316 テスト配信します
◆◇Sight:鈴咲 涼姫◇◆
リイムが〖アポート〗を手に入れてからも、攻略はどんどん進んだ。
私達はテストが忙しかったので、あまり参加していない。
でも、ユーが私との約束通り無双してるらしい。
下層攻略組クラスの実力のユーが上層から参加して、瞬く間にMoBを蹴散らしてるんだとか。
半日は掛かりそうな攻略を、一時間でクリアしたり。
連合大喜び。上層プレイヤー困惑。
その後、攻略が進み下層に入ると、女性の猛者配信者とユーが大喧嘩してるのを見た。
怖い怖い。
明洲香 きらりとか言う名前の女性配信者だった。
関わりたくない。
そうして、1ヶ月ほど経った12/10日、ついに60層に到達した。
その日は、私の視聴者が55層で難易度異常に巻き込まれたそうで、そのヘルプに行った。
とにかく吸い込んでくる敵だった。
難易度異常って事で、55より奥の階層――75層の敵って事なんだけど。
私は訓練場にいたんで出撃前に、その辺の軍人さんっぽい女性NPCさんに、
「あ、あの・・・・到達してないはずの75層の敵の情報が、なんで分かるんですか?」
って適当に訊いたら、
「ザ、ザ、ザ、〖ザ・ワン〗のスウさまぁぁぁ!? た、ただいま本部にお尋ねいたしますぅぅぅ!!」
なんて涙目で言われて焦った。
〖ザ・ワン〗は、怖がられちゃうのか。
まあボスをソロ撃破は怖いか・・・・しかも生身だったもんな。
それで、なんで75層の様子が分かるかに関しては、銀河連合というか星団帝国時代。
それもMoBが防衛網張る前に飛ばされた調査ドローンが、今でも情報を送ってくるので、かなりしっかりとMoB領域の情報を把握しているらしい。
というわけで75層の敵、カリュブディスを倒した。
「よし撃墜完了」
❝おいおい、75層の敵であるらしいカリュブディスを一瞬で倒したぞ?❞
❝――小型ブラックホールを発生させる相手だったのに❞
❝発生させられる前に移動してやんの❞
――にしても私、一の位が1~9層の攻略にほぼ参加せず。ボス戦とかにしか参加してないなあ。
今回は参加したくても駄目だったけど。
参加したと言えば、ユニレウス奪還くらい。
戦いが終わり、ヘルプしてきた視聴者にお礼を言われながら、「大丈夫だよー」と返す。
返しながら1~9層って普段は、どんな風に攻略されてるんだろう? と思った。
今度、参加してみようかな。
そうしてワープでハイレーン宙域に戻ってきた。最近は、上級者の多いユニレウス宙域に駐機する事が多かったので、たまにしか来ないハイレーン宙域。
ハイレーンはまだまだ初心者さんで溢れている。
私は初心者さんの救助をしたりもした。
――宇宙で上手く飛べない人を助けたり、衛星軌道なのに迷子になった人の救難信号に飛んだりして、初々しくてちょっとほんわか。
(本人たちは、必死なんだけど)
ラグランジュってた人を支えながら考える。
60層台は1の位が1~9層の攻略にもさんかしてみようかな。なんて。
そんな風にハイレーン中域でパトロールゴッコしていると、アリスとみずきがフェアリーさんのワンルームに集まって来た。
で、期末テストの答案チェック配信とか始めた。
どこの学校か特定されないようにテストの内容は、あんまり言わないけど。
私は宇宙に浮かぶフェアリーさんのワンルームで、答案チェックを終えた。
窓から差し込む強烈な日差しが、爽やか炭酸の気泡を輝かせている。
私は丸い赤鼻を着けて、茶色いタイツを着て、角を生やした格好で赤本を読みはじめる。
私の答案はチェックする間違い部分がほぼなかったんで、すぐに終わっちゃったから赤本に移行しました。
アリスはミニスカサンタな格好で何かの音楽を聴きながら、テストの間違いを確認している。
アリスの格好はコケティッシュで、フェティッシュで、エロティッシュ。
はいはいテイッシュテイッシュ。
――アリスと私の格好の違い?
運営が用意したクリスマスガチャで、私は全身タイツなトナカイ、アリスはミニスカサンタが当たったんだよ。
・・・・くすん。
「涼姫は相変わらず、全て満点近くで首席でしたねー。涼姫が教えてくれた方法で勉強したら、わたしも大分上位に食い込んできましたが」
ちなみにVR勉強法はリッカに秘密だって言われた。
「受験のライバルが増えるるいえ ふたぐん!!」ってダイスロールに失敗されたので、秘密にすることにした。
そもそもリッカとか長い間VRにいられないし、困るって。
私は回想しながら、アリスに首をふる。
「いやむしろ、アリスはモデルに部活にフェイレジェに色々やってて400人中50位以内なのがおかしい」
アリスがVRを使い、勉強一本に打ち込んだら私なんてあっさり抜いていくと思う。
私も色々やることがあるけど、アリスみたいに才女じゃない。
――だから、アリスみたいな人に本気になられたらヤバイ。
抜かれないように、今のうちから受験対策は怠れない。
高3になる頃には、私の首位もどうなっている事やら。
リッカがアリスの隣で、答案用紙を広げている。
リッカの格好は、ミニスカサンタを薄茶色にして、くりんと巻いた角とプリティーな耳のカチューシャを着けた、可憐なトナカイ服。
なんだ、なんで私は全身タイツのトナカイなどという可愛さの揮発した姿なのに、みずきのトナカイは、あんな可愛さを発揮して止まらない姿なんだ?
私が世界の歪みに気づいていると、リッカは数学の答案を見ながら頭を悩ましていた。
私がチラリと覗き込むと、証明問題ぽかった。
―――悩んでいるみたいなので、助言をしてみようかな。
「リッカ、助言とか迷惑?」
「どんどんしてー!」
私はリッカのテスト用紙を視る。座標空間の証明問題だね。
「じゃあ――」
私が説明し終えるとリッカが顔を上げて、首を傾げてきた。
「なんで他所の学校のテストの答えまで、テストを受けて結果が返って来たわけじゃないのに分かるんだー? これ文系だけど、大学の入試問題らしいぞ?」
「私、大学入試の勉強してるから」
私が赤本を見せると、リッカが「もう赤本とか、コイツまじか」みたいな顔をした。