282 真実を知ります
降車して、基地内を歩く。
1階、2階――〖マッピング〗で基地内を見ながら、怪しげな場所は全部。
最上階の3階まで来た。
――でも、
「かなり奥に来たが、秘密とかないな」
チグが腕を組んで言った。
「まあ、そんな簡単に見つかるものではないし」
「まあなぁ」
私の言葉に納得のチグだった。
私達が「引き返そうか」とか言っていると、奥から担架に乗った人が運ばれていった。
――ん!?
「・・・ねえ、今の人」
「・・・・表示されてた名前が白だったな」
ちなみにここの基地の兵士さんの名前は、誰も表示されない。
「白って事はプレイヤーだよね?」
「気を失っているようだったけど」
私はプレイヤーが運ばれてきた方の角を曲がって、奥のドアを見る。
何だか厳重なドアだ。
ちょっと開きそうにない。
「きっと、この部屋から出てきたんだよね?」
開きそうにないけど、とりあえず撫でてみた。
すると『スウ准将、入室を許可します』と聴こえてきた。
パシュッと音がして、扉が左右に動いて開く。
チグの声が後ろからした。
「ん? ――スズっちが准将?」
「あ――特別権限ストライダーは、准将クラスの権限があるらしいんだよね」
「はえー・・・さすがスズっち」
「多分みんなを入れるにはちょっと面倒な手続きが必要だろうから、私一人で見てくるね」
まあ、少し行けばまたすぐ扉があったんだけど。手術室みたいな両開きの扉に、
▰ ▰ ▰KEEP OUT▰ ▰ ▰
と書かれている。
「立入禁止の場所から、気絶したプレイヤー・・・?」
私はトビラに近づく。
駄目だ、今度は開かない。
アリスが遠くから、ちょっと心配そうな声を出す。
「スウさん。立入禁止の部屋なんか入ったら、何が起こるか・・・それこそ警報ベルとか」
「うん、まあ・・・・〖透視〗」
「ああ・・・」
中に見えたのは、
「MoB・・・?」
沢山のゴブリンが試験管の中に浮いていた。
それから奥の方には、大量の印石の欠片の様な物が視える。
その隣に、恐らく錬金釜。
なんだ、ここ。
・・・・立ち入り禁止――ゴブリンが浮いた試験管――大量の印石の欠片――錬金釜――そこから出て来た気絶したプレイヤー。
「なんだろう、この胸騒ぎ・・・」
・・・・すごく嫌な感じがする。
私が胸騒ぎを憶えていると、一つの試験管の上部が開いて、ゴブリンを溶液の中からロボットアームのような物が取り出す。
ゴブリンはロボットアームに運ばれ、中央の何も入っていないカプセルに入れられた。
大量の印石の欠片が錬金釜に投入されて、見たことないアイテムも幾つか錬金釜に投入される。
カプセルの入口が閉じると、ゴブリンの前に台座が出てきて、錬金釜から出てきた印石が台座に乗せられる。
オレンジ色の印石? なんだろう。
ゴブリンの後頭部に、なにやらコードの様な物が刺された。
するとゴブリンは夢遊病者のように動いて、謎の印石を握りしめる。
そうして、スキルを呟いた。
「〖人化〗」
え・・・・これって、
「まさ―――!」
私は叫びそうになった口を、自分で抑える。
――ゴブリンが、人間になった。
まだ若い大学生位の女性だ。
彼女の頭に、さらに沢山のチューブのような物が刺されて――あれは何をしてる?
〖サイコメトリー〗みたいに、額が光ってるけど・・・。
まさか――記憶の移植・・・・とか?
やがてゴブリンだった人間が、蛍のような光に覆われ、光はゴブリンだった人間に吸い込まれていった。
カプセルの中がなにかのガスに覆われ、ガスが晴れると、裸の女性がカプセルのなかにぐったりと倒れていた。
気絶しているようだ。
私が血管に冷水を注入されたような悪寒を感じていると、背後から声が聞こえてきた。
「今日はやけに多いな」
「生身のパーティーが全滅したらしい」
私は、急いで厳重な扉の外に出て、扉を閉める。
「――生身は辛いな」
「しかし、この復活方法をプレイヤー共が知ったら、卒倒するだろうな」
二人の男性の声。
「ん、なんだお前ら」
振り返ると、背の高い兵士と、筋肉がすごくガッシリした兵士が角を曲がって歩いてきた。
私は、〝彼らに対して驚いた〟風を装う。
今の私の顔色は、酷いことになっているだろうから。
「び、びっくりした・・・。――ま、迷ってしまいまして」
男性二人は腰の拳銃に手を当てながら、詰問するような声を出す。
「・・・まさか、中に入ってないだろうな?」
ガッシリした兵士が睨んで来ている。
「は、入ってません」
「・・・・まあ、入ったりしたら直ぐに警報が鳴るからな」
「というか入れないだろう。将軍位か、資格、どちらかが無いと――とにかくここは立入禁止区域だ。直ぐに立ち去れ」
私は会釈して、彼らに道を譲る。
「そ、それじゃあ」
私がアリスたちの方へ戻ろうとすると、背の高い方の兵士が声を掛けてきた。
「ああ、まて。お前たち、民間人だろう。民間人が基地になんの用――」
背の高い兵士が、何かを操作する。
「――ああ、父親に会いに来たのか」
ガッシリした身体の兵士が、ちょっと優しい顔になって私達5人を見回す。
「あまり基地内をウロチョロするなよ。ほら、兵舎はあっちだ」
背の高い兵士が、窓の外を指さした。
ちょっと罪悪感。
「あ、ありがとうございます。みんな行こ」
「ですね」
「おう」
「ですわね」
「だなー」
こうして私達は、そそくさとその場を立ち去った。




