300 よく分からない軍隊との遭遇でした
この辺りにあった、トリテvsアリス、ヴァンデルvsリッカ。御城での晩餐の話はいずれ短編として放流します。
「なるほど、その古代図書館というのを探し出すのが今回の勇者様の目的ですか」
バルム・ラティウグと名乗ったドワーフだという男性が、ティターという持ち運びお琴みたいな楽器を ジャラジャラジャラーン と鳴らしました。
上手いですね・・・・流石本職。
現代日本のプロにも劣らぬ腕前。
まあ、この人もプロなんですから、当たり前ですか。
彼はスウさんのいさおしを、歌にするのが使命の吟遊詩人らしいです。
従者なんだとか。
スウさん貴女・・・・従者までいたなんて、わたしは知りませんでしたよ。
この惑星に来てから、スウさんのやらかしばかり見てる気がします。
前回よほど大暴れしたんですね。
「スウ殿、スウ殿はおられますか!!」
わたしたちは今、ファンタジーな酒場で、昼食を摂りながら話しています。
硬いパンや、大味で水っぽい野菜です。
肉に胡椒どころか塩すら掛かっていません。
これでも、この酒場で一番の定食らしいです。
これでは舌鼓は打てませんね。なんて思っていた所へ、小綺麗な男性が飛び込んできました。
そうしてスウさんの顔を見つけて、顔をほころばせます。
「おおおっ! スウ殿」
「あ・・・アンドリュー様の騎士さん・・・!」
「はいテデテです! 久しいです!」
「ひ、久しいって言っても、3ヶ月くらいしか経ってませんよ?」
「何を仰る、4ヶ月ではないですか!」
言いながら男性がスウさんの前まで来て、肘をナナメ45度にして胸に手を当てて、ナナメ45度にお辞儀。
スウさんが、一瞬考えて返事します。
「あ・・・・そうか、こっちは一日が20時間しか無いから・・・・まあ、3ヶ月も、4ヶ月も、そんなに差は」
「我々は、貴女様を一日千秋の思いで待っておったのです! ――前回はセーラ様とティタティー様にしかお会いにならなかったようですし。我が王も残念がっておりました」
「スウさん、この方はどなたですか?」
わたしは尋ねました。
「えっと」
スウさんが説明しようとすると、男性がわたしのサイドに移動して、またも胸に手を当てナナメ45度にお辞儀してきました。
「これは淑女の方の前で失礼致しました。わたくしはアンドリュー王の近衛騎士、テデテ・ドロウズと申します」
ふむ、この国では「紹介無しで女性に話しかけるのは、失礼」ではなく「女性に紹介させるのが、失礼」になっているのでしょうか?
まあ、女性に対しサイドに回ったのは良いマナーですね。威圧感が消えます。
しかし、
「騎士なんですか? ファンタジーの騎士って、もっとこう鎧でガチガチに固めて」
わたしが言うと、騎士さんが微笑みました。
「我ら万事、常に備えているとは言え、平時の町中で鎧を着て歩き回る様な狂人はおりませぬ」
「アリス、いくら騎士でもずっとプレートメイルで歩き回っていたらそいつは、気が触れてる」
ヴァンデルさんにまで、言われてしまいました。
するとリッカも、
「うむ、わたし達の国の過去には友を見殺しにしてしまった事から、常に鎧を着けていた武士がいたが・・・・ちゃんと狂人扱いだったな。凄まじく強い人物だったが」
「サブカルに毒されすぎでした」
サブカルには、たまによく常に鎧つけてる騎士とか出てくるんですもの。
「さて、スウ殿。今度こそ、我らと我が王に貴女を歓待させて頂きたい」
「えっ!?」
王様の歓待ですか・・・本当に前回は何をやったんですか、スウさん。
スウさんがほぼ配信していなかったから、アーカイブを見ても分からないんですよね。
「いやっ、でもっ、私達やることが!」
するとリッカが、石みたいに硬いパンをノコギリみたいなナイフで切り、口に入れて「歯が折れそう」と顔を顰めながら言います。
見事に切りますね、私がやると、凄く時間が掛るのに手早い。
やはり切ることに関して、わたしとでは熟達度が違いすぎますね。
「急ぐ旅でもないんだから、いいだろー。セーラ様や、アンドリュー様にも挨拶していけば。多分隠居したバルバロン様も喜ぶぞ。ティタティーもいるだろうしな。――てか硬いな、このパン」
見かねたスウさんがアドバイス。
「そ、それはスープに浸すんだよ」
「なるほど・・・・とりあえず、今日はお城の食事が食べたいぞ」
「む・・・むう・・・」
唸るスウさんですが、押しに弱い彼女は結局首を縦に振り、お城に一泊することになりました。
お城に宿泊ですか。ちょっと楽しみです。
現代地球でお城に泊まるのは、一般人ではほぼ不可能ですからね。
その後お城の晩餐に招待されたんですが、わたしが淑女をキメている横で、みずきは野放し。
なんだか高級ワインで一口までやりだす有り様でした。
いよいよ砂漠に出発です。
すると、ティタティーと、ヴァンデルさん、トリテさん、バルムさんが付いてきてくれると言い出しました。
「いいの?」
スウさんが尋ねると、バルムさんがティターを ジャラーン と鳴らして、
「もちろんであります。貴女のいさおしを歌うのが我が使命、なれば貴女様に付き従うのも我が使命」
「セーラ様が、行ってきて良いよって」
「リッカとは、剣を合わせた仲だからな」
「アリスが心配ニャ」
「皆さん、有難うございます」
スウさんがお辞儀すると、リッカが頭の後ろで腕を組んだ。
「本探しだから、人数はいたほうがいいよな」
するとヴァンデルさんと、トリテさん。
「俺は文字は読めないがな!」
「アタシもニャ!」
なるほど、識字で戦力外になる人もいるんですね。
わたしが「まあ5人も読める人がいれば、問題ないですね」と思っていると、「ふむ」と言ったスウさんが、
「じゃあ、探して欲しい文字列を見せるから、一致するのを照らし合わせて見つけてくれればいいよ」
なるほど・・・。
「それなら任せろ!」
「任せろニャ!!」
というわけでみんなでフェアリーテイルに乗り込んで、南の大陸までひとっ飛びしました。
リッカ、ヴァンデルさん、トリテさん、バルムさん、リイムはワンルーム。
わたしはコックピットの後席です。
ちなみにティタティーは、自分のバーサスフレームを使って飛んで着いてきています。
彼はこの惑星の人なので、みずから機神を手に入れた扱いらしいです。
・・・・なるほど。宇宙に飛び出しダンジョンを冒険し、バーサスフレームを手に入れたと考えれば――かなり特殊ではありますが自ら手に入れたという捉え方も有りかもです。
ちなみにスウさんは、全員にパイロットスーツを配りました。
トリテさんには全部透明のパイロットスーツ・・・・貴女それ、自分が着るのを、超嫌がってた奴じゃないですか。
まあ、トリテさんは「踊り子の服の邪魔にならない」と喜んで受け取ってましたけど。
ヴァンデルさんと、バルムさんには服のデザインの邪魔にならない真っ黒なのを。
流石、オリジナルプラモデルを作るだけあって、センスが良いです。
さて、私達が南に向かって飛んでいると、南東からなんだか巨大な空母が飛んできました。
わたしは後席で指をさします。
「何でしょうアレ」
「なんだろうね」
二人でシンクロしながら首を傾げると、拡声器の声が聴こえてきました。
『そこの機神。その機神を朕に捧げよ』
「朕?」
「なんでしょう、あの態度。朕獣でしょうか?」
「まあいいや」
涼姫が拡声器を無視して南に飛び続けていると、
『朕を無視するとは、いい度胸だ。己の愚かさを――思い知れ』
なんだかバーサスフレームがワラワラと出て来ました。
20機はいますね。
全部ホワイトマンです。
『見よ、朕の力を! 白き翼の軍勢よ、蹂躙せよ!』
わたしは思わず吹き出してしまいました。
「や、やる気みたいですよ、スウさん」
「うーん。ちょっと面倒くさいけど、ストーカーされたら更に面倒だし、相手するかあ」
スウさんは〈励起バルカン〉を放ちながら敵中央に向かっていきます。
1機、2機、3機が首やら、エンジンを失いました。
黒体が無くて〈励起バルカン〉を防げないバーサスフレームは脆いですね。
スウさんが〈励起翼〉を用意。
敵の群れの中央を翔けました。
首を失う4機。
『な・・・なんだと!?』
ティタティーも巨大氷の矢を連射。
敵機を貫いていきます。
スウさんが反転。
またも〈励起バルカン〉で、撃墜していきます。
『な、なんなのだコイツは!? ――い、いかん! このままでは目的を果たす前に、戦力を失う!! ――撤退だ!! 撤退しろ!!』
空母とホワイトマンが逃げていきました。
「なにがしたかったんだろう」
「さー?」
よく分からない敵を撤退させたので、スウさんは南へ機首を向け発進。
やがて私達は、南の大陸の砂漠に到着したのでした。
スウさんが、空中のウィンドウを拡大しながら確認します。
「この辺りかな? とりあえず降りてみようかティタティー」
『うん』
「流石に滑走路がないから、飛行形態じゃ降りれないね」
スウさんがフェアリーテイルを人型形態にして、砂漠に降りていきます。
付いてくる、魔法使いみたいな機体――ウィズダムMk1。
砂を巻き上げ、フェアリーテイルが着陸しました。
砂の視界不良が凄いです。
スウさんが、あまりの視界不良に、若干慌てます。
「ティタティー、離れて降りて! 砂が巻き上がって地面が見えないから、危ないかも!」
『わかった』
ティタティーは、ちょっと離れた所に着陸。
みんなで、膝を突いた格好のフェアリーテイルから降ります。
私が砂漠の地面を踏みしめると、足の下で何かが砕けるような感触がしました。
足元を見てみると、ロケット噴射を受けて、砂がガラス化していました。
「座標は合ってるはずなんだけど、塔の影も形もないね。――やっぱ、風が強いせいで風化しちゃったんだな。建物の一部だったっぽい石はあるから、ここで間違いないとは思うけど」
スウさんがシャベルを〈時空倉庫の鍵〉から取り出して、砂を掘り始めます。
みんなにもスウさんからシャベルが行き渡ったんで、そこら中をしばらく掘りましたが、建築物はでてきません。
「大分、深い場所にあるのかも・・・・?」
言ったスウさんが腕を組んで考え始めました。
そして顔を挙げます。
「よし。みんな一旦、フェアリーテイルに戻って。――ティタティーはウィズダムに」
「うん」
なにかを閃いたようです。
みんなでフェアリーテイルのワンルームに戻りました。
「何をするんですか? ――フェアリーテイルで掘るんですか?」
私が尋ねると、
「それもいいけど、もっと一気に」
「〈励起放射〉やロケット噴射だと、砂漠がガラス化しますよ?」
「いや違う――ソニックブームを使う」
「あー・・・・」
フェアリーテイルは目標座標から一旦遠く離れて、180度回転すると、一気に加速。
ベイパーコーンというのが見え始めました。
そしたら急降下、地面スレスレを飛んで、砂漠の砂を一気に引っ剥がしていきます。
それはもう砂の壁が生まれるほど、爆発するように飛んで行く、砂。
そうして、フェアリーテイルが砂の洞窟を何往復かしたところで、
「コケッ!」
リイムが何かを見つけました。
「リイムありがと!」
リイムの言葉がわかるらしいスウさんが返事をして、再び砂漠に人型で着陸。
「本当だ、あった」
砂漠から、白い壁が突き出ていました。




