342 移動要塞発進
現れる、黄金の鎧を着た武者姿。
『『篇世機ルミライト・ムシャリッカ・ゼロ推参! 0翔ける∞な私達の可能性は無限に広がり、征く先は誰にも決められない!』』
『言ってる事は恥ずかしいのに、内容はマジだから困る―――!』
『あれでさっきより強くなられたら、ヤベェって!』
ルミライト・ムシャリッカ・ゼロがハイパー・刀マグナムを左右の腕に一本ずつ持ち二刀流の構えをする。
今までのアリスたちの機体では、メインパイロットだけが操縦を行っていて、サブパイロットはバルカンを撃つか、スキルを使ったり索敵をするくらいだった。
しかし篇世機は一味違う。
ルミライト・ムシャリッカ・ゼロの背中から、アリスが操る両腕はハイパー・ソードマグナムを一本ずつ持って飛んで行く。
腕を遠隔操作することで、サブパイロットもメインパイロット並に攻撃に参加できるのだ。
四刀流となった篇世機を見た、アグレスが慌てる。
『う、撃て、撃て撃てぇぇぇ!! アイツ等の好きにさせるな、撃ちまくれ!!』
ムシャリッカに向かって一斉に弾丸が放たれるが、ムシャリッカは見事な体捌きで躱していく。見惚れるような、ムダのない動きだ。
さらに、どうしても当たりそうになる弾丸は飛んでいるアリスの腕が張ったバリアに阻まれる。
しかもこのバリアが、尋常ではなく硬くて、ほとんどダメージが入らない。
その上バリアは、ヒールドローン達によって余裕を持って回復される。
『なんだよ、あのバリア――あんな硬いバリアありかよ!?』
篇世機の張るバリアの理不尽なまでの硬さに、アイスハートのクランメンバーが舌打ちした。
しかも油断していると、リッカの姿が消えていつの間にか懐にいる。
『間合い、貰った!!』
リッカが次から次へと、敵の間合いを強奪しては、敵機を切り裂いていく。
スワローテイルすら上回る暴力的な加速で詰め寄って、敵を斬り伏せていく。
ここでやっと、ブレイブマン・グロウリーとアイス・ハートのクランメンバー達が気付く。
自分たちは、虎の尾を踏んだのだと。
『む、無理だ逃げ――』
『俺の機体100万もすんだよ! ――壊されたら―――!』
『俺、次ワープ装置壊されたらヤバイんだよ!!』
とにかく逃げようとしたブレイブマン・グロウリーズとアイス・ハートのメンバー達の目に何か、猛烈な光を放つ花の蕾のような物が見えた。
それは目を疑うような速度で、猛然とこちらに向かってくる。
そこから聞こえてくる声に、残り100人となったブレイブマン・グロウリーズとアイス・ハートのメンバーが戦慄した。
『私の綺雪ちゃんと、綺怜くんに手を出したのは、お前らかァァァァァァァァァァァァ!!』
明らかにスウの声。FL最強と言われる戦闘機乗り。
最近していた配信でVRのトレーニングの様子を見たが、自分たちを追い詰めているアリスとリッカすら手の平で転がす、恐るべき相手。
100人は思う(アリスとリッカにまるで敵わなかった自分たちが勝てるか?)と。
(特機ではないフェアリーテイルならば、勝てるかもしれない)とは思ったが、明らかに迫ってきているのはフェアリーテイルではない。
迫ってくる蕾――巨大な機体、そのサイズは航宙空母並。
アテナ戦で一瞬見せた機体だが、その詳しい強さはわからない。
知らない100人は、(アレも、もしかして特機か?)と、背骨に氷柱でも刺し込まれたかのような寒気を覚える。
迫ってきた巨大な空母並の機体が、自分たちの左側で急停止して、花を開く。
30層ボス、ヘルメス複数をまたたく間に屠っていった、恐るべき機体の無数の連装ミサイル、機銃、ビーム砲台、謎のコンテナ群が自分たちに向けられている。
4枚の花びらのその真中、雄しべや雌しべが有る部分に両手を広げてドッキングしている蝶の様なフェアリーテイルの人型モード。
100人に、その姿は偉大なる支配者かラスボスに視えた。
100人をしてオーバーキルをしてきそうな、武装の数々。
花弁すら竜のアギトに見えてくる。
勝てない、覆せない食物連鎖、圧倒的戦力差を感じて震え上がる。
『ス、スウ!! まて、話せばわか――』
なにかをパイロットが言いかけたAV-32アドベンチャーは、瞬く間に機銃で撃墜。
アリスとリッカが喜色に包まれる。
『スウさん!』
『スウ! やっと来たかー!』
彼女が来ればもう一安心と、胸をなでおろす二人だった。
しかしスウの目標となったブレイブマン・グロウリーズとアイス・ハートは堪ったものではない。
『なんだよあの武装の数、あんなのアリかよ!?』
『逃げろ、あんなのと戦えるか!!』
だが、100機全員がロックオンされ、無数のミサイルが追い迫ってくる。
『ふざけんな、あんなもん移動要塞じゃねえか!!』
彼の言葉は、まさにその通りだ。
ビスカムアルバムは、多対一を徹底的に考慮された追加ユニット。
叫んだ盾役タイプのバーサスフレームHL-42ヘリオロードに乗るパイロットが、バリアでミサイルを打ち消そうとするが「そんなもの関係無い」とばかりに圧倒的物量のミサイルが彼に命中。瞬く間にバリアを削り切る。
『ヒーラー回復――』
ヘリオロードに乗るパイロットは回復を求めたが、残念ながらヒーラー機は大きめだ。
そんな図体の大きい機体など、スウのAIMから逃げられないので、すでに全員撃墜されていた。
こうして盾機、火力機も次から次へと撃墜されていく。
操縦の上手い何人かがなんとか逃げているが、そんな彼らもスウのAIMから、長く逃げられる物ではない。
しかも今は戦闘機よりも、攻撃が当てやすい。
あのスウが、足を止めて戦えるのだ。
AIMが恐ろしく向上している。
20人程が、果敢にスウに攻撃を仕掛けるが、花弁が輝いて強力なバリアを展開。しかも、花の後方――花托の部分に回復機能があるらしくバリアを回復してしまう。




