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314 蘇生技術の目処が立ちます

◆◇Sight:三人称◇◆




 ファンタシアのホムンクルス工場の調査から帰った大佐の報告を受けたアイビー・アドミラーは、眉をひそめていた。


「――人工的な量子による、人工魂(じんこうこん)ですか」

「はい、ファンタシアで発達させた量子魔術を用いた魂の生成のようです」

「・・・・なんという事をするのです――」


 アイビー・アドミラーは渋い顔になり、大佐からもたらされた資料に細かく目を通していく。


「――あちらでは魂の解析が済んでいるのですか?」

「魔術的になら、かなりの所まで。どうも、向こうでは神秘的な事象まで魔術に利用しているようでして」

「魔術的? 神秘的? ――理解が追いつきません、例えばどういう事ですか?」

「一例を挙げれば、運です。彼らの魔術は。量子の位置まである程度コントロールしているようなのです」

「量子の状態までコントロールするのですか・・・・!? ――どうりで恐ろしい魔術を使うわけです」


 アイビー・アドミラーは、氷の妖精族だというティタティーの見せた、恐るべき魔術を思い出し身震いした。

 大佐も、資料のコピーをめくりながら答える。


「また、我々の知らない全く未知の人工量子まで作られており、その様な物が我々では考えられない現象を引き起こしている様です」


「それは・・・・侮れませんね。ファンタジー世界――しかし、蘇生医術はこれにより劇的に進歩するでしょう」


 資料を確認している大佐は、アイビー・アドミラーに「資料の何枚目ですか?」と尋ねられたので「47枚目です」と答えてから返事をする。


「はい、一気に飛躍するはずです」


 今回のことでアイビー・アドミラーは、ファンタシアの魔術は銀河連合に不可欠だと結論付けた。


「連合の優秀な魔術師をファンタシアに送り込み、魔術を研鑽させなさい」

「はっ」


 大佐の意見も同じだったので、異論はない。

 アイビー・アドミラーが別の資料を自分の机の上から持ち上げる。


「正しい蘇生の確立――急がなければ・・・・けれど・・・やはり本人としての蘇生は難しいのですね」


 辛そうなアイビー・アドミラーの言葉に大佐が首をふる。


「いえ、〖ザ・ワン〗とその仲間が発見した・・・・かの図書館を調べた所、少々気になる記述が」

「なんでしょう?」

「強力な〖サイコメトリー〗ならば、残留思念から魂の複製を作り出したという記述があり」

「魂の複製!? ――いや待って下さい、それは・・・それこそ本人なのですか!?」


 言われて大佐の顔が「ハッ」となった。


「確かに。・・・・どうなのでしょう」


 アイビー・アドミラーが、両手で頭をガリガリと掻く。


「もう本当に人の定義、魂の定義が分からなくなります! 私の脳内で倫理が有頂天バーストしそうです!」

「有頂天バーストとは?」


 大佐の真面目な顔の質問に、アイビー・アドミラーが頬を染めた。


「い、いえ、なんでもありません。――私は、また暫く研究室に缶詰ですね」

「そこは、自分は何もできません。頑張ってください」


 何だかんだで、アイビー・アドミラーの頭脳は優秀なのだ。――ポンコツだが。





◆◇Sight:鈴咲 涼姫◇◆




 よく考えたら、さしあたりスケさんの号令で、元・PKの皆さんが見守ってるから滅多なことはそうそう起きないはず。


 というわけで私と命理ちゃんは綺雪ちゃんのお手伝いに、ユニレウスの基地へGo。


 私用の格納庫で綺雪ちゃんと綺怜くんが待っていた。


「で――綺雪ちゃん、綺怜くん。なに? どうしたの?」

「このイベントのエッグモンスターっていうのが素早くて、捕まえられないんです!」

「捕まえられないんだよ!」

「ふむ」


 私は、綺雪ちゃんが指で押して寄越したウィンドウを眺める。


「なになに、『51層解放記念イベント 〝君のパートナーを見つけよう。探せ、エッグ・モンスター〟? ダンジョンクリア後、こんなのやってたんだ?」


 広い宇宙で卵を探し回るのか。


 卵からはペットが生まれて、ペットはスキルをくれる・・・・と。


 音子さんが卵を追いかけていた奴だ。


 卵のサイズは鶏の卵サイズだけど、卵が〝いる〟方角は、VRのマップに表示される――と。

 そのまま探したら、砂漠で小さなダイヤモンドを探すなんてレベルじゃないんもんね。


 とりあえず広い宇宙で卵を探し回る。


『見つけた、エッグだ!!』

『ピンクい!! かわいいのが出てきそう!! (のが)すなァ!!』


 綺怜くんと、綺雪ちゃんが嬉しそうに追いかけだす。

 しかし、綺雪ちゃんは可愛いのを求めてるのに、口調が雄々しい。

 すんごい必死――でも、気持もわかる。


 スキルを確実に一個貰えるんだから。

 しかもこの卵は逃げるだけで、一切攻撃してこない――逃げ足は物凄いけど。


 フェアリーテイルでも、全力を出さないと追いつけない。

 しかもジグザグに逃げたり、遮蔽物を利用したり、透明になるのまでいて、一筋縄じゃいかない。


「や、やっぱり宇宙は滑ります! 上手く飛べないです。スウさん助けてーーー!」


 綺雪ちゃんが、とんでもない軌跡で飛ぶピンクい卵に翻弄されて、くるくると明後日の方向に飛んでいく。


 私は綺雪ちゃんを受け止めてから、エッグ・モンスターを追いかける。

 ちなみにエッグ・モンスターを攻撃したら中身が死んでしまうので、攻撃をしてはいけない。


 ただし、スキルをくれると言っても懐いてくれるのは一人に一匹まで。

 でも一匹限定とはいえ、確実にスキルを手に入れられるチャンスだと言うことで、みんな結構マジにペットを探してる。

 あと手に入れるスキルを、ある程度自由に選べるのも大きい。


 自分の欲しいスキル系統のペットを見つけて、その子の育て方で発現するスキルが変わるのだとか。

 かなりの種類があるみたいで、攻略wikiのコメントで確認したところ、現在確認されているスキルの系統は8系統。


 物体生成系、機体性能アップ系、機体修復系、超能力系、武装追加系、生産系、僚機系、謎系。

 計8種類。


 で、系統は見た目で分かって。


 物質生成系は、鳥類。

 機体機能アップ系は、魚類。

 機体修復系は、哺乳類。

 超能力系は、妖精。

 生産型は、植物。

 武装追加系は、爬虫類。

 ペット僚機系は、メカ。

 謎系は、幾何学。


 な見た目をしてるら――


(まって?)


 ―――いま〝妖精〟ってのが見えた気がするんだけど?

 もう一度wikiコメントに目を落とす。

 やっぱりだ「超能力系――妖精タイプ」って書かれてる!!


 ぜっっったいに、超能力系だけはペットにしないぞ!?


 誓った私はwikiをさらに読む。


 育て方による、詳しい分岐で確認されているのは、こんな感じ。(一部、これが有るんだから、こっちも有るだろうって予想されてるだけのも有るけれど)


■物体生成:電気、ガス(各種元素)、液体(各種元素)、金属(各種元素)


■機体性能アップ(一部、他者にも掛けられる):加速力アップ、航続距離アップ、最高速度アップ、攻撃力アップ、防御力アップ、耐久力アップ、劣化阻止、シールド性能アップ、バリア性能アップ、関節稼働力、変形速度アップ、気流制動性、近接攻撃力アップ、遠距離攻撃力アップ、索敵能力、旋回能力、VRシンクロ率アップ


■機体修復:自動修理、修理、範囲自動修理、範囲修理、故障検知、バリア回復、シールド回復


■超能力:パイロキネシス、エレクトロキネシス、などなどキネシス系、テレパシー、テレポート、アポート、念動力、予知、透視、千里眼


■武装追加:ブラックホール爆弾、反射レーザー、追尾レーザー、チャージレーザー、拡散レーザー、ドリルレーザー、マグネタービーム、全身からレーザー、未来予測、限界突破、作戦立案、透明化、フラッシュバン、スモークグレネード、残像、暴走、軟体化、フォース武器


■生産:バイオ、精密機器、大型機器、建築、積載量アップ、採掘量アップ


■ペットの僚機化:盾役、攻撃役、回復役


■謎:ヘイト集め、クールタイム減少、攻撃反射、建設、鑑定、毒回復、追跡、地形適応、危険察知


 さらに貰えるスキルと、最終形態は連動してるみたい。

 どんな最終形態姿になったら各スキルをくれるのかまでは、まだ殆ど報告がないので割愛。

 ただし、ペットはバーサスフレームにスキルを追加するわけで、ペットとバーサスフレームはワンセット。ペットスキルは、バーサスフレーム内部でしか使えない。


 私はwikiコメントをを見ながら、ピンクい卵を捕獲完了。

 ピンクい卵を欲しがっている綺雪ちゃんに渡して、一緒に来ている命理ちゃんに宇宙で呟く。


「命理ちゃん」

『どうしたの、涼姫?』

「なんかさMoBがやることがさ、どんどんゲーム化してない?」

『それは、感じるわ』

「もしかして、アイリス――私達プレイヤーを楽しませようとしてる?」


 するとだった。突然イルさんドローンから女性の声がしてきた。


『スウさん。その考え、全くの同意です! 我々も感じていたのです!』


「ク―――クナウティアさん、聴いてたんですか・・・」


 か、監視されてる?


『配信を拝見させていただいておりました』


「な――なるほど」


 監視されてる? とか思ってすみません。


『このデータを見て下さい。今年の4月のある日を境に、急激に印石の出現率が上昇しているのです。この日からどんどん上昇し、8月の終わり頃には2倍になっているのですよ。2倍といっても元の出現率があまりないので・・・・微妙なんですが――しかし、明らかに印石の量は増えています』

「ある日?」

『貴女が命理さんと接触した頃です――その次の日、日本時間のおおよそ4時から一気に1.5倍まで伸びました。そこから数ヶ月かげて徐々に伸びて、皆さんの夏休み頃にさらに2倍に達してそこからはほぼ横ばいです。我々も数万人を動員してMoBを掃討しているので、かなり正確なデータの筈です』

「4時・・・そういえば・・・・命理ちゃんを助けた次の日の朝、私はアイリスに関係する夢を見たんですよね・・・そこで名前を呼びあった筈なんです。そして、アイリスに『命理ちゃんを宜しくね』って言われたんです」


 私が言うと、フェアリーさんの前を飛んでいた命理ちゃんが、瞠若していた。

 黄金の歯車のような虹彩に、幾つもの流れ星のような光が流れる。


『アイリス――そんな事を言ってたの?』

「うん。前は忘れてたんだけど、40層のボス攻略の時、夢をはっきり思いだしたんだ」

『・・・そっか、アイリスが』


 クナウティアさんが、納得の声を返してくる。


『なるほどです――・・・やはり命理さんの復活が何かの鍵になっているようですね。そして更になのですが、印石の出る種類にも大きく変化が起きています』

「印石の種類ですか?」

『クレイジーギークスの皆さん。一切、直接的な攻撃スキルを所持していないのではないですか? 有っても人を気絶させるのに絶妙な〖空気砲〗。あとは〖超怪力〗程度――しかも、これらも直接攻撃とは言いにくいレベルなんですよね。昔は槍の雨を振らせたり、銃弾を発射したり――超能力も熱を上昇させる〖パイロキネシス〗や電気を操作する〖エレクトロキネシス〗などが、大量に出ていました。最早武器のような印石ばかり。他には最近は〖毒耐性〗や〖毒無効〗ばかり出すMoBは、以前は〈毒〉や〈猛毒〉を出していたんですよ。――ところが、命理さん救出後から――出ない事は有りませんが、ほとんど出現しなくなりました』

「そ、そうなんですか??」


 いや・・・・私にも心当たりはある。例えばヒドラも、サンドウォームも、マンハント・ペリトンも毒を使ってくるのに、なんで〈毒〉や〈猛毒〉を出さないんだろう? と思っていたんだよね。

 結構〖毒〗や〖猛毒〗のスキルを持ってる人はいる――例えばさくらくんが〖毒〗と〖毒無効〗を持っている。サンドウォームから手に入れたらしい。

 そして私は相当印石出やすいはずなのに、どれだけサンドウォームを倒しても、一つも〈毒〉の印石が出なくて、首を傾げていた。


『これは、もしかしたらアイリスさんの心境の変化を表しているのかもしれません。スウさんのアイリスさんを助け出したいという思いが、アイリスさんに伝わったのかも・・・・推測でしかありませんが――それに・・・脅威度も下がっていっているんですよね』

「脅威度?」

『・・・・はい。マザーMoBの強さには脅威度がありまして、それがユニバーサルシティ奪還の次の日くらいに最低まで下がりました』


 次の日・・・私は、フェンリルさんとか、ミサキちゃんやネモさんに会った日だっけ?


 すると、命理ちゃんが小さく呟いた。


『あのね涼姫。当機、異世界ダンジョンの200階をクリアした日の夜――アイリスの夢を見たの』

「夢?」


 なんかもう―――ここまでくると、アイリスの夢を観るのは、重要な出来事な気がしてきた。


 クナウティアさんも同様の考えなのか、真剣な声で命理ちゃんに尋ねる。


『命理さん、一体どのような夢ですか?』

『アイリスがね、プレイヤーを見ながら楽しそうにしているの。楽しそうなプレイヤーを嬉しそうに見て「もっと楽しんで貰いたいな」って言ってるの』

「なる・・・・ほど。じゃあアイリスは本当にプレイヤーを楽しませたくて?」


 全然あり得る。――特に今回発見されたエッグ・モンスターなんかもう、MoBとは思えない。完全にプレイヤーの強化要素だ。

 クナウティアさんの声が、さらに真剣になる。


『とすれば・・・・我々がプレイヤーさんたちを迎え、楽しくしてもらおうとした考え方は』


 私は、思わず前にのめりになった。


「きっと、間違ってないんですよクナウティアさん!」

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― 新着の感想 ―
更新お疲れ様です。 エッグ・モンスター……半熟○雄を思い出す読者は多分自分だけじゃない筈ww 大丈夫とは思いますが、エッグ○ンみたいな完全ハズレモンスターが当たったりしないかちょっと心配ですね(笑)…
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