283 カーチェイスが始まります
しばらくして、アリスが声を掛けてくる。
「スウさん、随分顔色が悪いですが・・・・何を見たんですか?」
私は背中を跳ねさせ、アリスを見る。
言う? ―――言・・・・おう。
「プ、プレイヤーの復活方法を見たんだ」
「えっ、プレイヤーの復活をみたんですか!? ――なるほど、それで気絶した人が運び出されてたんですね。・・・・あの人は死んじゃった訳ですか。――けど、プレイヤーの復活で、なんでそんな顔になるんですか・・・? ――すごくグロい手術方法だったとかですか?」
「ち、違う。――もっとヤバイ物だった」
「ヤバい?」
「・・・・うん」
「どんな方法だったんですか?」
「そ、それは・・・」
どうしよう、そこまで教えるべきだろうか。
「どんな内容でも、知っておくべきだと思うぞ」
みずきが促してくる。――やっぱり、そう・・・だよね。
「じゃあ、私たちだけの秘密にしてね」
すると、またみずき。
「女の口には戸は立てられないと、言うが、涼姫がそんだけ顔色悪くするんだ・・・・。みんな、流石に秘密にするぞ。誰かに言いたい時は、必ず涼姫に確認を取ろう」
「はい」
「わかりましたわ」
「了解」
私は念押す。
「もし間違って漏れたら、私が〖サイコメトリー〗で記憶を奪いにいくかもだから」
「お、おう・・・厳重だな」
チグが、私の反応にちょっと緊張した顔になった。
みんな秘密を守ってくれるようなので、とりあえず辺りに誰もいない事を確認して、階段の踊り場で話す。
「えっと、驚かないでね・・・・」
みんなが神妙な顔で頷く。
「・・・・復活したプレイヤーは、どうも元・ゴブリンなんだよ」
「「「「え・・・・?」」」」
話を聞く全員の声がハモった。
「どういう事ですか?」
アリスが、眉をひそめて尋ねる。
「ゴブリンにね、〖人化〗のスキルを使わせて、人間にしてたんだ」
みずきが目を見開く。
「はあああ!?」
西園寺さんも大慌て。
「・・・ちょ、まって下さいまし、それって!」
チグも真っ青だ。
「それは、スワンプマンどころの騒ぎじゃないだろ! 本当にそれは本人と言えるのか!?」
するとみずきが、おかしいと指摘する。
「でも、それだと復活したプレイヤーは、全員〖人化〗スキルを持ってないとおかしくないか?」
これに対して、アリスが答えた。
「それは、きっとあれです。わたしの〖時空回帰〗みたいに、一度使うと消えてしまうスキルとか」
私もアリスの意見に同意。
「―――多分そう、印石の欠片が大量にあって・・・それを使って無理やり作った印石でみたいだったから。劣化版すぎて一度スキルと使うと消えてしまうんだと思う――そして、劣化版の方が都合いい。ちゃんとした〖人化〗を作れたとしても、劣化版の方を使うだろうし」
アリスが青い顔で呟く。
「まさか・・・ゴミだって言われていた印石の欠片にそんな秘密が、それに謎だった〖奇跡〗の印石も、こうやって作られていたんでしょうか・・・?」
色々思うところはあるけれど、私としては、
「わからないけど。私達、このコロニーからさっさと出たほうが良いと思う。あれを見ちゃったのがバレたら、大変な事になりそう」
「で、ですね。早めに出ましょう」
私達は、小走りで階段を駆け下り、さらに駐車場のチグのジープに急ぐ。
〖飛行〗とかのスキルとかは使わない。
使ったらプレイヤーだってバレちゃう。
ジープに全員乗ったけど、チグは手が震えているのか、なかなかキーが差し込めない。
「お、落ち着けあたし・・・・なにを動揺しているんだよ。あたしは復活判定入ってないんだから――でも、このコロニーで撃たれたりしたら・・・・急いで帰らないと」
なんとかエンジンを掛けたチグが、アクセルを踏む。
入る時にも声を掛けられたセキュリティーガードに、声を掛けられる。
「お、帰るのか?」
「は、はい。有難うございました」
「ああ、気を付けて帰るんだぞ」
「け、警備兵さんも頑張ってください。それでは」
ジープがゆっくり発進。
100メートルほど行ったところで、後方でサイレンがなった。
チグが一気にアクセルを踏み込む。
「――みんな、ちょっと荒っぽくなるかもしれない!」
「うん!」
「はい!」
「任せたぞ!」
「い、急いで逃げましょう!!」
後ろでセキュリティーガードが、
「ん――なにっ!? ――ま、まて、貴様ら!!」
そんな風に叫んでいたけど、私達は振り返しもせず一目散。
レーシングカーに載むような16気筒エンジンが暴れ、激しい振動が椅子から伝わってくる。
だけど、後ろから軍用車が3台、猛烈な勢いで追ってきた。
「チグさん、法定速度を超えてますわ!!」
「それどころじゃないだろ!!」
アリスが涙目になる。
「身体が、重いですー! 体重が増えてますー!!」
ジト目になるみずき、
「アリス、本当にそれどころじゃない」
コロニーの外壁を弧を描きながら走っているのもあって、Gが強くなっていく。
「・・・で、でも本当に結構キツイGが掛かってますわ!」
西園寺さんが、腹筋や足に力を入れながら言った。
私は頷く。
「こ、これ――レシプロ機並だよ! パ、パイロットスーツを着てないし、重力制御装置もないから、バーサスフレームよりキツイかも!」
「チグには、私が〖重力操作〗を掛けておきます!」
アリスがスキルを使いだした。
すると激しい雨がトタンを叩くような音が、車内に響き始める。
「アサルトライフルで撃ってきましたよ!?」
マジか・・・よっぽど見られたら不味い物だったんだな。
そりゃそうか。
私はアイビーさんに連絡をいれる。
「アイビーさん! リアトリスの兵士に撃たれてるんですが、これ撃ち返していいんですか!?」
『えっ――う、撃たれてるんですか!? 構いません! でも、できるだけ殺さないようにして下さい!』
「できるだけ!」
私は「できるだけ」を強調するように返して、作戦を考える。
にしても車内は大騒ぎだけど、アサルトライフルの弾丸がジープを襲っても、車体には傷一つない。
ガラスにも弾丸が激突したけど、ガラスを破って来ない。
防弾ガラスも強靭みたいだ。
流石、ダンジョンで使ってたという、ジープ。




