290 足裏マッサージに行きます
◆◇◆◇◆
【4章】フェイテルリンク・レジェンディア 555【はよ】
最先端アースノイド:なあ、ゴブリンがアカキバに化けてた事件なにあれ。
最先端アースノイド:分かんね。あのゴブリンって完全に、自分をアカキバだと信じてたよな。
最先端アースノイド:な・・・。気持ち悪かった。生理的嫌悪感っていうの?
最先端アースノイド:自分を人間と疑わないゴブリンを、速攻射殺するリアトリス旗下も容赦ねぇよ。ブルっちまったぜ。
最先端アースノイド:それな。ザ・プロって感じだった。
最先端アースノイド:まあ、ゴブリン一匹どうでもいいけどもさ、それより配信者が最近一斉に戦い止めちまってない?
最先端アースノイド:確かに、クレイジーギークスも、ストリーマーズも急に戦わなくなっちまった。なんなん?
最先端アースノイド:また心踊るようなバトルみせてくんねぇかなぁ。
最先端アースノイド:なんかさ、アカキバってゴブリンが化けてたんじゃなくて、スキル解除されたからゴブリンに戻ったって噂が有るんだけど
最先端アースノイド:は? どういう事だよ
最先端アースノイド:いや、あの時アカキバが戦ってたMoBってスウがダンジョンで戦ってたマンタドラゴンに似てなかったか? サイズは全然小さかったけど。
んで、マンタの衝撃波食らってゴブリンになっただろ?
マンタドラゴンの衝撃波って言ったら、スキル封じと解除じゃん。
最先端アースノイド:そう言われたら・・・確かに。だとしても何処で本物のアカキバと入れ替わったんだよ
最先端アースノイド:・・・・それは分からん。
最先端アースノイド:死んだ時とか?
最先端アースノイド:やめたれ、アカキバがココを見たら発狂するぞw
◆◇Sight:三人称◇◆
江東 桂利がパソコンのグラフを見ながら唸った。
「最近、クレイジーギークス全員の配信の視聴者数が下がってますね」
沖小路 風凛が、八街 アリスから差し入れられた本場の紅茶を嗜んで返す。
アリスの祖父が送ってきたらしい。
アリスは「嬉しいけど、飲み切るのに何年掛かるか分からない」と周りに配った。
「まあね」
「まあ・・・・仕方ないですかね」
プレイヤーである桂利は当然、真実を聞かされている。
風凛も、涼姫たちに関係が深くプレイヤーになろうとしていたので、聞かされている。
「戦え、なんて言える訳ないじゃない」
「そこまで鬼畜ではないですか」
「まちなさい、私は全然優しいわよ。むしろ慈母神じゃない」
「・・・スウさんって、アリスさんやお友達のチグさん、カレンさん、みかんさんは慈母神と呼びますが、沖小路専務だけは呼ばないんですよねぇ」
「殴るわよ――札束でムエタイ選手辺りを殴って、そして桂利に嗾ける わよ」
「ス、スウ副社長は見る目がないなあ!」
タイキックに怯えながら桂利が言ったところで、噂の涼姫が事務所に入ってきた。
「ただいまー」
「あ、スウ副社長、お帰りなさい」
桂利が、入口を振り返って微笑む。
「リイムを迎えに来ました。リイム~」
「コケ~」(ママおかえり~)
リイムは涼姫が帰ってっくるのを察知して、すでに事務所のドアの前で待機していたので、すぐに嬉しそうに涼姫にジャンプ。
涼姫はリイムと抱き合い、抱えきれなくて後頭部をドアでぶつけた。
だけどリイムにとって、涼姫と再会できるこの時間は至福の時。
猛然と、身体を涼姫に擦り付ける。
微笑ましい家族の再会を見ながら、桂利が尋ねる。
「スウ副社長、今日は配信するんですか?」
「しようと思ってるんですが、ネタがないんですよ~。――ぷふっ、口の中にリイム羽のが、ぷふっ」
「そうねえ、毎日宇宙で料理してたら、料理チャンネルになっちゃうわね」
「ほんとここの所、料理とプラモ作りしかしてないんですよね」
という訳で3人よれば文殊の知恵と、スウと桂利と風凛は今日のスウの配信はなににするかと頭を捻る。
「コケー」
3人ではなかった。リイムも何か考えているようだ。
時計の分針が5度ほど進んだところで、フーリが ポン と手を打った。
「そうだ、クーポンがあるのよね」
風凛がクーポン雑誌を取り出した。
無料で配られているヤツだ。
「フーリはお金持ちなのに、こういうのキッチリ貰ってくるんだよね」
「お店にもコッチにもWIN-WINじゃない――あったわ。これ足ツボのマッサージのお店。20%OFF」
「えっ、足つぼって痛くない?」
「痛いらしいわよ」
「痛いのは嫌だよ!」
「スズっちは不健康そうだから、きっと叫びまわって、良い撮れ高になるわ」
「私の叫びなんか配信してどうするの!?」
「みんなきっと喜ぶわよ」
「なんで!? ――もっとこう『高級ホテルに泊まってみた』とか『高級寿司を食べてみた』とか『1000万円で豪遊してみた』とかさ!」
「そんな物、誰も見ないわよ」
「見るよ!?」
フーリが涼姫の肩を掴む。
そして諭すような声で語りかける。
「スズっちさん。楽な道に逃げてはダメ!」
だが、涼姫はもう逃げる事に決めた。
視線を逸らしながら、考える。
「そうだ、思いついた! 今日は『ツッコミ上手の若君』の同時視聴にしよう!」
「駄目よスズっちさん! 今日は足つぼマッサージよ! きっと大ウケするわ!! ――さあ、唱えるの『逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ』」
「そのセリフは、今は不味いから!!」
涼姫がメタメタに怯えていると、事務所のドアが開いた。
「今戻りました」
「ア、アリス・・・」
涼姫は、ちょっと警戒の目でアリスを見て、歩を下げる。
「涼姫、なんで先に帰っちゃうんですか」
涼姫が、アリスから顔を背ける。
「だ、だって、どうやってアリスの顔をみれば良いのか分かんないじゃん」
「いつも通り見てくれれば良いんですよ」
風凛が、目を瞬かせて尋ねる。
「そういえば二人共、どうしたの? いつもはベッタリって雰囲気なのに、今日はずっと様子が変だったわ。お昼の時も隣同士に座らないし、スズっちさんはアリっちさんを見ないし。口も利かないし」
涼姫が顔を赤くして モジモジ とする。
「それは・・・・アリスに強引に奪われたから」
涼姫の言葉に風凛が「ふむ」と首を傾げる?
「膜?」
風凛の火の玉ストレート。涼姫は叫んだ。
「ちゃうわ! 膜はまだあるわ!!」
「あら、まだ有膜者だったのね」
「なんだ、そのゲスい単語!! ――唇だよ、唇!! 私を強引に壁に押し付けて、舌を差し込んでベロベロベローって」
「酷い擬音だわ」
「アンタの膜発言よりは、酷さはマシじゃ!」
涼姫は顔を赤くして、荒い息を整えながら、アリスから顔を背けながら俯く。
「そりゃ―――アリスが私にあんな事したのも・・・・私の為だって分かってるんだけども」
するとアリスはキョトン。
「いえ、わたしは涼姫の口に、舌を突っ込みたかっただけですよ?」
「マジで!? ――陰キャの口に舌突っ込んで、何が楽しいの!?」
「嘘ですけども」
「変な嘘つかないで・・・!! あんな事されたら、恥ずかしくて顔見れないじゃん! ・・・思い出しちゃうし」
「気持ちよかったのを、思い出してしまいますか?」
「き、き・・・・」
「気持ちよくなかったですか?」
「・・・き、気持ちよかった」
「わたしも気持ちよかったです。あとレモンの味がしました。涼姫の口の中、美味しかったです」
「そんな報告は要らない!!」
「――で、さっきフーリと言い合いしていたみたいですが、どうしたんですか?」
「ジゴロめ――・・・・フーリが酷いの・・・・私に痛い事しようとするの」
アリスの鋭い視線が、風凛に向かった。
「それは。聞き捨てなりませんね? 涼姫の膜はわたしの物ですよ?」
「膜は別に狙われてない―――だから陰キャの膜、以下略!!!」
涼姫は、唾を飛ばして訂正した。
「ア、アリっちさん、竹刀に手を掛けないで! スズっちさんの膜は狙ってないから――ちょっとしか」
「ちょっとは狙われてる―――!?」
涼姫、愕然。
「最近は木刀です」
アリスは涼姫を護る為に、持ち歩くのを木刀に変えたのだ。
風凛は唐草模様の竹刀袋からスラリと出てきた、ヒノキの棒に大慌て。
「死ぬ! それは十分に人死が出るから!」
「大丈夫です。この木刀は、逆刃刀です」
「珍しッ! ――じゃなくて、何の意味もない、その逆刃刀は何の意味もない!!」
風凛は、後ずさりながら説明する。
「足つぼマッサージよ! 足つぼマッサージに行くように言っただけ! ――スズっちさんの健康を考えているのよ、私は!」
見事な言い訳をペラペラと展開する風凛に、桂利が若干呆れた表情になった。
「撮れ高とかさっき言ってましたけれど・・・・まあ、いいですけど」
「なるほど、涼姫の健康ですか・・・それは私も気になりますね」
アリスが木刀を仕舞いながら、涼姫の青白い肌を見る。
「不健康の塊みたいな女の子ですからね、涼姫は」
「し、深窓の令嬢と言って」
「じゃあ、一緒に行きますか、足つぼマッサージ」
「プランE!」
涼姫がプランEを発動し、疾風のごとく事務所を出ていこうとする。
だが「疾風のごとく」と思っているのは涼姫だけで、周りから見れば「蝸牛の歩み」だった。
無駄に、何も無い所でハードルを越えるような姿勢でジャンプしてみたり。
涼姫的には舞うように飛んでいるのだが、周りからは蝸牛が躓いているようにしか見えない。
そんなもので逃げられるわけはなく。
涼姫の首根っこが、アリスの剛腕に掴まれ持ち上げられる。
借りてきた猫のように大人しくなる、涼姫。
「ニャーン」
涼姫は、諦めの啼泣を挙げてみた。




