339 綺雪と綺怜のピンチ
◆◇Sight:三人称◇◆
続く特訓も、VR内時間で300時間が過ぎた頃だった。
そろそろアリスとみずきが涼姫の恐ろしさに侵されて、涼姫のようなグルグル目で、凶悪な笑いをし始めていた頃である。
「みずきのエッグ・モンスター、青いエンジェルフィッシュっぽくなりましたね。くっくっく」
「アリスのは、白いウサギかな? ゲタゲタゲタ」
二人の表情は女子高生として――いや人として、凶悪すぎた。
「餌や接し方でどのタイプに進化するか決まるらしいですね。くっくっく」
「わたしは、自分が食べてる物、全部あげちゃってた。ゲタゲタゲタ」
「わたしは涼姫の好物をあげてましたよ。くっくっく」
「なるほど、だから白いウサギになったのかあ。アイリスさんの涼姫に対するイメージなのかな。ゲタゲタゲタ」
「わたしのウサギはこのまま行くと、どうやら機体を修復する能力になりそうです。バリアだけでなく、機体本体も修復できるらしいです。くっくっく」
「凄い当たり能力じゃん。わたしのエンゼルフィッシュは、VR感応を上げてくれるようになりそう。ゲタゲタゲタ」
「それは、みずきが一番上手く使えそうな能力ですね」
ここでみずきが、言葉を切って声をひそめる。
「で、その涼姫、今日はいないみたいだけど――どうしたの」
「なにか、フーリに呼び出されてました。事務所経営の相談みたいですね」
「あらー」
「まあ、ずっと黒字みたいですから大丈夫ですよ。今の涼姫は一体どれだけ資産を持っているのか」
「なんか地球の通帳に3億位入ってるらしいぞ。――FLだと1億クレジット位あるらしい」
「とうとう1億クレジット行きましたか・・・日本円だと10億円ですよ」
「FLならもう、涼姫は一生暮らせるよなあ」
「ですねえ」
そんな事を話していると、コハクから二人に通信が入った。
『アリスさん、リッカさん、大変です!』
「どうしたんですか?」
「どうしたの?」
『綺雪ちゃんが、ブレイブマン・グロウリーズって言うクランの人達に襲われているみたいなんです!! スウさんに連絡が取れなくて、なんとか出来ませんか!?』
「え。涼姫は今日、事務所にいてFLにいないんですよ」
『そんな!』
「わたし達じゃ駄目ですか!?」
「行こう」
『あ、相手が百人位いるんですよ!』
「百人!? 涼姫にメッセージを送っておきます――!」
「とにかく、救援に行く。コハクさんはティタティーと命理ちゃんに連絡をお願い」
『ティタティーさんは・・・・今ファンタシアで――命理さん、そうですね。連絡入れてみます!』
アリスとリッカは、言われたハイレーン近くの宙域へやってきた。
綺怜の乗ったティンクルスターが、綺雪の乗ったスワローテイルをかばうようにして飛んでいる。
通信が漏れてくる。
知らない男の濁声だ。
『良いから早くスウを呼べって言ってんだよ!』
『スウさんはリアルの用事で忙しいんだよ!! FLにいねえ!!』
『ハッ、適当言ってんじゃねぇよ!! いつもいるだろう、しかも今は冬休みだ。調べはついてんだよ』
アリスが怒声を放つ。
「スウさんは今、事務所ですよ!」
『あん? ――おやおや、これはアリスとリッカさんではないですか』
「―――スウさんに何の用ですか」
TN-31 ティラノ・ノーツという、ミサイルに大きなデルタ翼が着いたような機体にのっている濁声のパイロット(パイロット名はアグレスと表示されている)が、アリスに返す。
『あの卑怯者のスキルを奪ってやるんだよ』
「は? スキルを奪う? ――どうやって」
アリスは何言っているんだと思った。そんな方法訊いたことがない。
すると、SK-99 スケルトン・ソルジャーという、まさに骨を組み合わせたような機体に乗ったパイロットから声が聞こえる。
これまた濁声だが――女性の声だった。
パイロット名は、アイスマンと表示されている。
『アタシはね。他人のスキルを取れるスキルを持ってんのさ。〖デュエル〗って言うんだけど』
「デュエル――なるほど、勝負してその結果でスキルを取り合う感じですか?」
『そう。そんでね、ルールは同意の上ならなんでも決められるんだよ。例えば100対1とかでもね』
「で、綺雪ちゃんや綺怜くんの安全を人質に、スウさんに無茶苦茶な条件の勝負に同意させようと?」
『そういうこと』
「そんな物、呑む必要ないですね。貴女たちを全滅させてしまえば良いんですから」
『舐められたモンだ。100人を相手に出来るってのかい?』
「リッカ、良いですね?」
『当たり前』
「どこからでも掛かって来なさい!!」
こうして100vs4の戦いが始まった。
「出てきて下さい。由利さん!! 佐助さん!! 才蔵さん!! 清海入道さん!! 十蔵さん!! 甚八さん!!」
アリスが、バーサスフレーム用〈時空倉庫の鍵・大〉からドローンを呼び出した。
それぞれ。
才蔵、佐助が、スナイパードローン。
由利、清海入道、がミサイルドローン。
十蔵 甚八、がバルカンドローン。
他にも荷電粒子砲ドローンがいるが、これはバーサスフレームにあまり効果がないので出していない。
アリスは〖念動力〗がない自分も〈時空倉庫の鍵・大〉を上手く使えないかと考えた結果。ドローンを入れて、彼らにアリスの苦手な射撃を、自動でして貰うことにした。
これはスウへの対策だった。
アリスは余りにもスウに攻撃が当たらないので、もう自分で当てることは諦めてドローンに任せる事にしたのだ。
ただドローンの攻撃も、スウには今まで一度もヒットしていないが。
ちなみに、ドローンの火力はあまり高くないので、スウの使うバーサスフレーム用〈時空倉庫の鍵・大〉の一斉射撃ほどの威力はない。
あと、ドローンは大きすぎるので、生身で使う時は注意が必要だとアリスは思っていた。
「出てきて。ランスロット、パーシヴァル、ニニュエ」
さらにリッカが〝アリスの〟バーサスフレーム用の〈時空倉庫の鍵・大〉からドローンを呼び出す。
大抵はアリスと合体して戦のだから、アリスの〈時空倉庫の鍵・大〉に入れておいても問題ないだろうという判断である。
〈時空倉庫の鍵・大〉から出てきた、ランスロット、パーシヴァル、ニニュエ。全てヒールドローン。
リッカの機体ダーリン・インフィニティと、アリスメインで合体した状態のナイトアリス・インフィニティはバリア持ちである。
3体のヒールドローンでバリアを回復すれば、ヒーラー一人分の回復力にはなるので相当硬くなる。
この戦法でもスウ一人に勝てないと、アリスとリッカはVR内で白目を剥いていたが。
アリスが行きがけの駄賃のように、AV-32 アドベンチャーを斬り伏せる。
アドベンチャーは初心者がよく選ぶ火力機体で、卒なく整った火力機だ。
リッカが弓一発で、CD-74 シンデレラを撃墜する。
こちらも初心者が選ぶ卒のないヒーラー機。
そこで二人はふと思った。
二人共、自分は強い方だという自覚は有ったが、余りにも相手に歯ごたえがない。
「あれ?」
『これ・・・』
「リッカ、わたしたち」
『うん、だよね』
『「強くなってる』」




