281 リアトリス旗下の基地に潜入します
「オニール・シリンダー型コロニーだ」
遠いから距離感が掴みづらいけど、かなり大きそう。
「オニール・シリンダー型ってなんですか?」
「ほら、コロニーがシリンダーみたいな形してるでしょ」
「――確かに。でも、あの形以外のコロニーってあるんですか?」
「あるよ。スタンフォード・トーラス型とか、バナール球型とか――というか、連合のコロニーは、シリンダー型にトーラス型の1次産業区が付いている物が多いね」
「トーラス?」
「ドーナツって言えばいいかな――、アルカナくんの故郷がドーナツ型だった」
「詳しいですね・・・でもスウさん、あれドーナツの方が直径が大きいです。あれだとシリンダー内とドーナツで重力が変わりませんか?」
「変わると思う、ドーナツの方が重力強いかも」
「なんで強くしてるんですか?」
「分かんない」
「動物への嫌がらせでしょうか?」
「なんでやねん」
うーん。私がVRで調べてみると、
「ああ・・・水耕農業と養殖を同時にやってる。水の流れの為っぽいね」
「え・・・なんですかそれ」
「水耕農業っていうのは植物の根っこだけを水に浸して流す奴。連合はこの水を浄化して魚の層に送って、水に有機的な栄養を与え、再び植物の根に戻してるみたい」
すると近くの椅子でプリンを食べていたリッカが、納得の声を出す。
「まるでエコだな」
「間違いなくエコだよ。資源の限られたコロニーだからだろうねえ。――でもこれじゃあ、食糧事情が酷くなるわけだよ」
やがてタンカーは、コロニーの宇宙港に到着。
「バーサスフレームは、タンカーの格納庫に置いていく事になるかな」
「ですわね」
ちなみに西園寺さんの機体は、エアロアロー。
ウチのクラスの女子はチグ以外全員、黒田さんと同じにしたらしい。
学祭が終わった日、事実を知った私が怯えながら「それ、プレイヤーからエロって呼ばれてるんだよ・・・」って伝えると、4人に愕然とされた。
チグは、アリスが昔使っていたアンカーフェイスのバリエーション違い。
変形機構が有る――ラウンドフェイス。
飛行形態はスペースシャトルみたいになる。
「じゃあ3時間後に出発しますので、それ迄に戻ってきて下さい」
「はい」
タンカーのオペレーターさんに、帰りの出発時刻を聞いておいた。
さて、潜入の為に持ってきたアイテムを、私は〈時空倉庫の鍵〉から取り出す。
アリスが首を傾げた。
「スウさん。それ、なんですか? ダンボールに見えるんですが」
「ダンボールだよ」
アリスがなんだか嫌な予感がする。という顔で尋ねてくる。
「軽そうですが・・・・中になにか入ってるんですか?」
「空っぽだよ」
アリスが、恐る恐ると言った風に尋ねてくる。
「空っぽのダンボールを、どうするんですか・・・」
「中に隠れるんだよ」
言って私はダンボールを被って、しゃがんで移動してみる。
トテトテトテ。
上から、アリスの静かな声が降ってくる。
「スウさん・・・・現実の人間の頭の上に『!』が浮かぶとか思っていませんよね?」
「お、思ってないよ!?」
「じゃあダンボールを被っても、普通に見つかるのは、分からないんですか」
「え―――っ!? 見つかるの!?」
「・・・・さて、皆さん行きましょうか」
アリスがさっさと出発しだす。
私は、叫ぶ。
「ねぇみんな!! 本当にダンボール被っても、見つかるの!?」
アリスに恐ろしい事実を突きつけられた私は、それでもダンボールを被ったまま立って移動。
「ダンボールは意味がないのに、脱がないのか?」
リッカに尋ねられた。
「なんかね、これ被ってると落ち着くの」
「相変わらず、影の者だなぁ」
グレープフルーツのいい匂いするし。
「あれ? ――そういえばチグは?」
私がダンボールを被ったまま上半身を巡らせ、タンカーの格納庫でチグを探していると、車のエンジン音が聴こえてきた。
音に振り向くと、
「みんな、乗って」
チグが、ジープを運転してきた。
なんだろう、ギャルが野性的なジープに乗って運転してるのはかなりアンバランス。というか、
「チグ、ジープなんか持ってたんだ?」
「んだ、ダンジョン攻略の為に買ったんだ」
「ダンジョン攻略の為?」
私はチグが、ちょっと何言ってるのか分からなくて、首をかしげた。
ジープはダンジョンで役に立たないんだよ?
チグも、ダンボール被ったら他人に見つからないとか思ってそう。
私が同族を見つけて喜んでいると、チグが私の言葉を理解したみたいに言う。
「ああ、見ててよ」
チグが何かのスイッチを押すと、ジープが立ち上がった。
人型になって、立ち上がったのだ。
パワードスーツになるらしい。
なるほど・・・・チグは、ダンボールを被っても隠れられないと知ってそうだ。
あのジープは、マイルズの持ってたバイクの亜種な感じかあ。
にしても4本足のパワードスーツに埋まったチグが、なんかメカ系の美少女フィギュアみたいになってる。
私の好みの見た目だ。
視界をスクリーンショットしておく。
これで〖サイコメトリー〗を使えばチグの可愛い姿が、いつでも見放題・0円。
しかし多足だから、人型って言って良いのかなあれ。
パワードスーツがジープに戻る。
アリスが進み出る。
「じゃあ乗せてもらいましょうか、大きいコロニーですし、内部は随分広いみたいですので」
「だねー」
「だなー」
「ですわね」
というわけで、みんなでチグのジープに乗車。
配置は、助手席に西園寺さん。
後部座席に右からアリス、私、みずき。
ちょっと人口密度がキツキツ。
私がハビタブりながら車に揺られていると、大きな道に入った。
チグが標識を見ながら言う。
「制限速度は300キロか、速いな――それでもハイレーンの制限速度よりは遅いというな」
「なんだか、左右の道路で制限速度が少し違いますけれど」
「なんでだろうな?」
チグが疑問を口にしたんで、私は答えておく。
「大きなコロニーだし、あんまり速度出すと、重力が変な事になっちゃうからじゃないかな」
「あー・・・なるほどですわ」
「じゃあ、ちょっと速度出すな」
するとアリスが、なんかうれしそうな顔になった。
「身体が軽く感じます。体重が減りました」
車の中の空気が、生暖かくなった。
アリス、早く正気に戻るんだ。
アリスが、チグと西園寺さんに尋ねる。
「そういえばこの銀河の真実で、どうしてリアトリスのコロニーなんですか?」
チグが前を向きながら答える。
なんかイケメン。車を運転する姿って、なんでこんなカッコイインだろう。キュン。
「あーそれな。文化祭準備で鷹森が案内してた時に、ボソっと零したらしいんだよ」
「何をですか?」
「みんなが銀河連合の凄さに喜ぶ中、『こんな風にクナウティアがプレイヤーや地球人に見せてる物は、この銀河の上辺でしかない。――この銀河の本当を研究したいなら、リアトリスの管轄か、ユーグレノゾアの管轄の世界を覗かないと駄目だろうな』・・・・って綾のんが、鷹森が言ってたって話してた」
綾のんは、綾野さんの事。
西園寺さんグループで、唯一プレイヤーになれなかった女の子。
「なあスズっち、アリス、みずき――」
チグ・・・いつの間にか、みずきを名前で呼び捨てしてる。
さっきが初対面だったはずなのに、流石チグ。
私なんか、みずきって呼ぶのに2ヶ月位掛かったのに。
「――リアトリスはリイムを苛めた奴らって分かるんだが、ユーグレノゾアってなんぞ?」
「さぁ? ――涼姫は知ってますか?」
「分かんない」
「スズっちにも分からない事を、鷹森は知ってるのか・・・」
アリスが唸る。
「ですね・・・・鷹森さんって何者なんでしょう。言葉の流れからすると、恐らくユーグレノゾアが、3体目の連理演算器なんでしょうが」
いや、私が知らない事を知ってただけで、鷹森くんがとんでもない人みたいな空気にならないで。
私、知らないことだらけだよ。
西園寺さんが、タンカーで買ったジャガイモチップス『すき焼きバーガー味』の口を、後部座席の私達に向けながら話す。
「何枚か取ってくださいまし――」
私は5枚ほど貰う。
甘辛に、ちょっぴり紅生姜味が利いて、うまし。
「――わたくしも多分連理演算器さんでしょうと思って調べたのですけれど、一切情報が出てこなかったんですのよ、ユーグレノゾアさんは」
「謎ですね」
「それで、情報を見つけられたリアトリスのコロニーに来たわけですわ」
「理解です」
「そっかぁ」
「なるほど全てを理解した」
今の話で、なぜかみずきが全知になった。
チグがカーナビみたいなのをいじくる。
「納得したみたいだし、なんか音楽でも聴く? 最近の流行り曲は大体入ってるよ」
アリスが、間髪入れずに注文。
「じゃあ、『ミッドKnight』の新曲『八方美人なアルター・Ego』を」
まって!?
「またアリスは私の好きなアニメの主題歌を、なんで知ってるの!!」
「『ハミング距離の恋心』。どっちの男の子とくっつくんでしょうネ」
私は、とぼけるアリスの肩をポカポカ叩いておいた。
その後、みんなで『ミッドKnight』の曲を色々熱唱しながら基地に向かいました。
にしても歌手もやってるアリスはともかく、チグも歌が上手いなあ。ギターも弾けるらしいし。
ちなみに文化祭でアリスが歌う後ろでギターを弾いていたのは、チグ。
やがて、
「「「見切り発車の恋、シャーロックにも解けない恋、貴方に解いて欲しい。鍵は置いてい~く~か~ら~♪」」」
「あ、あれじゃない? 基地って」
熱唱しながら揺られていると、私が指さした方向に基地らしき物が見えてきた。
「だな、――よし」
チグが音楽を切って、車の速度を緩めて行く。
門に近づくと、当然の様にセキュリティーガードに止められた。
アサルトライフルを肩に掛けた兵士さんだ。
「止まれ、身分を確認する」
「ご苦労さまです」
チグが、平然と返した。
私は、ちゃんと身分偽装できてるか、ドキドキしてるのに。
私が若干挙動不審になっていると、兵士は車の中にすし詰めになっている女子高生達を見て、眼を丸くする。
「なんだ、女ばかり・・・随分若いな」
「父に会いに来ました」
「面会? そんな予定は――」
兵士がウィンドウを出して操作する。
「――あるな。・・・・よし、通っていいぞ」
「お疲れ様ですー、頑張って下さいー」
アリスが、窓を開けて手を振り兵士に激励を送った。
美人な女の子に声を掛けられて、兵士はちょっと鼻の下を伸ばしていた。
私は、アリスとチグにビックリしながら声を掛ける。
「二人共・・・よく自然に対応できるね」
「まあなぁ」
「演技なら、まかせてください」
するとちびっ子が、納得するように腕を組んで頷いた。
「女は生まれながらの女優だからな。――涼姫は、悪い女にひっかからないように気をつけるんだぞ」
「なにそれ、どういう事!?」
女の私が、なんで女に引っかけられるの!?




