304 スウさんが、知恵の守護者に無双です
上から翼の音が聞こえてきて、ライオンの体に人の顔を持つ、巨大な生き物が降りてきました。
スフィンクスとかいう名前っぽいですね。
ギリシャタイプのスフィンクスです。
ハーピーの下半身が獅子になった、ケンタウロスみたいな感じですね。
腕の代わりに翼が生えてます。
おっぺぇは、長い髪で隠れています。
推定スフィンクスが空中にホバリングしながら、口を開きます。
『我は知恵の守護者。汝らが我の問に答えられれば、道を示そう。だが我が問に一つでも答えられなかったときは、その頭を噛み砕かせて貰う』
わたしは顎に手を当て、頷きます。
「なるほど」
〝なぞなぞ〟を解く感じですか。
あっちの戦力で、わたしたちの頭を噛み砕けるかはともかく。
『さあ、汝らに問おう! 足の数が、朝は四本、昼は二本、夜は三本。この生物は何か!』
「・・・・」
わたしと、スウさんと、リッカが絶句しました。
ですが、ファンタシア組の4人は驚きます。
「な!? ―――そんな奇っ怪な生き物がいるのかニャ!?」
「わ、わからん・・・・そんなモンスター見たことがないぞ!?」
「わたくしの知るどの伝承にも、あのような生き物の話は・・・」
「わからない」
4人が答えに窮しています。
スフィンクスが、嬉しそうに嗤います。
『カッカッカ! そうだろう、そうだろう! ――では、貴様らの脳みそを、味わわせて貰おうか』
「人間」
わたしと、スウさんと、リッカの声がハモりました。
『―――!?』
スフィンクスが驚愕しています。
いやそれ、滅茶苦茶有名な〝なぞなぞ〟ですもん。
確かにスフィンクスが出題したというヤツですが。
『な、なぜ人間だ!!』
わたしは答えます。
「赤ん坊のときはハイハイして四本足、成長すると二本足で歩き、老人になると杖を突いて3本足」
『せ、正解だ――な・・・・なぜ、この超難問に答えられるのだ!?』
「―――さ、さすが学士様達! あの難問に即答なさるとは! 感服いたしました!」
「なるほど、たしかに人間ニャ。敬服ニャ」
「・・・やはり学士達は、すごいな」
「さすがスウ達」
リッカが褒められて、胸を張って鼻の穴を膨らませています。
止めなさい、恥ずかしいから。
『だが、次は答えられんぞ。この世界では知られていない摂理の問題だ』
「なるほど、今度はクイズですか。――でも知られていない摂理とかズルくないですか?」
『無知な貴様らが悪いのだ。汝らに問おう! 夕日は、なぜ赤い!』
あ・・・コレは・・・・。
スウさんが即答します。
「レイリー散乱ですね」
『――は? レ、レイリー散乱とは――な、なんだ』
「おや? 知恵の守護者がご存じない?」
スウさんが煽ってます。
ですが、地球での名前を知るわけないんですよね。この星の生き物が。
❝煽ってて草❞
❝知恵の守護者、面目丸潰れwww❞
『そ、それは・・・! 青い光などが――』
まてまて、出題者が答えを言ってどうするんですか。
「散乱するからですよね? 夕方になると太陽の角度が浅くなり、光が通過する大気の距離が長くなります。そうすると、大気中で波長が短めの青緑黄辺りが散乱され、残った赤系の光が目に届くため、結果夕日が赤く見える」
スウさん。前に小学生に、夕日がなぜ赤いか簡単に説明してましたもんね。
あの時と違って、今回はガチですが。
『は、波長?』
「おや・・・?」
スウさんに煽られ掛けて、スフィンクスが慌てます。
『――いやそうだ! 光とは波なのだ!!』
「・・・・おやおやぁ? 知恵の守護者が、光は波と粒の性質を持つというのを知らない?」
小学生にはあんなに優しく教えてたのに・・・今日は容赦がないですね。
『し、知っておる! 光とは波と粒の性質を同時に持つのだ!』
あ・・・あれは知らない顔だ。
「では、素人質問で恐縮なのですが』
『し、素人質問!?』
❝でたw 抹殺文句w❞
❝学者を殺すに刃物は要らぬ。素人質問すれば良い❞
「光を観測しなかったらどうなりますか?」
『か、観測!? 観測が光になにか関係あるのか!?』
「おやおやぁぁぁ・・・? 光は観測しないと、波になるんですよぉ?」
煽る煽る。
『そ、そうなのか・・・!?』
「では、再び素人質問で恐縮なのですが。観測するとどうなります?」
『ど、どうなるのだ?』
「粒になるんですよ」
『そ、それは可怪しい! なぜ観るだけで光の形態が変わるのだ! そんな馬鹿な話があってたまるか!』
「はーーー」
スウさんが肩をすくめて、首を振りながら盛大なため息を吐きました。
どうやらこのスフィンクスは、量子力学を知らないようです。
わたしも、二重スリット実験くらいしか知りませんけど。
「駄目だ、この知恵の守護者」
『な、なんだと!?』
❝これは酷い❞
❝ファンタジー世界で量子力学マウントwww❞
❝やってる事、エグいからw❞
❝知恵の守護者に、知恵で完勝してて草❞
「じゃあ、負けを認めて扉を開けてもらえますか?」
『ならぬ! まだ問い掛けがある!』
「まだ分からないみたいですね・・・・。では少し、こちらからも出題してもいいですか?」
『えっえっ、――そ、そっちから出題?』
今までにない経験なのか、目を白黒させている巨大なスフィンクスの顔に、スウさんが指を突きつけます。
「汝に問おう。光の速さは、真空中で、おおよそ秒速30万キロだな?」
『な、なんとふてぶてしい奴だ。し、しかし――そうだ光は真空で秒速30万キロ―――〔秒速とはなんだ・・・?〕』
❝てふてふしいワロw❞
❝てふてふしてるワロw❞
「し、視聴者黙れ・・・。では、この光を――止まって見ている場合と、光を追いかけならが見る場合。どちらの方が光の進む速さが、速く見えるか!」
『そんなもの簡単だ! 我を舐めるな! ――動く物を、追いかければ、当然相手の見た目の速度は遅くなる。でなければ、追い抜くという行為が出来ないではないか!! この様な摂理問題が、知恵の守護者である我に分からないとでも思ったか、愚か者め! ――即ち答えは「止まって見ているほうが、速く見える」である!』
「不正解」
スフィンクスの驚愕。やがて吠える。
『んな訳あるか!』
スウさんは肩をすくめながら、ヤレヤレと首を振ります。
「どれだけ速く走っても、光を観測する者から光は、秒速30万キロにみえるのだ」
光速度不変の原理ですね。
『ふ、ふざけるな―――そんなもの筋が通らぬわ!! 他の摂理に反しておる! 貴様が物を知らない愚か者なだけだ! さては貴様、適当を言っているな!? もし貴様の口から吐いた言の葉が虚偽なら、立ちどころにその頭、噛み砕いてやる! ・・・・スキル〖真理判定〗――!』
スキルを使ったスフィンクスの目が、光りました。
スウさんを見る、光る眼が、徐々に驚愕で見開かれていきます。
『――な、なぜだ、なぜ奴が光らぬ!? ヤツの言った事が間違いなら光るはず。――ヤツの言っていることは正しいのか!?』
❝今度は相対性理論マウント始めたwww❞
❝ニュートンな速度の考えで分からない物を理解するために生まれた理論だから、ニュートンな速度の考えをしたら分からないのは当たり前w❞
以前スウさんの会話デッキが尽きて、唐突に特殊相対性理論を説明してくれた時に「先に、時間と空間の方が歪むのを説明してあげないと、分かりにくいんだよね」って言ってたのに、今日はそこを欠片も言わないです。容赦ないですね。
スウさんが、何かを握るようにスフィンクスの頭に右手を掲げます。
「じゃあ、頭を潰しますね。〖念動力〗」
『あ、あだだだだだだだ!! ――ま、待て待て待て! 我を殺したら扉が開かんぞ!』
「――むう」
『ええい、何なのだ貴様は!!』




