228 料理無双をしてしまいます
マイルズ、ハクセン、メープルちゃん、さくらくんが到着。
マイルズのブルースカイに乗ってきたらしい。
マイルズはタキシード、ハクセンは着流しではなく珍しく着物。
ハクセンの女性っぽい格好は初めて見たかも。
メープルちゃんも着物で――さくらくんまで誰が着せたのかしらないけど、女性物の着物。さくらくんの性別が、ますます壊れる。
ちょっと前までさくらくん、異様に男らしい服に拘ってたけど、最近はまた男の娘するようになったんだ? 良かった。
さくらくんの可憐な表情におとなしめのデザインな着物、単純に奇麗。
「うーむ、マイルズ殿の運転の上手なこと。皆様、お邪魔します。ハクセンでござる~」
「振動一つなかったよ。皆さん、お久しぶりです、メープルです!」
「だよね。僕、戦闘機の操縦結構自信あったのに、マイルズさんには全然敵わないよ。なにあの着陸の上手さ・・・。こんばんわ皆さんー、さくらです。久々に息抜きですー! あとこの格好はチャンネルのファンのリクエストです」
「クレイジーギークスの皆、招待ありがとう」
言ったマイルズが、私に花束を渡してくる。
うーん流石、海外の紳士。
しかし花束をもらって、私はどうすればいいの?
困って若干立ち往生していると、アリスが私に寄ってきて「じゃあ、飾りますね~」と花束を持っていった。
「なるほど、飾るのか」
マイルズが「クックック」とか笑ってる。
・・・・泣き虫マイルズのくせに。まあ、あの件は私が悪いと思ってるから言わないけど。
こうしてパーティーが始まった。
パーティーが始まったんで、流石に私も配信を始めた。
まずは乾杯、未成年組はオレンジジュース。
大人は、お酒で乾杯。
「「「かんぱーい!」」」
「乾杯」「乾杯」
「メリークリスマス アンド ハッピー ニューイヤー!」
「Merry Christmas and Happy New year!(メリークリスマス アンド ハッピー ニューイヤー!)」
「コケー!」
「ケロッ」
私達が元気よくコップを掲げる。ちょっと離れた場所で、オックスさんとユーが渋くグラスを掲げてる。うわっ、二人でマルガリータをイッキした。大丈夫なのかな。
アリスとマイルズが英語だけど、アリスの発音は日本語っぽい。マイルズは流石に本家の発音。
みんなで一斉にグラスを掲げてから飲む。
あー、オレンジジュースが五臓六腑に染み渡る。
リイムもカップにクチバシを入れて、コクコクと大好きな桃ジュースを飲んでいる。
ケロりんも、ドラ子も好みのジュースを堪能中。
そうして私は、まずどうしてもみんなにお礼を言いたかったので、立って頭を下げる。
みんなが「どうした、どうした?」という感じで、ちょっと私を見上げる。
私は、考えておいたお礼を口にした。
「えっと・・・みなさん。今年一年ありがとうございました。本当に充実した毎日でした。こんなに充実した一年を過ごしたのは初めてです。クランのみなさんも、ゲストのみなさんも視聴者の皆さんも、本当にありがとうございました。――来年もよろしくお願いします」
もう一度、しっかり頭を下げると一斉に拍手された。
コメントまで❝888❞というのが溢れている。
ちょっと気恥ずかしくなって、熱くなった頬を手で抑えながら座る。
コハクさんが、琥珀色した飲み物が注がれたグラスを持ち上げる。
「こちらこそ。スウさんのお陰で、配信者として一年乗り切れました!」
すると、リあンさん、星ノ空さん、オックスさん、さくらくんも話に参加する。
「うんうん。スウがいなかったらと思うと、本当にゾッとするわ」
「だよねぇ。あたしらチャンネル奪われて、今だに殆ど人がいない配信してたと思う」
「そうだな、スウには本当に感謝しかない」
「はい。スウさん、僕らに手を差し伸べてくれて有難うございました」
私は、みんなに感謝のような言葉を言われて、恐縮してしまう。
「いえそんな・・・・みなさん凄く面白い配信してますし、みなさんのお力ですし。私もみなさんに助けられてますし、こんなに充実した日々を貰ったので――家族以外のクリスマスパーティーとかも、生まれて初めてですし」
コハクさんとさくらくんが首をふる。
「私のチャンネルの登録者数200万人ですよ。こんなの私一人じゃ絶対無理でした」
「僕なんか、何故か300万人も」
すると音子さんまで、反応し始めた。
「せやなあ、ウチらにまでスウの人気は波及しとるからなあ。ホンマ助かるわ――というか、今ここにいるウチとヒナは―――」
「スウがいなかったら、今この場にいなかったよね。・・・本当にありがとうね」
「別のウチ等になっとったやろうなあ・・・ありがとなあ」
しみじみというヒナさんと音子さん。すると、コハクさんまでお酒に口をつけて、ため息をつく。
「私もですよ」
「コケッ」(ママ、産んでくれてありがとう。護ってくれて有難う)
「リイム、生まれてきてくれてありがとね」
私がリイムの翼をなでていると、ティタティーが私を見た。
「ボクも、スウがいなかったら、今でも終わりの魔法使いって言われて恐れられるだけだった。今は街のみんなが、ボクを受け入れてくれてる。―――スウは、ボクが何十年も追い求めて諦めていたものをくれた。スウとの出会いはボクにとって奇跡―――本当に有難う」
「いや、それはティタティーがいい子だからだよ!!」
気恥ずかしくなって、顔をそらす。
するとアリス、リッカ、命理ちゃんがこっちを見ていた。
3人は何か言いたげだけど、言わなかった。
うん。私もね、3人にたくさん助けられた――ありがとう。
「まったく、どのエピソードを訊いてもアメイジングだな、スウは」
そんなユーの言葉に、みんなが思わず吹き出した。
すると、ヒナさんが気づいたように私の作った唐揚げを指差す。
「――て、唐揚げじゃん。レモンちゃんがいれば喜んでレモン掛けてたのに」
レモンちゃんは、クラン・ストリーマーズの一人のからあげレモンちゃんの事だ。
〝ちゃん〟呼びされているけど、中身は男子小学生だそうな。
この事実を知るまで、私は彼を高校生くらいかと思ってた――あの子、しっかりした子すぎるんだよね。
「スウ、聞いてぇな。アイツほんまになんでもレモンを掛けるんやで、刺し身だろうがうな重だろうが、『上等な料理にレモンをブチ撒けてくるんよ』。この間も寿司にレモンを掛けてきよったんよ。しかも数種類のレモンを用意してて、その場で最適なレモンと数種の調味料を混ぜ合わせて、オリジナルレモンソースを用意して掛けてくるんよ。あと、家で数種類のレモンを栽培しとるんよ!!」
「な、なんでしょうそれは、大分思ってたのと違いますが――もしかして・・・」
「美味しいんよ」
「・・・やっぱり美味しいんですか」
「でもレモンちゃんは特に、唐揚げに拘るから唐揚げの場合すごいよ」
「今日もし呼ばれてたら、ソースのベースは数日前から仕込んできそうやで。で、味をみてその場で最適なソースを作るやろな」
さすが。名前にまでしてるだけあって、唐揚げに掛けるレモンへの執念がハンパない。
「さて、この唐揚げを食べてみるわ」
「私も~」
「拙者も頂こうかな」
音子さんとヒナさんとハクセンさんが、星型の飾りがついた爪楊枝でそれぞれの小皿に唐揚げを取って、一口。
すると3人が目を見開いた。
「ん!?」
「――は!?」
「なんっっっでござるか、この旨い唐揚げは!?」
3人が次から次へと、唐揚げに爪楊枝を伸ばす。
「いやいや、美味しすぎひん!? これ?!」
「サクサクの衣を越えたらジューシーな油が溢れてきて、肉はぷりっぷりで、歯ごたえすら感じさせず別れていく。口の中に残る香ばしさと、お肉の張りのある食感。なにこれ!」
「味を引き立てる醤油ベースの旨味と、鳥の旨味が渾然一体になっているでござる!」
「さらに衣は粉っぽかったり、トゲトゲしかったりしない、だからといって薄くも厚くもないやん、あくまで鶏肉を彩る脇役だけれど、その脇役を完璧にこなす絶妙な衣!」
「「『この唐揚げを作ったのは、誰!?』」」
「スウさんですよ」
アリスが口をとがらせて言った。
「マジなん!?」
「訊いてた通り、スウの手料理は本当に美味しいのね!!」
「よもやこれ程とは」
❝食べてぇ・・・・❞
❝どうしたら食えるんだあああ❞
❝奇跡のタイミングなら、クランハウスでたまーーーにメイドしてるから。その時注文すれば、ワンチャン❞
メイドじゃないです、ウェイトレスです。




