325 大ピンチになります
今死んだら、MoBになっちゃうんでしょ!?
まだ、新しい蘇生装置は出来てないんだよね!?
これ、不味くない!?
❝頑張ってくれぇ!!❞
なんとか凌ぎながら戦っていたけど――フェアリーテイルが転移してしまう一分前まできた。そろそろ〈アイアン・ノヴァ〉を起動しないといけない。私は、ケンタウロスユニットの光崩壊エンジンで〈アイアン・ノヴァ〉を起動。VRに起動までの時間が表示された。
すると――奥からさらに〈発狂〉ミダスがもう一体。
(え、もう一体!? ――さ、流石に不味いかも―――!!)
❝ちょ・・・・アカンって!❞
❝スウたん、急いでフェアリーテイルに戻れ!!❞
分かってるんだけど、弾幕が厚くて、フェアリーテイルに近づけない―――!
どんどんフェアリーテイルの起こす波紋が、大きくなる。もう転移してしまう!
〈アイアン・ノヴァ〉の爆弾に、白い罅が走るみたいに光り始めてきた。
❝不味い、不味い、不味い❞
❝急げ!!!!❞
(どうする? 〈時空倉庫の鍵・大〉に逃げ込む!? ――でもそれは以前、駄目だって警告されてる。
〈時空倉庫の鍵〉の中は時間がない。
そんな中にネックレスの持ち主が入ったら、誰も救い出せなくなるって――中に入る前にネックレスを置いていく?
駄目だアイアン・ノヴァで、ネックレスが吹き飛ぶ!! そしたら倉庫からはじき出されて、私は爆発の中だ―――どうする!? どうしよう!?)
ここでピタリとコメントが止む。
――私の目の前で、フェアリーテイルが消えた。
不味い、帰れない―――!!
私は急いで時空倉庫の中からある物を取り出す。
「急いで、早く早く―――! ――あ、」
数瞬後、〈アイアン・ノヴァ〉が――爆発した。
❝スウたん、スウたん!!❞
❝スウたん・・・・フェアリーテイルに乗ってないんだけど?❞
❝うそだろ・・・? こんなの嘘だよな?❞
❝やめてくれよこんなの❞
❝でも、復活あるしさ・・・・❞
❝それは別のスウたんだろ! 俺らからは生きてるように見えるだけで、あのスウたんは死んじまったんだよ!!❞
❝他の配信でアテナが内部から崩壊して倒せたのは確認されたし、他のボスもアイアン・ノヴァの爆発で消滅したけど、スウたんが・・・❞
❝嘘だよな!! 誰か嘘だと言ってくれよぉぉぉおおお!!❞
❝こんなの嫌だよ!!❞
❝モデレイター(スウ):あ、みなさん。スウです❞
❝え❞
❝は?❞
❝まさか、復活判定入った!?❞
❝再生後のスウたんか!?❞
❝モデレイター(スウ):いえ、再生はされてません。ご心配かけてすみません。なんとか生きてます❞
❝ど、どうやって生き残ったんだよ!?❞
❝モデレイター(スウ):今、アリスのショーグン・ゼロのワンルームにいるんですが、ショーグンのカメラに接続しますね❞
配信画面に、私が映ったようだ。
❝あ、雪花だ! ―――よかった雪花を着てる!! ・・・・再生されてたらパイロットスーツとか無くなってる筈だよな? 雪花は、今まで一つしか見つかって無いよな!?❞
❝そっか、雪花着てるってことは、間違いなくさっきのスウたんだ!!❞
❝マジで本当に良かった!❞
私は自分に抱きついている人物を、そっと押す。
「――アリス、大丈夫だから。再生とかされてないでしょ」
「本当に良かったです、本当に・・・・」
❝アリスたんボロ泣き・・・❞
❝でも、どうやって生き残ったん?❞
私は膝で寝てるリイムを撫でながら、答える。
「それは、爆発寸前に事務所の専務に『リイムの〖アポート〗で私を引き寄せて』って頼んだんです。専務が、全部言い終わる前に私の意図に気づいてくれて。それで間一髪間に合いました。リイムが事務所で私の配信を見ているのは知っていましたので」
〖アポート〗の条件も〖テレパシー〗と同じだったんだよね。
❝っそ、その手があったか! なるほどなあああ!!❞
❝リイムしゅげぇ! 俺等のスウたんを助けてくれて有難うリイムちゃん!❞
❝あの一瞬で、よく思いついてくれた!!❞
❝生きててエライ――てか、生きててくれて有難う!!❞
そこから❝リイムに旨いものでも!❞という感じで、投げ銭が大量に投げ込まれた。
リイムが私の膝の上で「かふっ」とあくびをした。
本当に、頼りになる息子だぜ。
「正直、自分でも終わったかと思いましたけど。あ・・・ごめん、アリス泣かないで。結果的に生きてるから」
「怖いこと謂わないでくださいよお!」
そこへ、リッカと命理ちゃんまで飛び込んできた。
ショーグンのワンルームのハッチが開く。
リッカが安堵したようにため息を吐きながら、膝に手をついた。
「あーーーーーーーーー、生きてた。ほんとに肝が冷えた」
命理ちゃんが、うつむいて胸をなでおろした。
「生きてたわ・・・良かったわ・・・・」
リッカが姿勢を戻す。
「まあ、わたしはスウがあの程度で死ぬわけ無いと思ってたけどな。黒体もあるし熱では死なない可能性あったし」
「リッカ、流石に衝撃で黒体が吹き飛ばされるわ」
命理ちゃんの指摘に、リッカが固まった。
「あ・・・・そっか。――まあスウならなんとかして生き残ってくると思ってた。やっぱり生きてた」
リッカが腕を組んで「ウンウン」と頷いていると、マイルズとユーのウィンドウまで開いた。
『おいスウ、生きてるんだな!?』
『スウ、お前が死ぬなんて、そんなトラジェディは赦されないぞ!』
マイルズの目が赤い――え。
「まさか――マイルズ泣いてたの!?」
『な、泣いて悪いか!!』
マイルズが怒ってウィンドウを閉じた。
「あ、マイルズごめん・・・」
でもまじかあ、男の人が泣くのは初めて見たかも――いや、三回目かな。
『とにかく生きてたならいい。スウ、ドラマティックではない――だが、アメイジングだ』
ドラマティックの使い所は決めてるんだね・・・?
ユーからの通信も切れた。
こうして色々各所に心配をかけながらも、なんとかアテナは撃破出来た。
ついに61層が、開放されたのだった。




