329 空気を読まない料理無双を終了します
まってそれよりみんな、七面鳥を用意したアリスが拗ねてるから!
「なにっ、スウの手作り唐揚げだと!?」
「ボクも興味があるな」
ユーとマイルズが、空気を読まずに寄ってきた。
そうして爪楊枝に唐揚げをさして一口。
「むっ!?」
「これはっ!!」
「スウ、マーベラスな味だ!」
「学祭の時も思ったが、お前の料理は次元が違うな――どうなっているのだ・・・・?」
「まってまってまって、クリスマスの主役はそっちじゃないじゃん、七面鳥でしょ!? ほらアリスのローストした七面鳥が真ん中に」
マイルズが七面鳥に顔を向ける。
「む、そうだな」
「ほう、ターキーか」
ユーが珍しいものを見た顔になった。
音子さん、ヒナさん、ハクセンさんがびっくりする。
「え、これ鶏肉じゃないん!?」
「私達に鶏肉と七面鳥の見分けはつかないからねぇ」
「本物の七面鳥でござったか!」
すると元気を取り戻したアリスが、鼻を「ふんす」と鳴らしながら微笑む。
「この七面鳥は、今日のために4匹分取り寄せたんですよー。これで今日の参加人数の大体20人前です。お店の大きなオーブンでないと焼けないところでした」
「作るの大変だったやろー」
音子さんがアリスをねぎらった。
「はい、ちょっと大変でした。あっ、ソースはスウさんが作ったものをベースにしてるんで期待してくださいね。スウさんのソースには勝てないと自負していますので。――切り分けますね」
「その自負はどうなん」
「え? ・・・自負って――自分が負けるって書くじゃないですか・・・?」
「高校生・・・・頑張りや」
まあ・・・イギリス人だから、日本語は仕方がないよ・・・・17年の殆を日本で過ごしてるらしいけど。
アリスがみんなにターキーを切り分けてくれる。
そこで私は気づく――ターキーの中から、輝く粒がこぼれたことに。
「――なにそれアリス、中からなんか出てきたけど」
「スタッフィング――つまり、七面鳥の中への詰め物です。今回は日本の方が多いのでライスを選んでみました」
アリスがターキーを縛っていた紐をナイフ出来ると、鳥の出汁を吸った黄金に輝くライスが出てきた――瞬間、私達日本勢が一斉に固まる。
ライスが黄金な事もあり、その光景はまるで宝箱から財宝が溢れるように見えた。
「「「ちょ・・・」」」
ユーが震えながら一歩たじろぐ。
「ば、馬鹿な・・・・七面鳥で包んで調理した米・・・だと?」
お米大好き日本勢が全員、喉を鳴らす。
「そ―――そ、それってつまり・・・まさか! ―――な、なんじゅう恐ろしい事をするんや!!」
「あ、味が――味が、染み込んでいるというの!? ターキーの味が、お米に―――ッ!!」
「しかもお肉に包まれ、その中でターキーが出す油分と水分で炊かれたご飯・・・?」
「なんという暴挙でござるか! 最早、料理という名の暴力でござる!!」
私は恐怖のあまり頭を抱えて、机に肘をついた。
「あんなの・・・・あんなの食べちゃったら―――!!」
「いや、大げさですよ」
アリスは苦笑いするけど――だって、鳥の旨味を吸ったお米だよ!?
そんなの反則じゃん。
アリスはお肉を切り分け、黄金のライスを添えてみんなに配っていく。
一緒にオーブンで焼かれていた野菜(こちらもターキーの味を、しっかり染み込ませている)も盛り付けられ。グレイビーソースというらしい、ターキーから流れ出た出汁と、レモン、赤ワイン、香草やスパイスあと、私の作ったソースベースなどを混ぜたものをターキーに掛けてくれる。
リイムだけは微妙な顔をしているので、アリスがリイムの大好きな果物を山盛にしてあげていた。
ケロりんには、カエル用のご飯。
ドラ子には、ジュース。
ちなみに果物を食べるリイムに、ドラ子が微妙な顔を向けていた。
ああでも、リイムとケロりんとドラ子は仲いいよ。
アリスが全員に配り終え、待ちに待った言葉が掛かる。
「さあ、召し上がれ」
号令と同時、私達お米大好き日本勢が一斉にライスにスプーンを伸ばす。
アリスとマイルズは、先にお肉にフォークを伸ばした。
だけど日本勢は、まず米だよ。
「!!」
「――!?」
「―――っ!!」
ライスを掬った全員が、スプーンを口に入れた瞬間、無言になった。
しばらく全員が無言で咀嚼して、ハクセンが口元を抑えて、驚愕に叫ぶ。
「お米に見事に七面鳥の出汁が染み込んで、旨味が――旨味が口の中で爆発したでござる!!」
「なんやこの、旨さは!!」
「ターキーだからよ!! 旨味が強いのよ――きっと鶏よりも、ターキーの方が旨味が強いの!!」
音子さんの疑問に、ヒナさんが答えを出した。
さらに綺雪ちゃんと綺怜くんが、感動したように目を輝かせる。
「こんなの、美味しさの爆弾です!!」
「うめぇ!! アリス姉ちゃんまた作ってくれよ!!」
「いや、毎日作ってアリス」
リッカが無茶を言った。
アリスは「流石に、毎日は無理です」と、苦笑い。
「お肉の方も、ターキーの方が鶏より肉質がしっかりしているけど、アリスの調理の腕で固くない。でも皮はパリっとしてて!!」
私がお肉の感想を言うと、マイルズもお肉を食べながらびっくりしていた。
「凄いな――ターキーはパサパサになりやすいのだが、このターキーはしっとりとしている。胸肉すら柔らかく、繊維が感じられて旨い――どうやったのだ?」
アリスが、ナフキンで口元を拭いながら答える。
今日のアリスは、どうやら淑女モードだ。
「数日前からお肉を、香草と塩とお酒を混ぜた液に漬けておいたんですよ。あとは固くなりやすい場所はアルミホイルでしっかりとガードして水分を逃しません。こうすると柔らかく仕上がります」
「イギリス人とは思えない手際――ふむ、殴られたか」
アリスが、マイルズをチョップしていた。
他のみんなも、口々にアリスの料理の腕を称賛する。
「やるな、さすが俺の敵」
「大したもんだ」
「このパーティーに参加できてよかったです」
「ほんとだよ」
「めちゃ旨よ! アリス!」
「美味しいですアリスさん!」
「本当にアリスの料理は・・・・おいしいわ」
「(もぐもぐ)おいしい(もぐもぐ)」
「コケ!」(アリスさん、桃おいしい!)
「ケロ」(今日の特別なご飯、美味しいなり!)
「―――」(さわさわと揺れて、頷いている)
みんなに褒められて嬉しそうに照れるアリスでした。めんこい。
その後はみんな、ケーキのイチゴの美味しさに驚愕してた。
さて食事も進んだあと、プレゼント交換の時間になった。
すると暴走する音子さんが、一人いた。
「ウチへのプレゼントは、スウが雪花の前に使ってたパイロットスーツ、アリスウツでええで」
「絶対嫌です」
「FL交換所にずっと欲しいって申請してるのに、出品がないんや」
「出品が有るわけ無いでしょう」
「あれどこにやったん? オークションサイトで売らんの? というかウチが買うで? 破れて他の人には使い物にならんやろ?」
「〈時空倉庫の鍵〉の中に入ってますけど。使うって、どういう意味ですか」
「よし、それを掛けてみんなでゲームや」
「よくそんなに、手に入れる手段を思いつきますね・・・」
「ウチのパイロットスーツちょっと弱いんよ、売って欲しいなあ」
「――アンタ、どんだけ私のパイロットスーツほしいんですか?」
その後もまだ何かを〝ほざいている〟音子さんは無視して、プレゼント交換タイムを開始した。