313 謎のイベントが始まってます
「涼姫、ハンバーグ出来た?」
「まだまだ、3時間掛かるよ」
「そんなに?」
「うん」
「じゃあ待ってる間、一緒に踊る?」
「3時間も踊ったら倒れる。――待ってる間、プラモバトルでもしない? ――暖炉の火の番をしながらだけど」
「むむっ。いいわよ」
命理ちゃんが、〈時空倉庫の鍵〉から、白いバレリーナのような機体を取り出した。
私も〈時空倉庫の鍵〉から、十六夜テイルを取り出す。
命理ちゃんが、十六夜テイルを見て頷く。
「知ってるわ。配信で見た、十六夜テイルね」
「うんうん。――命理ちゃんの機体は何ていうの?」
「・・・・この子の名前――分からないわ、忘れてしまったの」
「あ・・・ごめん」
「構わないわ。涼姫に名前を付けて欲しいの」
「えっ――わ、私? 私、名前つけるの下手だよ?」
「涼姫が付けてくれたら嬉しいの」
「えっと、じゃあ」
私はしばし考えて。
「白いバレリーナみたいだから――ヴァイス・リーナ・・・!」
「リーナ――いいわ。かわいいわ」
「よ、よかった!」
命名。ヴァイス・リーナとなりました。
そうして戦ったんだけど。
「強ッ――命理ちゃん、強ッ!?」
「そうなの。当機はなぜか、ソルダートだけは強いのよ。身に染み付いてる気がするの」
「うーん・・・・昔やってたのかもね」
「・・・かもしれないわ」
「さて、そろそろ魚を焼き始めないと」
ちなみに、プラモバトルをしている間に、ご飯も炊き始めた。
あと、プラモバトルをしている間に、激しい雨が振り始めた。
さて、魚。私は暖炉の前面のスペースに炭を持ってきて、台をつくって網を置く。
「炭を使うの?」
「煙が出ないからね。温度も高いし、遠赤外線も出る――魚を焼くコツは遠火の強火。するとふっくらと焼き上がる。コンロによく魚用のグリルがあるのは、このせいだよ。お掃除が面倒だからって、普通のコンロで焼いたら美味しい焼き魚は出来ない」
「ふっくら? 焼き魚ってガチガチじゃないの?」
「ふふふ、今から柔らかい焼き魚を食べさせてあげるね」
さて、ニジマスの内臓を処理。
胃とかは何が入ってるかわからない(ニジマスは虫とか苔とか食べてるから)ので取って、食べられる内臓はそのまま。
ニジマスを炭火に掛けたらタルタルソースを作ろう。
卵をコッヘルに入れて、水を入れて強火の場所に置く。薪に抱かせるように。
この卵は新鮮な取れたて。餌も特別なものが使われているらしく、割ればきっとオレンジ色の張りのある盛り上がった黄身――いや、最早オレン身が見えたはず。
卵を直接火にくべるような、豪快な事はしない。
殻が割れたり、剥き身にまで煙の匂いが着いちゃうから、タルタルには向かない。
その間にマヨネーズ作り。
QPさんは美味しいんだけど、せっかくなんで自家製。
先に、タルタル用の玉ねぎと、ピクルス、パセリをみじん切り――空賊ゴーグル再び。
私はピクルスが大好き。
一本つまんでコリコリしておく。
刻んだ玉ねぎは辛味を抜くために、ちょっと焼く。
そうして中型サイズのコッヘルに、卵を割る。
ほら、やっぱりオレン身だった。
卵をミニ泡だて器で泡立てる。
電動泡だて器を使いたいけど、キャンプ想定なのでミニ泡だて器。
「ぬおおおっ」
もちろん腕が疲れる。
1分もすると、乳酸の痛みに耐えられなくなってきたので。
「・・・〖念動力〗」
「ズルだわズルをしてる人がいるわ」
「見ないでっ」
「そこまでするなら普通に電動泡だて器を使えばいいのよ」
「それは、なんか負けた気がするから」
「よく分からない拘りだわ」
あくまでキャンプ想定なんだ。
黄身と白身が混ざったら、油を入れる。
ここで使うのはひまわり油。
なんでサラダ油じゃないかって、生のサラダ油の独特の匂いも苦手なんだよね。
なので香りもよく、生食できるひまわり油にしてる。
油をちょっとずつ入れて、混ぜ合わせる。
その間に、ハードボイルドなゆで卵をお湯から引き上げ、水に入れて冷ます。
さらにマヨを混ぜて、最後にマスタードとお酢を入れたら出来上がり。
出来たマヨに、刻んだ玉ねぎ、ピクルスを入れてちょっと混ぜる。
そうしてハードボイルドなゆで卵を刻んで入れる。
最後に刻んだパセリ、レモンを少々。
――これにてタルタルソースの出来上がり!
ニジマスも良い感じに焼けた。
煮込みハンバーグもいい感じ。
ではロコモコ丼も仕上げに入ろう。
私はコッヘルのフライパンで、卵を焼く。
ご飯もいい感じに蒸らせた。
私は大きめの紙皿に、ご飯を盛り付け。
その上に目玉焼きと煮込みハンバーグを盛り付けて、ハンバーグを煮込んで旨味たっぷりのソースを上から掛ける。
さらにトマトを添えて、ハンバーグにパセリを一振り。
ニジマスを添えて、タルタルを掛けたら
「できた!」
――ハワイアンな一皿料理。ロコモコ丼にニジマスを添えた一皿。
「美味しそうだわ」
「食べよう食べよう!」
私と命理ちゃんが、アウトドアチェアbyインドアに座る。
「では」
「「いただきます!」」
先ずはニジマスから。
箸でニジマスを突いて開けば、ニジマスがほろりと崩れる。
口に運べば新鮮プリプリなのに柔らかい。
内臓も苦みがいい感じ。
次はハンバーグ。
箸でハンバーグを開けば、輝く肉汁がジュワっと溢れ出した。
「いい感じ」
卵の黄身を潰せば、黄身がお皿の縁をなぞって、ソースと絡まった。
私はハンバーグを黄身の絡んだソースに付けて、グレイビーソースで染まったご飯と、一緒に口へ入れる。とたん、牛肉の旨味が口いっぱいに広がった。
濃厚で複雑な味わい。
これはもう、味わいの宇宙だ!
私が味わいの宇宙を揺蕩っていると、命理ちゃんが口元を上品に押さえて微笑む。
「涼姫、とっても美味しいわ」
「よかった!」
ふと窓を見れば、
「雨が上ってきたね」
「そうね、光のカーテンが美しいわ――今の幸せを祝福してるよう」
「だねっ」
その後、命理ちゃんと同じテントで寝て、部屋キャンを満喫しました。
さて次の日の朝、撤収(既に撤収地にいる、撤収)。
テントを畳んでいると、綺雪ちゃんから通信が入った。
『スウさん』
綺雪ちゃんの焦った声から、また事件かと思ったら全然違った。
『手伝って下さい! 卵が捕まえられないんです!』
「たまご?」




