288 スウさんの後悔
「うん。舞花ちゃんが無事で、本当によかったよ」
「はい。舞花にも、もう絶対戦わないように言っておきます。そして涼姫も、お願いです・・・・」
「で、でもね・・・・」
「お願いします」
俯く涼姫が、自分の掌を見ます。
涼姫は、自分を納得させるように呟きます。
「そっか・・・・そうだね。そうだよね」
「ど、どうして迷うんですか・・・? スウさんは戦うのが怖いからシミュレーターから出れなかったって言ってなかったですか?」
「うん・・・なんでだろうね。・・・・私、なんで迷ってるんだろう。――でも、アリスが正しいのは分かってるから――うん止める。私、戦うの止めるよ」
「・・・・はい――それから、一番面倒な話なんですが。銀河連合――アイビーさんやクナウティアさんにはどうしますか?」
「・・・・それは」
「クナウティアさん達はあの真実を知っているのでしょうか? 知らないなら、大変な騒ぎになると思うのです。そして、あの優しいクナウティアさんが、あの事実を知っていて無視できる訳がないと思うのですよ」
「・・・・確かに。でも、言わないわけにはいかないよね。全プレイヤーの為にも」
「ですね・・・・では――」
わたしが「アイビーさんに連絡を入れましょう」と言おうとしていると、みずきからスマホに個人メッセージが来ました。
わたしがスマホのメッセージアプリを確認していると、
リッカ:アリス大変だ。アカキバの配信を見ろ!
涼姫が首を傾げます。
「えっ、アカキバさん?」
「なんでしょう」
涼姫が自分のスマホを取り出して、アカキバの配信を表示させました。
わたしも涼姫のスマホを覗き込ませて貰います。
でもカメラが地面に転がっているのか、状況が全く分かりません。
草しか見えません。
ただひたすら、アカキバの発狂したような声が響いているだけです。
リッカ:アリス、アカキバの配信は巻き戻せるから、巻き戻せ、30分あたりだ。
「30分?」
涼姫が、アカキバの配信を巻き戻します。
明るい崖のような場所で、アカキバが銃を構えて小さなマンタみたいなモンスターと戦っていました。
涼姫がダンジョンで対峙した、マンタに似てます。
アカキバの前のマンタは、涼姫が戦ったモノに比べれば随分弱そうですが。
「あ、これダンジョンにいた・・・スキルを消してくる――」
涼姫が言った時、わたしに嫌な予感が走りました。
――わたしは涼姫に待ったを掛けようとしました「配信を視るのを止めましょうと」言おうとしました。
しかしそれより速く、マンタが口から衝撃波を放ちました。
アカキバは、衝撃波をモロに食らい・・・・その姿が徐々に揺らぎ――ゴブリンの姿に・・・!
や、やっぱり〖人化〗のスキルが消えた!
銃を構える自分の腕を見たアカキバが、自分の節くれだった手足を確認します。
さらに配信も確認したようで、アカキバの眼には蟻の様なバケモノに大きな耳を生やした姿が見えたでしょう。
「ひっ、ひっ、ひぃぃぃぃぃぃ!! ――」
アカキバが大絶叫。
「――なんだコレ、どうなってんだよ!? なんで俺、ゴブリンになってんだよ!? ――今の衝撃波か!? だ、だれか助けてくれぇ!! ――この衝撃波の効果は、解けるんだよな!? 解けるんだよな!?」
・・・・逆です――スキルが解けたからゴブリンに戻ったんです。
でも彼は中身はアカキバで、自分を人間だと完全に疑っていない。
リッカ:あ、リアトリス旗下の兵士が現れた!!
「リアトリス旗下がですか!?」
青い顔で呆然としている涼姫が、配信を今の時間に戻します。
画面では、白い軍服を着たリアトリスの兵士が、アカキバに銃を突きつけています。
情報の漏洩を恐れて?
「や、やめろ! 撃たないでくれ!! お、俺はゴブリンじゃないんだ! 人間なんだ!! 信じてくれ――ッ!!」
アカキバが両手を挙げて、リアトリスの兵士に訴えています。
「このMoBの技を解いてもらえば分かる!!」
叫ぶアカキバを無視して、リアトリスの兵士は無言でトリガーを引きました。
頭が吹き飛んだゴブリンが、崖から落下していきました。
涼姫が、顔を真っ青にして口元を押さえて、震えています。
リアトリスの兵士が、カメラを持ち上げて、告げます。
『ゴブリンがアカキバ君に化けていたので処分した。今から本物のアカキバ君を蘇生するので、彼のファンは安心して貰いたい』
完全に、情報封殺です。
そして生き返るアカキバも、またゴブリンなんです。
涼姫のわななく声が、私の耳を叩きます。
「ね、ねぇ・・・・アリス? 私と戦った後、アカキバさんって地球に戻れたの?」
口元を押さえて、画面を凝視したままの涼姫がガクガクと震えながら、わたしに尋ねてきました。
この質問に、わたしは慌てます。
「す、涼姫! か、考えなくていいんです!! ――そんな事。考えなくて良いんです!! ――アイツはヒナさんを同じ目に遭わせようとしたんですよ!!」
「でも、でも―――!! 私はアカキバさんを見捨てて、あの星を去って―――!!」
リッカ:アリス、このアーカイブは涼姫には絶対に見せるな。涼姫が見たら、きっと大変な事になる。
「――涼姫、考えては駄目です!!」
「でもでもでもでも―――!!」
不味い、涼姫が優しすぎる。
「ごめんなさいー!!」
突然、涼姫が絶叫した。
そして、身体を折って、床に顔を着けて涙を流して何度も何度も謝りだす。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、アカキバさん。―――ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい――」
涼姫はひたすら「ごめんなさい」と繰り返す。
「み、見捨てたのも涼姫じゃないでしょう!? アカキバが自業自得なのであって、ヒナさんのせいにするつもりもないですが、涼姫は全然悪くないです!」
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい――」
わたしの声が・・・・涼姫の耳に届かない―――涼姫・・・・。涼姫・・・貴女は悪くないのに・・・。




