284 車でドッグファイトします
「チグ! ――これ変形して戦ったりは!?」
「みんなが、外に放り出されても構いなら変形できる!」
「よしプランA破棄、プランBに変更! ――アリス、場所代わって!」
私はアリスと場所を交換して、窓を開ける。
そうしてニューゲーム1110を取り出して、窓から身を乗りだして相手のタイヤを撃つ。
あ、パンクしない!
――軍用タイヤだ! ――当たり前だ!
私の顔を、掠める弾丸。
良い子は車の窓から、顔をだしちゃいけません!
弾丸が飛んでくるからね!
良い子の私は〖念動力〗でニューゲームを握って、リアガラスから軍用車を見て、相手のフロントガラスを撃つ。
「はい、割れません・・・・って、わぁぁぁ!」
ジープが、ものすごい勢いでカーブしだした。
さらにチグが、前から迫ってくる車も躱しだして、益々シェイクされる車内。
「のおぉおっ」
私が、アリスの方に押し当てられる。
アリスが、私の方へ押し当てられる。
まずい、ハビる、ハビる!
こんな時にハビっちゃ駄目だぞ、私!!
私は「アリスの肋骨が痛い痛い」と思って、現実に戻る。
どうも、拳銃じゃ、あの軍用車を相手には出来ないようだ。
対物ライフルみたいな威力の拳銃を弾くとか、戦車かなんかよ!
「プランB破棄、プランCに変更!」
私はネックレスを握る。
って、なんか体が軽く・・・。
チグの慌てた声が車内に響く。
「アリス! どうもコロニーの回転と逆に進んでる! ――タイヤが上手く地面に噛み合わない、車のコントロールを失いそうなんだ――〖重力操作〗を!」
「了解です! 〖重力操作〗!!」
私は、バーサスフレーム用の81ミリキャノンを〖念動力〗と〖超怪力〗で取り出す。
追ってくる兵士達に〖テレパシー〗を送る。
(アサルトライフルを撃つのを止めてください! でないと81ミリキャノンで撃ちますよ!?)
私の眼の前の、リアガラスに大量の鉛玉の雨。
駄目だ、向こうは撃つのを止めない。
「じゃあ――恨まないで下さいよ!?」
私は81ミリキャノンを、先頭の軍用車に発砲。
直撃した! ――横に回転しながら後方に飛んでいく、軍用車。
一台、処理できた。
中の軍人は大丈夫みたいだ。
――やっぱ戦車じゃないのか? あれ。
続けて二台目も処理。残すは、最後の一台!
だけど――
「よ、避けた!?」
最後の一台が、見事なドライビングテクニックで避ける。
追ってくる車のフロントガラスで、ラ◯ドルフみたいなサングラスを掛けた中年兵士が「止まれ」と口を動かしている。
「あんなタレ目みたいなサングラスを掛けてるくせに!」
最後の一台の右サイドから、ミニガンみたいな機関銃の様なものが出てくる。
「不味い、あんなので撃たれたら・・・! プランC破棄、プランDに変更! ――チグ、運転変わって!!」
「えっ、えっ・・・・スズっち、車の運転出来るのか!?」
「最近レーシングゲームやってる!」
「ケ゚、ゲーム? ――でも、運転中に交代!? この状況でオートドライブに任せるのか!? 速度下げられるぞ!?」
私は〖念動力〗でハンドルを握る。
「おっ、勝手にハンドルが動いてる!」
私はかなり無茶な姿勢で、チグと位置を交代する。
後ろでアリスが「あ、黒」とか言ってるけど。ねえ、なんの色!?
「よし」
後ろから、ミニガンみたいな機関銃の弾丸が飛んでくる。
とうとうリアガラスが割れた。
「みんな伏せ――!! ああ」
私が言う前に、なんならガラスが割れる前に――みずきが頭を低くして、チグもアリスも頭を押さえて低くさせてた。
「うわっ」
「きゃっ」
ワンテンポ遅れて、チグとアリスが反応している。
「ひいいですわー」
西園寺さんは、ダッシュボードの下に潜り込んだ。
機関銃の回転する、唸る様な音と共に飛んできた弾丸が、私の座るシートのに命中してる。
でも、シートも防弾みたいだ。
だけどいつまでも保つかわからない、できるだけ車で弾丸を躱す。
「どうするつもりだ、スウ!!」
みずきからの質問に、私は、
「あの機関銃は前にしか撃てないみたいだし、ならドッグファイト―――!!」
「く、車で!?」
みずきの驚きには答えず、私はアクセル全開。
そのまま、ガードレールに突っ込んだ。
高架から飛び出す、ジープ。
「ちょ」
「なっ」
「なにをしてるんですのーーー!? 車は飛ばないんですわよー!?」
「スズっちは、ハンドル持つと性格変わる人かー!?」
「広い場所じゃないと、ドッグファイトはできないから!! ――みんな、舌かまないでね!? アリス〖重力操作〗を軽くする方で、フロントに!」
「は、はい!」
コロニーの回転に逆らいながら飛び出した車は、軟着陸――と言うには酷い衝撃と共に、広い草原地帯に降りた。
私は左右にドリフトしながら、機関銃を躱す。
オフロードは滑る滑る。
「さ、さすが飛行機であんなハチャメチャ機動する人間ですわ、車でもハチャメチャするんですのね!?」
西園寺さんがビックリしてるけど、相手の兵士も只者じゃない。
相手も草原に降りてきたけど、簡単に後ろを取らせてくれない。
草原を400キロ超えで、背後を取り合う2台の車。
下敷きにした雑草を抹殺しながら、タイヤに絡まる小石を打ち砕きながら∞の字を描き合う。
「この人、相当やる・・・! 多分、戦闘機に乗せても相当強い――」
私はバックミラーを確認。
「――空軍大佐・・・・本当に戦闘機乗りかもしれない」
相手は慣性ドリフトと、ブレーキングドリフトを巧みに使い分けて、追い越ししない。
チグが提案する。
「スズっち、前に手に入れていた〖温泉〗とか言うので、落とし穴作れないか!?」
「無理、あれは地面に触れていないと発動しない!」
「使えないな〖温泉〗!」
まあ、そう言う使い方するもんじゃないし。
私は近くに生えていた巨木の周りをドリフトしながら、巨木を盾にする。
またたく間に削れてメキメキと倒れる、巨木。
ワンチャン相手にぶつかるかなって思ったけど、流石に躱す。
ていうか大佐レベルが追跡に出張ってくるって、どんだけヤバイんだよ、私の見た秘密!
「とにかく今は、走行で描く円の内径を、より小さくしたほうが勝つ! ――アリス、フロントに〖重力操作〗を!」
「はい!」
私はフロントを重くしてもらって、コロニーの回転と逆に走る。
ハンドルを細かく左右に振って、いつでもドリフトに入れる準備をする。
そうして相手の機関銃の弾が、迫ってきた刹那、
「ここだ!」
私は、一瞬右にハンドルを振った後、全力でハンドルを左回転。
さらにクラッチを蹴って、ドリフトで反転していく。
「アリス、リアを〖重力操作〗で軽く!」
「はい!!」
今車の後輪は、コロニーの回転に逆らって振られている。
元々Gが軽くなっている後輪側――リアが、アリスのスキルでさらに軽くなる。
空転する後輪。
強烈なパワードリフトが起こる。
殆ど独楽のように反転するジープ。
追い越し、する軍用車。
「取った!!」
私は、軍用車のサイドを取ることに成功。
今なら相手は、私の弾丸を避けられない。
私はすぐさま、軍用車の下部に81ミリキャノンを発砲。
戦車砲のような攻撃を受け、横倒しになって倒れる軍用車。
あれならもう追ってこれないよね!
「あばよ、なんか強い人!」
長居は無用、私はアクセル全開で逃げるのだった。




