はこのスキル、今や超レアスキルなんだよね・・・・クナウティアさんの話によればアイリスが、攻撃的なスキルの印石をほぼ出さなくなってしまったって言ってたし。人体発火とか起こせる〖パイロキネシス〗は、今やまず出現しない。威力に関してはレベルを上げればいいだろうし)
スウは今でも印石の欠片を収集し続けている。なにかあった時、必要なスキルのレベルを一気に上昇させるためだ。
(何ていうか。ネトゲのアプデで、もう手に入らなくなった過去のアイテムをゲットした気分)
まあ、そんな事より、
『二度と二人に手を出さないで下さいよ。うちの配信を見てる視聴者が、綺怜くんと綺雪ちゃんをそれとなくガードしてくれるって言ってますし。あんまりしつこいようだと、連合組んで貴方たちを襲いに行くとか言い出してる人もいるんで。どうも私にも手を出したら切れるって言ってますし』
『え、配信してたの・・・・マジ?』
『やべぇって、スウのファンって1000万人以上いるんだろ?』
『数千人とか数万人とか襲って来たらどうするよ! 俺等数百人しかいないのに!』
クレイジーギークスを多人数で襲っていたが、立場が逆転してブレイブ・グロウリーとアイスハートの面々が怯え始める。
『・・・俺等を殺す為だけにプレイヤーになるヤツとか』
この言葉に震え上がったのは、首謀者のアグレスだ。
『バ、バカ、そんなのあり得ねえよ! ――ありえないですよね? スウさん?』
アグレスの言葉は恐怖のあまり途中から、敬語に変化していた。
『一応そういうバカな真似はしないように言っておいてます。貴方もバカな真似は、二度としないでくださいね。あと一つ言っときます。私ホール・ボスをソロ討伐した時に貰った〖ザ・ワン〗っていう称号を持ってるんですが、銀河連合が、かなり無茶なお願いまで訊いてくれるんですよ。ワンチャン、私が貴方たちの悪辣さを銀河連合に訴えればBAN出来るかもしれませんよ? まあ試したこと無いんで分かりませんけど。――念を押しておきます、バカな真似はしないでくださいね』
とうとうその場に居た全員が、震え上がる結果になった。
『『『は、はいいい!!』』』
こうしてアグレスに端を発した事件は終わった。
スウの配信を見ていた数万のファンが一斉に怒りを顕にしたという顛末を知った人間は、スウやクレイジーギークスの面々を襲おうとは最早思わなかった。
ちなみに佐々木 助平の妹分である綺雪に手を出したアグレス達は、元・PKが大量に所属する空挺師団第2小隊・紅蓮の面々に、しっかりとお仕置きされた。
5機ほど機体をロストして、勲功ポイントが底をついて借金になったらしい。
その後、沖小路宇宙運輸にこき使われるアグレスの姿が宇宙で観測されたとか。
「私のスウにお痛したアグレスってのは、貴方かしら」
圧倒的気品とオーラを放つ女子高生が、アグレスの前で玉座のような椅子に座っていた。
アグレスは怯えながらも考える。
(え・・・なにこれ、沖小路運輸の社長室って聞いたんだけど、完全に魔王の居城じゃん)
社長室はまるで謁見の間のようだ。ただし、周囲は薄暗く、蝋燭の明かりしかない。しかも並べられている調度品は、すべて刺々しく物々しい。さらに血のように赤い幕が垂らされ、幕には会社のロゴがおどろおどろしくデザインしなおされ描かれている。
いっそ魔王と呼んだ方がふさわしそうな女子高生は、上半身が鷹、下半身がライオンという謎の生き物を玉座の傍らにはべらせ、それを撫でしごいていた。
「社長室に呼ばれた理由は分かるかしら?」
「マジカヨ、マジでここ社長――」
「コケェエェエエエェエエエ!!」
アグレスが、思わずツッコミを入れそうになった時だった。
謎の生き物が大きく鳴いた。
社長室をビリビリと揺らすほどの声量。最早声というより、衝撃波だった。圧倒的戦闘力を見せる鳴き声だった。
猛禽の頂点と、猛獣の頂点の合成獣の持つ戦闘力。
人間の生身は逃げ惑うしかないのは、想像に難くない。そんな戦力を、アグレスは鳴き声一つで分からされた。
「口を慎みなさい。ここは王の御前よ」
(社長じゃなかったの!?)
アグレスはツッコミを入れたかったが、そんな事出来るわけがない。合成獣の何を考えているかわからない丸い眼が自分を監視している気がしたからだ。
「アグレス。貴女の罪状を読み上げるわ」
「ざ、罪状?」
魔王のような女子高生がなにやら羊皮紙を広げる。
(どこから持ってきた、そんなもん)
もちろん、声に出していったりしない。
魔王のような女子高生は高らかに読み上げる。
「一つ、掲示板でスウさんをこき下ろした」
「し・・・知ってんのかよ」
「二つ及び三つ、綺雪くんと綺怜ちゃんに襲いかかった」
「三つ及び四つ、アリスさんとリッカさんに迷惑をかけた」
「五つ及び六つ、アリスさんとリッカさんの機体を破壊した」
「七つ、スウさんを怒こらせた」
社長が玉座から立ち上がり、アグレスに指を突きつける。
その姿勢はなぜか、後傾姿勢。
腰を突き出し、上半身を大きく後ろに引いている。
なにやら ゴゴゴ・・・ とか聞こえてきそうな雰囲気だ。
「『てめーの 罪状は・・・ たったひとつ だぜ・・・ ・・・アグレス・・・」
(罪状、七つじゃないの・・・?)
「たったひとつの 単純な罪だ ・・・・・・」
(だから七つじゃないの!?)
「〝てめーはスウさんを怒らせた!〟』」
「七つじゃねぇのかよ!」
「コケェエェエエエェエエエ!!」
リイムの鳴き声ですぐさま黙る、アグレス。
「よってこれら、七つの大罪により」
「やっぱり七つなのかよ!」
リイムついに実力行使。
アグレスの頭に乗るという暴挙。
ライオンサイズのグリフォンに頭に乗られれば、重い・・・重すぎる。
惑星の重力による暴行に、なんとか耐えるアグレス。
「ゴブリンがウヨウヨいる宙域での配達を命じるわ。せいぜい海賊にお気をつけなさい。――ああ、安心して? 衣食住、全てしっかりした物を用意してあげるわ、睡眠も休憩もしっかりと取らせてあげる。ただし・・・・運送に失敗したり、積み荷を奪われたりした時は・・・・損失は全て貴方に補填して貰うわよ? 保険を掛けていると言っても、個人で払いきれるかしら?」
「そ、そんな横暴な!?」
「最初に横暴な事をしたのは、貴方じゃない――それとも、薬莢拾いでもするかしら?」
「ぐっ」
「全力で励むことね」
こうしてアグレスのギャンブルみたいな強制労働が始まるのであった。




