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317 60層ボス、かなり厄介な感じがします


 アリスが苦笑いする。


「そういえば、数学の先生がスウさんにやたらフレンドリーに接してるんですよねぇ」


 私はボサボサ頭の男性教諭を思い出す。


 確かにあの先生、ほかの生徒には全然話しかけないのに、私にだけは気軽に話しかけてくるんだよね。

 で、男性が怖い私は震えるんだけども。


❝高校一年でもう受験対策とか❞

❝僕、前に〖読心〗でスウ君の頭の中読んだんだけど、抽象絵画みたいだったよ・・・❞

❝なにそれ怖い❞


 あ、ウェンターさんだ。


「こ、こんにちは、ウェンターさん」


❝モデレイター(ウェンター):やあ、トナカイ似合ってるね❞


「え゛」


 こんなお笑い芸人がするみたいな格好なのに、似合ってるってなに!?


❝というかエロい❞

❝白い部分が丁度、肌色にも見える❞

❝逆バニーみたいな状態www❞


「え!? そうなんですか!? ――き、着替えてきます!!」


 立ち上がった私のきぐるみの裾がアリスにむんずと掴まれ、着替えるのを阻止された「クラマス、要らないこと言わないで下さい!」とか目くじら立ててた。

 ・・・つまりアリスは、気づいてて黙ってたのか。


 私は抗おうとするけど、アリスが菩薩のようなアルカイックスマイルを向けて来たので、諦めて正座した。

 なんだあのプレッシャーは。

 無理だ、逆らおうとすると涅槃(ねはん)に送られる。

 だから、反省するように見せて正座だ。

 ――せめて股間は見せるものか・・・と、リイムを引き寄せて膝に乗せた。


 リイムは「コケ?」という顔で私を観ている。

 これが本場のコケティッシュという物か、あざといな、かわいいな。


 というわけで、アリスに察知される前に話題を切り替える。


「そういえばアリス、なんの曲を聴いてるの?」

「私のニューシングルです」


 えっ、アリスのニューシングルだって!?


「聴きたい。聴かせて聴かせて!!」

「私も聴きたいぞ~」

「もちろん良いですよ」


 アリスが、イヤホンを私とみずきに渡してくれる。

 にしてもこう無線イヤホンだと、二人で顔を寄せ合って聴くみたいな甘酸っぱい事出来なくて悲しいな。

 それはともかく耳に入れて――、


『奇跡の ヒーロー すなわち 無敵の ヒーロー♪』


 私は白目を剥いて、口と鼻から吐血して、背後に倒れ伏した。

 みずきがノリノリになりだす。


「Her スウ! Her スウ! Her スウ! Her スウ!」


 隣のアリスと、せっせっせみたいに手を合わせ始める。

 私の視界が、テレビが消えるみたいに真っ暗になって、瞼が痙攣した。

 ピクピクしながらアリスに尋ねる。


「アリスさんや? ・・・・さっきニューシングルって言ってたけど。これ、売ってるの?」

「ですよ。わたしの歌の中では最高記録の勢いで売れちゃって、今年の年末の歌合戦にお呼ばれしました」

「やめてーーーーーーーー!!」


 私の口から〖空気砲〗みたいな叫びが飛び出した。


❝買った買った❞

❝今俺コンビニにいるけど、店内に流れてるし❞

❝いい曲だよな❞


 私はとんでもない現実を否定しようと、発生している事象のおかしな部分を羅列する。


「――なんで私に一言もないの!? ――ねえ、これは私に売っていいか尋ねるべきな歌だよね!? ――もちろん許可しないよ!」

「スウさんが所属する事務所の専務である、フーリが許可してくれました」

「どこいった、私の権利!!」

「というわけで涼姫、大晦日は一緒ですね」

「ん? ン? んンん?」


 何言ってるんだろう。大晦日、貴女はテレビに出るのでしょう?


「私はお炬燵(こた)で、みかんの白いのを剥ぐ作業の予定なんだけど」

「あれ? フーリが決めたんですが、話が行ってないんですか? 涼姫も、わたしと一緒にステージに上がるんですよ? 一緒に歌うんです」


 私は棘付き鉄球で殴られたみたいに仰け反って、そのまま後ろに倒れる。

 ベッドが有ってよかった。


「イルさん! 今すぐ国外逃亡を!!」

『マイマスター、ここが国外です』

「どこか、どこか遠い場所に私を匿って!!」

「涼姫、駄目ですよ! 逃げたら事務所が、大変な違約金を払わないといけません!」

「イヤだイヤだ! 私のポケットマネーから違約金を出すから、テレビには出ない! 絶対にイヤだ!! なんで私を褒め称える歌を、私が歌わないといけないんだ!? いっちょん分からん! この歌、他人に歌われるだけでも魂がガリガリ削られるのに!! この上自分で歌ったら、『存在の力』がゼロになる!! う、宇宙の果てに逃亡しなきゃ!! 『終焉の銀河へ』!」


 するとアリスが キリッ として鬼畜を口にする。


「命理ちゃんに至魂の証を借りてでも、見つけ出します」

「誰だあんなもん、ダンジョンで出したの!!」


❝年末楽しみ!❞

❝最高の年越しができそうだ❞


 人前で自分を称える歌を歌うとか、私は恐怖に震える年越しになりそうなんだけど。


 その後、虚ろになった私はしかし、リッカにせがまれ――しばらく数学を、図形やらを用いて説明していった。

 半分『鏡地獄』を暗唱しながらだったらしいけど。

 やがて答案のチェックも終わって、みんなでマンゴープリンをオレンジジュースで嗜むという甘ったるい空間になった。

 リッカが、マンゴープリンの甘さに顔を溶けるようにメタモルフォーゼさせてから「そういえば」と、顔を戻す。


「60層の空間の裂け目の位置が特定されたみたいだぞ、ボス攻略が始まるみたい」

「どんなボスなの?」

「なんでも、10層20層30層のボスを大量に引き連れているらしい。いっぱい出てくるボスは、柔らか目ではあるけど」


 アリスが、吸っていたストローを離して顔を歪めた。


「それはまた・・・・厄介なボスですねぇ」

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