315 コケェ
『スウさん・・・・我々を作った旧人類は――御存知の通りベクターに襲われ・・・・そして非情な文明と成り果てました。――けれど、もしも彼らがアイリスさんに襲いかかる事だけをせず――なんとか救い出そうと考えていたら・・・・あの方々は滅びなかったのでしょうか・・・・? たとえ対話が出来ない相手でも、なんとか元に戻そうと考えていたら――でも、アイリスさんをあんな姿にしたのは・・・・旧人類ですし、彼女を他の時空を滅ぼすために送り込んで、――帰ってきたら人間に戻そうなんて、虫の良い話ですが』
「私にはわかりません・・・だけど、ダンジョンで見た子供のアイリスさんはとても優しそうで、穏やかで・・・戦いをしたい人間には見えませんでした」
『そうですよね・・・・少し他の連理演算機と、マザーMoBの破壊酵素の破棄を議論してみます』
「・・・難しい問題だとは思います――すみません。もう、私程度では何も言えません」
地球人で言ったら、核を放棄するかなんて問題だと思う。
製造方法のレシピまで捨てたら――それでアイリスを救い出せなかったりしたら、目も当てられない。――というかレシピはまだ有るの? ロストテクノロジーとかだったらヤバすぎ。
『いえ。大変、有意義な会話でした。――これはプレイヤーさんが、戦いで死なないようにする方法を本気で探さないと駄目ですね――今も本気で探していますが・・・・アイリスさんをより悲しませないためにも』
「――はい、私からもお願いしたいです。・・・・アイリスは、嫌でもマザーMoBとしての行動はやめられないのでしょう。止められるなら、とっくに止めている筈です。だからといって、アイリスが誰かが死んでしまうのを見て心を痛めないとは思えません」
『はい、何とか模索してみます――というか・・・・今回のホムンクルスの件、本当にありがとうございました。スウさんのお陰でプレイヤー蘇生の件、上手くいきそうです』
「本当ですか!?」
『はい! 連合内でも拍手喝采ですよ』
「いえいえ、アリスやリッカも頑張ってくれたので」
『それはもう、みなさん何か欲しいものはありますか?』
「んー、今はちょっと思いつかないです。アリスとリッカに聞いてみて下さい」
『アリスさんはもっと大型の刀マグナムが欲しいと仰っていました。リッカさんは枯渇している勲功ポイントが欲しいと』
ほんと、あのチビっ子、いつも勲功ポイントを枯渇させてんな。
『スウさんもなにか有れば、なんでも言ってくださいね。お手伝いも出来たらさせて頂きます』
「はい、その時はよろしくお願いします」
んー、これ「貸し一つな」みたいな感じ?
『しかし、嘗てMoBは、まず復活用のデータサーバーを狙ってきたんですが・・・そこすら、ベクターのハンプティダンプティという少年が一度だけ狙ってきただけで・・・・今のMoBはサーバーを一切攻撃してこなくて――我々は困惑するばかりです』
「本当に昔とMoBの性質が違うんですね」
『はい。――では、スウさんは今まで通り、お心のままに。たとえ、わたくしたちと対立することになっても』
「えっと―――はい・・・・って言って良いのかな・・・? でも、はい」
『では今回のアイリスさんプレゼンツ、エッグ・モンスターイベントを楽しんで行ってくださいね』
「はい!」
でも、ブラックホールに囚われているアイリスを・・・・どうやってこっちに連れ戻したら良いんだ・・・・。
「あの、クナウティアさん」
私は通信が切られる前に、尋ねてみる。
『はい?』
「アイリスをブラックホールから救い出す方法は見つかったんですか?」
『・・・・すみません―――模索中です』
「・・・そうですか」
こうして私は、クナウティアさんとの通信を終えた。
もとに戻すのは、謎の声の言う通り〖再生〗で行けるかもしれないけど、ブラックホールから救い出す方法が問題なんだよなあ。
「な、懐いてくれない!!」
私は、比較的簡単にエッグ・モンスター達を捕まえられた。
だけど問題が発生した――懐いてくれないのだ。
「なんで!? 私は結構動物に好かれるし、私も動物が大好きなのに!」
ロッジで、頭に蛙をのせて膝にマンドラゴラをのせてグリフォンにより掛かられながら叫ぶと、アリスが苦笑い。
「リイムと、ケロりんと、ドラ子にはそんなに懐かれているのにおかしいですねぇ」
「ほんとになんでエッグ・モンスターは駄目なの!?」
――まずは哺乳類のエッグ・モンスターを試し、丸い毛玉に逃げられ。
鳥類を試し、丸い羽毛に逃げられ。
魚類を試し、丸い貝に逃げられ。
――とにかく全部試した。
・・・なのに。
私の割った卵から出てきた白い毛玉が、アリスの膝に収まった。
「あら、この子はわたしを気に入ったみたいですね。スウさんの産んだ子ですし、わたしが貰いましょうか」
産んではいない。
机でモニターをみながらプリンを食べていたみずきの頭に、丸い貝が飛び乗った。
「お、なんだ? お前はウチにくるのか?」
丸い貝がみずきにスリスリしている。
二人は卵をゲットできなくて困っていたから、ちょうど良いのだろう。
スキルとかあんまりこだわりが無いみたいだし、それより懐いてくれたのが嬉しそう。
しかし、二人にはすぐ懐くのに。
「・・・・なんで、私にはどれも懐かないの・・・? 全部試したのに」
「あの、なんで嘘つくんですか?」
「う、嘘?」
アリスが私の背後を見つめる。
そこに、緑の卵。
私は、隠すように覆いかぶさる。
「いやっ、これは!」
緑は妖精の卵・・・。
妖精ダメ、絶対!!
「早く割って下さい。もうそれしか無いのは、自分でも理解しているのでしょう?」
「・・・・・・・・・・・・ヤダァ」
私は床に五体投地する勢いで崩れ去る。――ドラコと卵を横に避けてから。
「イャアアア、ィャナノォォォ」
「発狂しても無理ですよ」
アリスのため息が聞こえてきた。
なんか脳裏に、アイリスのいたずらっぽい笑みが見えた気がした。
絶対楽しんでやがる、――あの人。
まあ・・・いいかあ。アイリスが楽しいなら。
私は床に顔を埋めたまま、緑色の卵をズルズルと引きずり寄せた。
そうして突っ伏したまま自分の頭に卵の底をぶつけて、床において、コロンブスの卵をしてみる。
「早く割れ」
いつも敬語のアリスが怖い声を出したので、ペリペリと割った。
「まあ、〖テレポート〗が欲しかったし」
妖精は私的にはイチオシのスキル〖テレポート〗を覚えれる可能性があるんだよね。
育て方を調べて〖テレポート〗を覚えよう。
卵を割ると、中から丸い光に蝶の羽根を持ったモンスターがでてきて私の頭にとまった。
ゆっくりと鱗粉を散らせながら、羽根をくつろがせている。
「懐かれましたよ。良かったですねえ」
「こんなにもあっさり・・・・やはり作為を感じる。――おのれ、アイリス・・・・覚えてやがれ・・・」
とか思っていると、妖精の光が強くなりだす。
「えっ」
「なんですか!?」
「モノノ怪か!?」
「コケ」(どうしたの!?)
光は部屋を明るく照らし出すほど強くなり、さらにリイムに収束していく。
「コケ、コケコケコケ!!」(なにこれ、ママ!!)
「リイム!!」
光はさらに、虹色になりながらリイムに纏わりつくようにして――
「コケーーー!!」(ママ、助けて!!)
「リイムーーー!!」
――パッ と消えた。
「コケェ?」
「リイム?」
するとイルさんドローンが反応した。
『マスター、リイムさんがスキルを取得したようです』
「え?」
「コケ?」
『〖アポート〗のようです』
「「なんでやねん」コケケコケ」(なんでやねん)
「しかもなんで、自分を転移する〖テレポート〗が欲しい私に、他を引き寄せる〖アポート〗を寄越すんだ・・・・」
ぐぬぬ。
でもまあ、リイムが強くなったならそれはそれでいいかあ。
しかも後に分かったんだけど、リイムはバーサスフレーム無しでスキルが使えた。
もしかしてリイムがバーサスフレーム扱い? どういうことなの・・・。
最近忙しくて推敲する時間があまり取れません・・・誤字脱字が多くなるかもです><




