289 報告
アカキバの配信を見た後。涼姫は「一人になりたい」と呟いて、夢遊病者の様にたちあがり、部屋を出ようとしました。
わたしは、その背中に掛ける言葉を知らず。
何も言えませんでした。
でも、なんとか涼姫の意識をアカキバから離せないでしょうか・・・・。
わたしは、しばし考えて立ち上がります。
言葉がないなら、言葉が届かないなら、行動しかない。
「涼姫」
「え・・・?」
何処を見ているかわからない瞳の涼姫が、コチラを振り向きかけました。
わたしは素早く彼女に寄って、彼女の左腕と顎に手を当て――
彼女の唇を、自分の唇で塞ぎました。
「ん―――!?」
涼姫は、突然の出来事に一瞬、凍りつきました。
そうしてニ拍後、自分が何をされたのか理解したのか、驚心駭目し大暴れしだします。
「んーーーっ!! んーーーっ!?」
涼姫は自由になる左腕で私の胸を押して、右腕をわたしの左手から解放しようとして大暴れ。
足も地団駄を踏むようにしています。
でも〖超怪力〗を使わないってことは、一応OKって事ですよね?
かなり無茶な理屈だと自分でも理解しながら、言い訳をしておきます。
そうしてわたしは涼姫を壁に押し付けて、涼姫の口内へ自分の舌をねじ込みました。
「ん―――っ!? んーーーーーーーーッ!!」
わたしは、涼姫の舌に自分の舌を絡ませます。
涼姫の舌と自分の舌が絡むと、電撃のような刺激が、わたしの背筋に走りました。
涼姫の体も、若干ビクビクして涙が薄っすら浮かんできています。
こんな時に悪いんですが、涼姫・・・かわいいです。
逃げる涼姫の舌に、わたしは何度も何度も舌を絡めます。
わたしとのキスの事しか考えられなくなるまで、何度でも。
涼姫の目がどんどん見開かれ、まぶたの端が千切れそうなほど見開かれました。
「んーーーーーーッ!!」
そうして、とうとう〖超怪力〗で突き飛ばされました。
だけどそれは強いものではなく、互いの唇が離れる程度のもの。
二人の口は、今も唾液の糸で繋がったままです。
息ができなかったのか、涼姫は熱い吐息を吐いています。肩を上下させながら――わたしの顔の近くで。
「な、なにするのアリス!!」
真っ赤な顔の涼姫が口元を拳で拭きながら、叫びました。
「ちょっと、涼姫とキスをしたかったので」
「ちょっとしたかったから!? な、何その理由!? ――私、初めてだったんだよ!?」
まだ二人の唇の距離は、それほど遠くない。
「わたしもです。涼姫に奪われてしまいました」
「奪ったのはそっちでしょう!?」
「美味しかったです、ごちそうさまでした」
涼姫が唇を隠していた拳をどけたので、わたしはまた壁ドンの姿勢になって、顔を近づけようと・・・。
涼姫がビックリして、唇を拳で隠しました。
わたしはいまだに潤む涼姫の目を見て、尋ねます。
「もう一度しませんか? さっきも直ぐに〖超怪力〗を使わなかったって事はOKだったのでは?」
「アリスが怪我しないように気をつけたんだよ!」
「本当ですか?」
「ほ・・・本当だよ! ――もう、アリス意味わかんない!!」
涼姫が頭の混乱を振り払うように、頭を振って髪を振り乱し部屋を出て走っていきました。
「初めてのキスの味は、レモンの味でしたね」
涼姫が、柑橘類を好きだからですかね。
「あそこまでしたら、しばらくわたしの事しか考えられないでしょう。・・・・ちょっと悪い気もしますが――もう、ショック療法しかないです」
涼姫が出ていった扉をしばらく眺めて、思い出します。
「そうだ、涼姫があの状態じゃ――クレイジーギークスやみんなには、わたしから真実を告げておかないと」
涼姫が教えたいと言っていた人含め、全員にメッセージを送ります。
「あとは、アイビーさんですが・・・・わたし、涼姫と違って特別権限とかないんで、直通アドレスとか持ってないんですよね」
わたしは、とりあえず連合に連絡を入れます。
若い伍長の女性に繋がりました。
わたしが連絡を入れると、よくこの人に回されます。
『はい。アリスさん、今日はどうしましたか?』
「えっと、お久しぶりですレインコート伍長、アイビー・アドミラー提督に繋いで貰えますか? リアトリス旗下の情報を持ち帰ったと言ってください」
『了解です。アリスさんなら、アドミラー提督でも簡単に繋げられそうですね』
「助かります」
『――そういえば、ハイレーンに新しくお店を出したチェーン店の釜飯ご飯は、もうお試しになられましたか? ユニレウスの食品を使っている企業の支店なんですが』
「い、いえ」
『お焦げが、美味しいんで是非!』
「あ、ありがとうございます」
『*アドミラー提督、アリスさんが話があるようです。リアトリス旗下の情報がなんだとか*――はい、お繋ぎします』
通信相手が、アイビーさんに切り替わりました。
『お帰りなさい、アリスさん。リアトリスのコロニーで何か情報を手に入れたようですね?』
「はい、その件で繋いでもらいました」
『スウさんではないのは、珍しいですね』
「涼姫は、今はちょっと・・・」
『そうですか。で、どんな情報を手に入れたのですか?』
わたしは、アイビーさんに手短に説明します。
『――そ、それは本当ですか!?』
アイビーさんの驚愕。
「やっぱり、クナウティア派は知らなかったんですね」
『は、はい。大変な事態です! 査問会議レベルです・・・・可怪しいと思っていたんですよ! ――こちらの研究では、人間を完璧に作っても、目を醒まさないんです。――単純にコピーしても駄目だったんです。その為、星団帝国でも人間の蘇生はデータノイドでしか出来ませんでした。――なのにリアトリス旗下は「ファンタシアのホムンクルスを元に技術を確立した」と言っていたんです』
「そういう事ですか・・・・なるほどです・・・」
『この件は直ちにクナウティア様にお伝えします。ユーグレノゾア様も――基本的にフェイテルリンクに関わらないあの方も、今回の件は流石に許さないでしょう』
ユーグレノゾア――やはり間違いなく、連理演算器の最後の1名ですね。
憶えておきましょう。
『とりあえずアリスさん、今回の件は秘密にしておいてください』
「あ・・・・既に親しい人には、気を付けるように注意喚起してしまいました。秘密にするようには言ってます」
釘を刺される前に、注意喚起しておいて良かった。
『ほ、本当ですか!? ――仕方有りません、その方たちの名前を教えて頂けますか? こちらからも秘密にするよう、念押しさせて貰います。最悪、記憶を消去するかもしれません』
そうだ・・・・銀河連合は記憶消去できるんだった。
ま、まあ教えたメンバーなら大丈夫でしょう。
サルゴンは教えても、駄目だったでしょうね。
「えっと、じゃあ――」
わたしは、真実を話したメンバーの名前やIDを伝える。
『ありがとうございます。あとはこちらで何とかします――あと、リアトリス旗下に、今回コロニーに潜入したみなさんが襲われる可能性は無いと思って下さい。もう私達が情報を得た事を、あちらに伝えておきます。今更スウさんたちを襲っても意味がないので』
「ありがとうございます」
徐々にアイビーさんの声が遠ざかっていきます。
『〔せめて動物に〖人化〗を使わせて・・・・駄目か、印石が使えない・・・・胎児や赤子を使うのは違いますし・・・やはり、ホムンクルスを研究するしか・・・〕』
アイビーさんの小さな呟きと共に、通信が途切れた。




