340 篇世機オラクル
アリスとリッカは実感した。〝スウの特訓は無駄ではなかった〟と。
しかし、それも当たり前かと思った。
すでに300時間以上、精神を削ってあの化け物と対峙し続けてきたのだ。
勝てるまで許してくれないという、なんとか勝たないと気絶するまで地獄が終わらないという緊迫感の中で、必死に食らいついて来た。
その時間は、たしかに自分達を次の段階に導いていた。と二人は確信した。
「スウのスキルを奪ってやる」と言い出した張本人、ティラノ・ノーツのパイロットが、瞬く間に撃墜されていくクランメンバーを見て慄いた。
『なんだよ、アリスとリッカって強かったけど、ここまで強かったか!?』
ティラノ・ノーツのパイロット――アグレスにアリスが冷たい声で、質問を投げかける。
「貴方はなぜ、スウさんのスキルを奪おうなんて思ったのですか」
『だってズルいじゃねぇかよ!! 偶然貰っただけの〖奇跡〗であんなチートみたいな力を手に入れてよ!! 運営が贔屓しすぎなんだよ!! 〖奇跡〗はPvPの景品にでもしやがれよ!!』
「はあ? 貴方は――スウさんがあの強さを一朝一夕で手に入れたと思ってるんですか?」
『そうだろうが、一回〈発狂〉デスロードをクリアしただけで!』
「貴方は〈発狂〉デスロードをクリアしたのですか?」
『してねぇよ!』
「ではPvPはどうです」
『お前の知ったことか』
「PvPの大会は、私が元いた星の騎士団がほとんど優勝してきました。私は星の騎士団の最高戦力と言われていました。つまり私は何度も優勝しています」
『え、そうななるのか?』
「わたしは、貴方と戦ったことすら無いんですが?」
『―――そ、それは。お前、前回以外も優勝者だったのかよ・・・』
「当然です。それに、スウさんはPvPの大会でも優勝しましたよ? ユーという人格には問題がありますが、操縦技術だけはFL1位とほぼ横並びの化け物を加え、私がいた頃より強くなっている星の騎士団に。貴方はPvPで優勝もせずに何を言っているんですか? 貴方の理屈で言っても、〖奇跡〗を貰うべきは、私か、どこかの国のPvP大会の優勝者か、スウさんですが」
『どうでもいいんだよ、とにかくスウがズルいヤツなのが問題なんだよ!』
「貴方は、とにかく他人が羨ましいだけでしょう。スウさんが簡単に今のように強くなったと思っているなら、一度でもスウさんの特訓を受けてみなさい。私達が気絶するような状態でもスウさんは問題なく訓練を続けられます。そんな人間が、3年間、VR内で9年間。FPSを含めていいなら飛行機を操っていた時間を合わせれば30000時間以上。今もその時間は増え続けているでしょう。スウという人物はそれだけ努力しているんです。才能も有るでしょう――ですが、」
アリスはそこで言葉を切って、溜息を吐いた。
そして突き刺すように鋭く言う。
「あの人がズルいなどと言われる所以は、一つもない!! それだけの努力をしている!! お前は、自分がズルをしたいだけだ!!」
『黙れ、もう理屈なんか知ったことか! 俺は、スウを引きずり下ろせればそれで良いんだよ!!』
アグレスが本心を言って怒気をむき出しにした声を挙げると、遠くから大量のバーサスフレームが飛んできた。
200機は居るだろうか。
『クラマス、なんすかー』
『久々のPvPすか? もうあんまりリアルでPvPとかしたくないんすけど』
この200機の勢力、今までの100機(今は50機にまで減ったが)とは様子が違う。
今までは勲功ポイントの少ない初心者が効率重視で選ぶような機体の群れだったが、200機がの勢力が乗っているのは、上級者が選ぶ様な高価な機体ばかり。
つまりこの200人は、上級者であるという事を示しているのだろう。
さらには機体も強化され尽くしている。
それが200人、どうやらアイスハートというクランの人間達らしい。
『来たか。アンタたち手伝って』
こうして250機になった敵、しかも上級者たちを加えると、流石のアリスとリッカも分が悪い。徐々に追い詰められていくアリスと、リッカ。
「流石に、上級者200人は・・・・」
『――無理か!?』
全力で250人を相手する二人だが、流石に多勢に無勢。
遂に、アリスのショーグン・ゼロのエンジンが破壊され――続いてリッカのダーリン・インフィニティのエンジンも破壊された。
後方に居た綺怜と、綺雪が攻撃され始める。
アリスとリッカは歯を食いしばり、涙を流す。
エンジンが壊れたアリスとリッカの機体に止めを刺そうとする、ティラノノーツと、スケルトン・ソルジャー。
「もはやこれまでか」と、転送装置のレバーに手をかけるアリスとリッカ。
――だがその時、テイラノノーツと、スケルトン・ソルジャーを襲った矢と弾丸があった。
驚いたティラノノーツとスケルトン・ソルジャーが、後方に退く。
遥か遠くからこちらに飛んでくる、黄金と白銀――2つの光。
『全く』
『愚かな娘たちよ』
「え、なんですか?」
「なに?」
光の方角から入ってきているらしい通信。
『自らの実力を考えず』
『愚かばかり』
それは、金と銀の機体。
篇世機オラクルAと、オラクルBであった。
「愚かでは・・・」
『アリス。でも、わたし達は実際に負けた、認めるしか無い。わたし達の行為は間違っていた』
みずきが淡々と言った。
でも、負けると分かっていても、挑むしか無かった。
されど、愚かでは有った。
現実主義で、同時に侍の魂を持つリッカには2つが同時に理解できていた。
立ち向かう理由も、自分の愚かさも。
『娘らよ、訊け。我らに乗りたいというのは愚かだった』
『だが、誰がために無茶をする。そんな愚かさは、嫌いではない』
篇世機オラクルAとオラクルBが、アリスとリッカを庇うように、敵の前に立ちはだかる。
二機が腕を組んで、仁王立ちになる。
『娘等、汝らの清らかなる願い』
『愚かな行為でしか果たせぬなら』
『その愚かさ』
『推して参れ!!』
「ええ!?」
『愚かさを無理やり通せなんて――コイツ等、面白いことを言う』
『その清らかなる願い押し通せば』
『もはや、間違いではない』
『願いを叶えるは、力』
『力を持て、娘たち』
『そうして我らこそ力。我らを以て』
『正義となせ!』
「つまり・・・・貴方たちに、乗って良いんですか・・・?」
『いいのか?』
『汝ら、力は足りぬが、好ましい』
『ならば我らが、汝らに足りない分の力となろう』
『『さあ、来い』』
「は、はい!」
『やっとか!』




