293 カチコミです
前半部分は、もともと2回目のファンタシアの最後に有ったんですが。
グロウとサルタのその後を書いた方が良いなって書き換えたんです。
なので、本来あの場所にあった話です。
.ps大幅改訂しました。
◆◇Sight:三人称◇◆
これはファンタシアの時間にして、おおよそ4ヶ月前の話である。
リメルディアの東、超えることすら難しい標高の山脈の向こうにワフマズ・パウ帝国という帝国が有る。
その帝国の皇帝が帝都の宮殿で優雅に入浴をしていた。
この風呂は柱と屋根はあるものの壁はなく、50メートルはある巨大なプールのような風呂だった。
巨大な宮殿の空中庭園にあり、帝都を一望できるような風呂だ。
腕を風呂のヘリにかけて、顔を侍女たちに孔雀の羽根の団扇で扇がせているのは、まだ若い皇帝。
その側に、サングラスを掛けた騎士が一人傅いていた。
「皇帝はん、えろうすんまへん。潜入してたリメルティアなんですけど――上手いこと、マゼルナとの戦争を回避されましたわ。とんでもないアーティファクターと剣士がおって、邪魔されました」
「そうか。まあ、気にするな」
「ほんにすんまへん。せやけど皇帝はん、なんか上機嫌どす? いつもなら激怒する場面やのに――なんか良いことありましたん?」
「ヘリオドス着いてこい。侍女、衣を持て」
しずしずと出ていく侍女を観ながら、ヘリオドスと呼ばれたサングラスの騎士が首を傾げる。
「着いていきますけど――でも、なんでっしゃろ・・・・?」
皇帝は、豪奢な衣装を身に着け宮殿の地下にヘリオドスを引き連れる。
やがて地下深くに到着すると、そこには数え切れないほどの機神――バーサスフレームが並んでいた。
「こ、これは!! ――なるほど、とうとう見つけはりましたんか・・・・!」
「ああ。これで我軍の機神は倍になり30体を超えた」
「と、とんでもない数やわ」
「ヘリオドス、朕はこの力を以て西域全土を併呑し、ゆくゆくは世界帝国を築くぞ!!」
◆◇Sight:八街 アリス◇◆
「ファンタシアにカチコミじゃー!」
リッカが刀を鞘ごと掲げました。
「結局付いてきたんですか、リッカ」
「当たり前だ。ファンタシアでは、立花の剣が一番頼りになるだろう」
「コケ!」
リイムが「その通り」とでも言う様に、リッカに相槌を返します。
わたしも納得ですけどね。
「まあ、スポーツじゃない、ガチ剣術はここでは役に立つでしょうねぇ」
「コケコケ」
リイムも頷いています。
「任せろ! 二人をゴブリンにさせたりしない!」
「自分が、ならないでくださいね」
「誰に言ってる」
「頼もしい限りです――ですが、涼姫一体どうやってホムンクルス工場を見つければ良いんですか? 手がかりすらなく、地球とほぼ同じサイズの惑星の――どこにあるとも分からない。しかもホムンクルス工場は地下にあったそうなんですよね? 地面に埋まってる施設を見つけるとか、何十年掛かるか分からないですよ?」
わたしがスウさんに尋ねると、彼女はリイムを撫でながら頷きました。
「一応アイビーさんに聞いてきたよ。古代図書館って場所に行ってくれって言われた。そこにはホムンクルスや、ホムンクルス工場に関する情報が恐らくあるはずだって」
「なるほどです」
ちなみに現在のわたし達の格好はファンタシアに合わせています。
わたしは以前ファンタシアに来た時に軌道上の売店で買った、不思議の国のアリスみたいな格好。
あと背中に、これも前に軌道上の売店で買った太刀。
スウさんも、以前と同じ空賊みたいな格好。
あれ、レシプロ機や飛航艇に乗る事があったらゴーグルで眼を護るつもりらしいです。
趣味かと思っていたら、実用性も考えていたようです。
今回は特にリイムに乗るかもだからって、なるほど。
でも飛航艇って・・・・スウさん、ファンタジーじゃないんだからお船は空を飛ばないと思うんですよ。
リッカは動きやすそうなメイド服。なんかスカートが短いです。
こちらはただの趣味。
――ではなく、学祭で使った物らしいです。
以前リッカが、学祭でメイド喫茶をやるといっていた時、スウさんは「是非行きたい!」と言いましたが、リッカの学校は女子校ですからね。
外部の人間は入れないタイプの学祭でした。
スウさんが悔しそうにしていたので、リッカはお披露目しているみたいですね。
スウさんのリッカを視る目が怪しいです。
スウさんは、さっきから小さく〔眼福じゃぁ眼福じゃぁ〕って呟いて、よく分からない人格が顔を出しています。
スウさんに見られるリッカがちんまい胸を張って、空を見ながら首を傾げました。
「そういえば、この惑星も地球サイズだけど――なあスウ、なんで環境の良い惑星はだいたい地球に似たサイズなんだ?」
「ああ、えっと。あんまり大きいとガス惑星になっちゃうし、ハビタブルゾーンの惑星は、岩石惑星が出来やすいんだ。それに地球サイズになりやすい。そして地球みたいな環境になるにも、テラフォーミングで地球みたいな環境にするのにも、星の大きさは大事。――結果、地球に似通う」
「なるほど・・・」
❝相変わらず、なんでも知ってるなあ❞
❝だよなあ❞
「で、その古代図書館ってどこにあるんですか?」
「それなんだよね。今は地上部分は跡形も無くて、どこに有るか衛星軌道からも分からないらしい」
「わ、分からないんですか・・・? じゃあ、結局そこを探す羽目に・・・・」
「いや、アイビーさんと一緒に頭を突き合わせて考えた結果」
スウさんが言うと、リッカが笑う。
「頭突きしあったのか?」
「どこのヘラジカですか。突き合わせるのは顔でしょう」
わたしのツッコミに、スウさんが慌てます。
「イギリス人に日本語の間違いを指摘された! ――ま、まあ、ファンタシアから1000光年離れた場所に、戦艦の次元折りたたみワープで、ワープしたんだよ」
「1000光年離れた場所? ――それが何か意味有るんですか? ファンタシアの衛星軌道からも分からないんですよね?」
「ほら、1000光年離れた場所って事は、1000年前の光が届く訳で」
「・・・? ――あっ! ―――1000年前の光が届くと言うことは、1000年前の光景が見える!?」
「そうそう。で、望遠に映された1000年前の光景をさらに拡大して、解析した結果」
「よくそんな方法思いつきましたね・・・・。ストライダー協会にも発注されてましたが、他のプレイヤーは普通に足で探しているんでしょうか?」
「み、みたい」
「場所はわかったんですか?」
「うん、ここ」
スウさんのVRから、わたしとリッカにマップが送られてきます。
砂漠の中央にポツンとある、石造りの白い塔。
「南の大陸の砂漠。今は地上部が無くなって、地下部分が砂に埋まってるらしい」
かなり巨大な塔です。
これで、さらに地下にも構造物が広がってるってマジですか。
わたしが若干引いていると、後ろから声がしました。
「おっ、スウじゃねぇか」
「おおっ、勇者様が降臨してるニャ」
振り返ると、ライオン獣人らしき大柄の男性と、猫獣人らしき小柄ながらプロポーションの見事な女性。
スウさんの知り合いみたいです。
男性は革の鎧身につけて、巨大な斧を背負っています。
女性の格好は、扇情的で際どい感じです。ただ、腰にダガーがありますね。
「どなたでしょう?」
「スウ、この二人は誰だ?」
わたしとリッカが尋ねると、スウさんはリッカを見て目をぱちくり。
「あれ? リッカも初対面?」
「ん? 知らないな」
「そ、そうだっけか――えっと・・・なんて紹介したら良いんだろう? ――私が冒険者になるのを邪魔した戦士と、ウィルムとの戦いから逃げようとした踊り子さん?」
スウさんの説明に、大柄なライオン獣人らしき男性が尻尾をブワッと膨らませて ビクゥ! となりました。
猫獣人らしき女性の尻尾も膨らんで、イカ耳になっています。
「ス、スウ!? う、恨んでるのか!?」
「な、何を言うニャ! 風聞が悪いニャ! 結局一緒に戦ったし、踊り子に戦えというのがそもそも無茶ニャ!!」
あ・・・・これ。すでに、スウさんに恐怖を植え付けられてますね。
なんとなく、何が有ったか察せれます。
スウさん苦笑い。
「ご、ごめんごめん、強い戦士さんと、素敵な踊り子さんだよ。ライオン獣人のヴァンデルさんと、猫獣人のトリテさん」
スウさんが言うと、リッカが口の端を釣り上げました。
「ほう、強い戦士・・・・確かに手練れに見えるな」
ヴァンデルさんも、楽しげに笑います。
このバトル好き共め。
するとスウさんが、呆れたような顔になりました。
「あーあ。・・・・リッカも、アリスも、ヴァンデルさんも、ニヤニヤして」
すみません、わたしもバトル好きだったようです。
ヴァンデルさんが背中の斧を叩きます。
「一つ、手合わせしないか?」
「いいですよ。望むところです!」
「いざ!」
で、戦ったんですが、わたしはトリテさんに負けてしまいました。
ファンタジー世界の武術凄いです。
わたしはこの後しばらく、この惑星に出稽古に来ることに決めました。モンスターを相手に磨かれた剣を学んでみたいと思います。
リッカはヴァンデルさんに勝ちました――まさしくライオンみたいなを相手に。やっぱりヤバイですねあの子。
リッカの勝利後、冒険者ギルドという場所に設けられた訓練場――なんだか学校の運動場みたいな――コロセウムみたいな場所で、スウさんが目を瞬かせます。
「みずきは、やっぱ凄いなぁ・・・ファンタジー世界の住人、しかもトッププロの戦士に勝って膝をつかせるんだから。スキルも無しに」
わたしはスウさんの方が強いんだし、と思って尋ねてみます。
「スウさんは何方かと手合わせしないんですか?」
わたしが尋ねると、周囲の冒険者の皆さんが「ぎょ」っとして、一斉に一歩退きました。
なんか「ザッ」って音が聞こえたくらいでした。
見れば、屈強な冒険者さんたちが涙目で、首を横に小刻みにぷるぷる振っています。
ヴァンデルさんも、トリテさんも顔色が悪いです。
・・・・スウさん・・・貴女一体、何をしたんです。
「なに言ってるのアリス・・・・私はスキルが無いと、クソザコナメクジだよ」
「別に、手合わせは、スキル無しとは言ってな――」
わたしが言い掛けた時、
「嬢ちゃん! 俺の名はヴァンデル・ノエルだ!! お前は!!」
なんだか急にヴァンデルさんの大声が、訓練場に響き渡りました。
みずきは、柄だけの元・木刀を腰に仕舞いながら答えます。
わたしの木刀だったんですが。リッカがヴァンデルさんの胴体をぶん殴った所、粉砕されました。
柄しか残らないほど、粉砕してくれて・・・。
あれ、ヒノキのいい部分を使った特注品だったんですよ。
にしても名字はノエルですか。
Leon⇔Noel?
まさかクリスマスを表すノエルに、獅子が隠れていましたか。
「わたしの名は、立花 みずき」
あ、この子、配信で本名を名乗っちゃいましたよ。
礼儀に則ったんでしょうが・・・。
まあでも、本名が知れたところで、あの脅威のチビっ子にちょっかいだそうなんて命知らずはいないでしょうが。
今も、配信にはあの猛獣の様な戦士(実際、猛獣並のスペック)を倒したリッカに、恐怖で戦慄するコメントが流れ続けてますし。
わたしに、トリテさんも自己紹介してきます。
「アタシはトリテ――トリテ・エズタック! 君の名は!?」
「アリスです」
わたしは、流石に本名を言えません。
一色 アリスでもありますし。
まあ、アリスも本名っちゃ、本名ですが。
にしてもエズタック? なんでしょう。
トリテさんの見た目からして、猫でしょうか。
・・・猫・・・・ああドイツ語ですか。
――Katzeを逆さにしてEztak・・・・やはりこの惑星の姓は、地球の言葉となにか関係あるんでしょうか?
わたしが知ってる他の名字と言えば、リメルダでしょうか。
Limelda・・・・意味が分かりませんね。
Limeldeでしょうか?
これならドイツ語でEdle Mil――高貴なミルになります。
王族の名字にはピッタリですね。
ミルがなにか分かりませんが。
粉挽きはMillですし。
「握手ニャ!」
「はあ」
わたしは握手を返します。
「よしっ、これで手合わせは終わったニャ!」
「えっと・・・・」
「終わったニャ!!」
「は、はい」
「さあ、酒場に戻るニャ!」
冒険者さん達が、脱兎の如く酒場に戻っていきます。
ヴァンデルさんも四つん這いで、疾走するライオンみたいに戻っていきます。
「スウさんの戦いも見たかったなぁ」
わたしが物欲しそうに言ったところで、冒険者さんたちが一瞬ビクゥとなりました。
うーん、何をどうしたらここまで怖がられるんでしょう。




