333 新しい街にご招待されます
今、私達は、都市型・移動衛星・サリハラにいる。
移動衛星――つまり宇宙船みたいに移動する、衛星。
サリハラは内部がテラフォーミングされた、水と緑の小さな衛星だった。
ユニレウスで発見されたこの衛星は、これよりの先の層では最前線のプレイヤーと一緒についてくるらしい。
なぜここに居るかというと、61層からは各層の開放を手伝ってみようという話になったんだ。
というわけで現在は私、アリス、リッカ、命理ちゃん、ティタティーと一緒にいる。
ちなみにサリハラは、私達が攻略した、かの正十二面体首都ユニバーサル・シティと同系統の浮遊球体都市の一つなのだとか。ユニバーサル・シティも宇宙を旅できるらしい。
サリハラの都市も、衛星内部に有る。
1Gに調整された小さな衛星内部には空もあり、大気もあり、完全にプチ地球。
私達はそんなプチ地球の街の一つ。夏にしかならないという、浮かれた気候環境に設定された南国風のお店『サンセット・サリハラ』で南国フルーツのパフェを食べて、炭酸ジュースを飲んでいた。
うーん、トロピカル。
私は心地よい環境に、顔を福笑いのように崩しながら、汗を掻いたグラスをつつく。
「この街、夏なのにカラっとしてて全然蒸し暑くないんですけど―」
「日本の夏を知っている人間からしたら、この気候は天国ですねぇ」
ちなみにこの都市型衛星サリハラの内部の面積は、地球の12分の1程度。
なんとオーストラリア大陸の半分程度になる。
ユニバーサル・シティが新潟県程度なのを考えると段違いの広さだ。
空の高さも中心まで2500メートルくらいになって、広々としている。
ただし面積の3/1は、ロケットエンジンや機関部、基地、工場、農場あと、NPCさんの住居などが有り、立ち入り禁止。でも私は特別権限ストライダーなので、入れるらしい。――入る予定はないけど。
残りの2/3は、プレイヤーや、NPCさんNPPさんの街やら自然区画になっている。
で、この2/3は領域ごとに春夏秋冬の環境に調節されている。
そうして各季節都市にはクランハウスシティという区画ができるらしい、様々な家が立ち並んでいる区間をこの間、見学してきた。
なんて事を考えていると、通信が銀河連合から入ってきた。
『クレイジーギークスの皆さん。クランハウスシティがそろそろ開放されます、さっそくクランハウスを選んでみませんか? 51層をほぼ5人で200層まで到達し、ソロでボスを倒し、61層は単独でアテナと対峙してくれたスウさんや皆さんを、一番先にご招待しようという事になりまして』
これは嬉しいかも。
「行く?」
「行きましょう、行きましょう」
「おー!」
「了解よ」
「(もぐもぐ)」
そうしてマスドライバーな列車の駅(つまり列車を射出する駅)で、他のクレイジーギークスの面々と合流。
青い空と海を背景にした駅で、南国らしくヤシの木に囲まれた全面ガラス張りの駅だった。
コハクさん、リあンさん、星ノ空さん、オックスさん。綺怜くん、綺雪ちゃんと、順番に挨拶してくる。
「明けまして、おめでとう御座いますー」
「あけおめ、クリスマスぶり―」
「あっけおめー! やっほぉ!」
「謹賀新年。今年もよろしくな」
「あけましておめでとですー! スウ姉ちゃん、こっちー!」
「明けましておめでとうございます! あーん。スウさん、会いたかったですー!!」
私達も「あけましておめでとう」と、挨拶を返す。
ちなみに、今日もやっぱりさくらくんとメープルちゃんはいない。
二人はいよいよ受験本番だもんなあ。
さくらくんもメープルちゃんもウチの高校――爽波高校志望なんだよね。
なので私は時間のある時に、対策を教えに行ってたりもする。
私的には「AIに教えてもらったほうが良いよ」と言ってるんだけど、「首席合格者にしかわからないことも有ると思います!」
と、結構ガチ目に押し切られたので、たまに教えに行ってる。
リッカに「涼姫に教えてもらうと、本当に分かりやすいよ」とかも言われたんだとか。
「どの季節エリアのクランシティにしたい。とか有りますか?」
クラマスであるアリスが尋ねると、
「春!」「春ですね」
みんなが「春」または「夏」といい出す、まあそうだよね。
「秋」はまだ分かるけど。
「冬」は通な人でないと選ば無さそう。
ウィンタースポーツをしたい人達とか。スノーボードの選手をやってるらしい、オックスさんの娘さん辺りなら喜びそう。
私は・・・スキーもスノボも、もういいや。
楽しかったけど、体が私についてこない。
という訳で多勢な「春」に決定。
「春なら、こっちですねー」と、コハクさんが先導してくれる。
みんなでコハクさんに着いて歩きだすと。綺雪ちゃんが目を輝かせて私達に報告して来た。
「みなさん! 私、昨日初めて宇宙空間でMoBを倒したんです!!」
あ、綺雪ちゃん、ついにやったのか!
綺雪ちゃんは、宇宙戦闘が本当に苦手だったんだ。
「風がないから、上手く戦えないって言ってたのに遂にやったんだね!」
「そうなんです! アテナ戦の時は本当になんの役にも立たなくて・・・宇宙には風はないし、すごく滑るし――でも昨日、ついにやりました!」
綺雪ちゃんは大気のある場所なら完全に天才だけど、宇宙空間になると綺怜くんの方が操縦が上手くなってしまう。
むしろ、綺怜くんは宇宙での操縦の天才だった。
この間マザーグースの操舵に綺怜くんが選ばれたのもこの辺りが理由。
50層攻略の時も、綺雪ちゃんと、綺怜くんは一度もダンジョンに入らないで、ずっとバーサスフレームの訓練に明け暮れていたらしい。
二人共努力家だから、すぐに上達すると思うけど。
「頑張ってたんだねぇ。でも、危ないことしてない?」
「えへへ、1回撃墜されました」
「マ、マジで!?」
私はちょっと慌てる。他のみんなもざわついている。
「あ、大丈夫ですよ。危ないと思ったんで、転送装置で脱出しました。スウさんと一緒にゲットしたスワローテイルも、ロストしないで回収できました」
そっか、FLには転送が有った。
「よ、良かった・・・でも、ロストを気にしちゃ駄目だよ。もし無くなったら今度はお姉さんがプレゼントしてあげるから」
「あー! それも嬉しいですね!」
綺雪ちゃんが嬉しそうに飛び跳ねると、綺怜くんが唸る。
「俺が、綺雪を守り抜けなくてなあ。ごめん――」
夢から急に覚めたような顔になった綺雪ちゃんが、兄から距離を取った。
「なに、急に気持ち悪い」
「気持ち悪いはないだろ!? 気持ち悪いは!!」
綺雪ちゃんと綺麗くんがじゃれ合い始めた。仲がいいのか悪いのか、微笑ましくなってしまう。
「スウさん。なんだか若い二人を見てたら、こっちまでやる気になりますね」
「アリス、あんた何歳だよ」




