301 異世界で地球の料理で無双です
「でも、入口が見当たりませんね」
「よし、じゃあ」
スウさんが、〈時空倉庫の鍵・大〉から盾を取り出しました。
初めて見る盾です。
「盾なんか、どうするんですか? というか攻撃に掠りもしないスウさんに盾とか何の意味が」
「か、輝く為だよ・・・」
なんか、急にキョドられながら謂われました。
「輝く? スキルがあるじゃないですか」
「こ、この盾はね」
フェアリーテイルが、盾から何かを引っこ抜くような仕草をしました。
すると、盾から柄が伸びました。
「あ、・・・・でっかいシャベルになりました!」
「ふっふっふ。備えあれば憂いなし」
鼻の穴を膨らませたスウさんが、どでかいシャベルを使い砂漠を掘っていきます。
しばらくして、わたしが「そろそろお昼かな?」と思っていると、
「あった!!」
そびえ立つ、巨大な扉が発見されました。
巨大といっても、バーサスフレームが入れる程ではないですが。
スウさんは、扉周りを整備して言います。
「よし、今度こそ降りよう」
「はい」
「いよいよか」
「コケー」
「腕が鳴るぜ」
「応援はアタシに任せるニャ」
「我も応援いたしますぞ。そして勇者様の勇姿、この目に焼き付けます」
若干ニ名、手伝う気があるのか疑問を感じる人もいますが。
という訳で、みんなで降りて、扉を調べます。
「バーサスフレームで、扉を吹き飛ばすか?」
リッカが気の短い発言をしますが、
「マスターキーは最後の手段にしよう。ドアの近くに本があるかもだし――それになんかギミックがあってそれが壊れて進めなくなったら大変」
マスターキー?
わたしがまた、よく分からない単語に疑問を抱いていると、スウさんが扉をペタペタと触りながら調べました。
「うーん、ただの重い扉みたい」
「そういう事なら俺に任せろ」
ヴァンデルさんが進み出ます。
スウさんは頷いて、場所を譲りました。
「行くぞ――フンッ―――ヌォォォォォォ―――ッ!!」
ヴァンデルさんの全身の筋肉が膨れ上がり、躍動します。
「ォォォォッ!!」
メキメキと聞こえそうなほど筋肉が締まってますが、扉はビクともしません。
「トリテ、バルム手伝えッ!!」
ヴァンデルさんがヘルプを要請。
トリテさん、バルムさんも手伝いますが動かない。
みんなヘトヘトになって地面にへたり込みました。
「だめだ・・・開かん」
「あー・・・じゃあ、私がやってみるね――」
今度は、スウさんが前に出ました。
「――〖超怪力〗〖怪力〗〖念動力〗!」
ゴ・・・・ゴゴゴ。
うわぁ・・・スウさん一人で、あのヴァンデルさんとトリテさん、バルムさん3人がかりで動かせなかった扉を動かし始めましたよ・・・・。
「マジかよ・・・・」
「う・・・・うそニャ」
「さ、流石勇者様、以前より力が強くなっておりませぬか?」
「えっと、スウ・バージョン2です」
まあ、スキルのレベルを上げましたからねぇ。
「よし、開いた。じゃあ――」
あっとこのまま入るのは、ちょっと不味い。
「まって下さいスウさん」
「ん? どうしたのアリス」
「そろそろお昼にしませんか? ――図書館の中でハラペコは不味いのでは?」
「あっ、確かに。――じゃあご飯にしよっか」
「はい!」
「おっ」
「メシか」
「飯ニャー」
「『戦支度、腹の備えは怠るな』。と言いますしな」
「コケー!」
連合通販で食材を買って、転送されてきた食料をわたしとスウさんで、ワンルームのキッチンで食べ物に変えます。
「ワンルームは便利ですが、風情が無いですね」
「風情?」
「たまには、自力で火を起こしてメスティンとかコッヘルで料理したくないですか?」
「キャンプしたいの?」
「ファンタジー世界でキャンプとか楽しそうだなぁ。って思ったんです」
「たしかに楽しそうかも――今度やってみようか」
「はい!」
「オススメキャンプ場とかあるかなあ」
「いや涼姫、モンスターだらけの世界にキャンプ場はないと思います」
出来た料理を、砂漠にレジャーシートを敷いて食べることにしました。
せっかくなのでピクニック気分――ではなく人数が多すぎて、ワンルームでは食事が摂れないからです。
メニューはソースメンチカツ丼と、付け合せのサラダにマヨネーズというとても簡単というか――もはや手抜きな物なんですが。
「なんっだ、この美味い食い物は!?」
「こ、こここ、こんなの食べた事無いニャ!! 恐るべき美味さニャ」
ジャラーン
あ、バルムさんがティターを引き始めた。
「〽その味は楽園の蜜のように、その一口は夢の様に――」
「バルムさん、お行儀が悪いですよ」
わたしがマナーを注意すると、慌てるバルムさん。
「し、しかし、この料理は、我が声で伝説にせねば!!」
スウさん、苦笑い。
「大げさな」
「大げさなどでは御座いませぬ!! このメンチカツという物はなんなのですか!! サクサクの後に、ジュワっと染み出す肉汁、柔らかい歯ごたえの肉!!」
「そうだ! メンチカツを乗せたカツドンという物、実に気に入った!」
「ソースカツ丼ですよ? 『カツ丼にソースを掛けるのは野蛮人』なんですが」
「スウさん、止めなさい。福井県民に刺されます」
「そのソオスというのが、辛抱たまらんくらい旨いのだ!」
ヴァンデルさんが丼を持ち上げ、スプーンでご飯をガツガツと掻き込んでいきます。
スウさんも、丼からカツとご飯を持ち上げて口に入れます。
「まあ、私も好きだけど(もぐもぐ)」
「このケールに添えられた、マヨネエズというのも凄いニャ! 野菜が苦手なアタシに野菜を食べたくさせるニャ! それに、このケール、やたら柔らかいニャ」
「それは、キャベツだよ」
トリテさんの顔が、わたしに寄って来ました。
「アリスとスウは、元はどこかの宮廷料理人だったのかニャ!?」
「まあ、スウさんの料理の腕は突出してますからねぇ」
確かにスウさんの料理の腕はちょっと異常なので、スウさんが作ったメンチカツはとびきり美味しいですが、ソースとマヨネーズは市販品です。
でも、わたし達には普通の味でも、ファンタシアの人には凄いみたいです。
わたしとスウさんが興奮する3人を宥めていると、リッカがティタティーの手元を見ました。
「ティタティー、お箸使うの上手くなったなあ」
「うん。こっちの方が、スウとアリスの作る料理を食べる時は美味しいから。練習しておいた」
「分かってるな、ティタティー! ご飯は、舌で空気も一緒に味わうのだその為には細い箸がいい。麺をすするのも、空気を口に入れる為だぞ! そうすることで風味が増すのだ」
リッカが嬉しそうにしました。
・・・そういえばワインも、ソムリエは空気と一緒に味わったりするらしいですね。
エアレーターなんてワインに空気を混ぜる道具もありますし、デキャンタなんかも別の容器に移し換える事で空気に触れさせるんでしたっけ?
するとヴァンデルさん、トリテさん、バルムさんの目が怪しく輝きました。
「ほう」
「あの道具で食べた方が美味いのニャ?」
「これは、これは」
「「「俺(わたくし)にも、あの道具を!!」」」
迫力に引き気味になったスウさんが、割り箸の袋から竹の箸を3膳取りだします。
そうしてヴァンデルさん、トリテさん、バルムさんに配りました。
「ど、どうぞ」
「助かる!」
「ありがとニャ」
「かたじけない」
しかし、やっぱり。
「ゆ、指が絡まる!!」
「全然、オコメが掬えないニャ!!」
「ホッホッホ、旨い。確かにハシで食った方が旨いですぞ!!」
バルムさんはギターを弾くだけあって、指先が器用なのか、すぐに箸を使いこなし始めました。
そこからわたしとスウさんの手引によって、トリテさんも箸を使いこなします。
やはりトリテさんも器用です。
ですが、ヴァンデルさんはいつまで経っても使えませんでした。
「むりだーーー!」
「ニャハハハ、脳筋には無理だニャ」
「旨い、旨いですぞ!!」
「ヌググググググ」
悔しそうにするヴァンデルさんの筋肉が、メキメキと膨れ上がり始めます。
なんか闘気みたいなのまで噴き出しました。
そうしてヴァンデルさんは左手を、横に置いていた斧に――トリテさんとバルムさんが「ギョッ」とします。
「やめんか」
リッカが言って、バルムさんの右腕を持ちました。
すると、ヴァンデルさんが後ろに転がされました。
・・・やはり脅威のチビっ子。
「くっ、悔しいぞ・・・・なぜ俺だけハシが使えないのだ!」
男泣きに、目尻を袖で押さえるヴァンデルさん。まあ不器用なのは仕方ないですよ。
するとでした。
「じゃ、じゃあヴァンデルさん。座って下さい」
スウさんがヴァンデルさんの隣に座って、ヴァンデルさんの丼とお箸を持ちました。
そうして丼から、ご飯とカツを一切れ一緒に持ち上げ――ま、まさか!
「はい、あーん」
「!?」
ヴァンデルさんの驚愕。
「「!?!?!?」」
わたしとリッカも驚愕に目を見開きます。
「スウさん?!」
「何をしている、スウ!!」
ヴァンデルさんが、少し気恥ずかしそうに、でも嬉しそうに、
「あ、あーん」
口を開きました。スウさんは彼の口に カコリ と箸をいれて、
「ど、どうですか?」
「う・・・うむ・・・・なんだか、味が分からん」
「そうですか・・・じゃあもう一口」
わたしは、スウさんを羽交い締めにします。
リッカが、ヴァンデルさんを再び転がしました。
「ふざけるなヴァンデル!」
「スウさん、わたしにあーんを!」
「わたしが先だ、スウ!!」
「えっ、えっ、えっ」
というわけで、わたしとリッカは順番に、スウさんに「あーん」をしてもらいます。
「はい、アリス。あーん」
隣に座ったスウさんに、お箸でご飯を運んでもらって口に入れてもらいました。
ああゝ、これこそ至極。
究極かつ至高――正に至極。
『究極のメニュー』と『至高のメニュー』に、スウさんの「あーん」を加えましょうよ!
リッカもスウさんに「あーん」をしてもらいます。
リッカだと、赤ちゃんにしか見えませんね。
さてみんなでお腹も心も満足させて、いよいよ古代図書館に乗り込む段となりました。




