280 チグを応援します
「鈴――スウ様、ごきげんようですわ」
「よっ、スウっち」
「あ、西園寺さん、チグ」
ハイレーンの基地の格納庫に降りた所、クラスメイトに話しかけられた。
この二人はIDが名字そのままの猛将。
て、待った待った。
私は急いでカメラを〖念動力〗で回れ右、制服着てるじゃん。
配信してるのに、どこの学校かバレるじゃん。
二人共、パイロットスーツの上に服を着ている。
私は〖テレパシー〗を送る。
(ごめん。二人共、配信中だから制服脱いで)
(あ、そうでしたの?)
(なるほど気づか無かったわ。スウっちと会う時は、制服を着てたら駄目なんだな)
二人が制服を脱いでいく。
生脱ぎ。
チグがせくしー。
「なんだか、スウ様の目がエロいですわ」
「ガン見だな」
「えっ、いやっ、ヨコシマな気持ちはどこにも!」
❝モデレイター(アリス):スウさん?❞
❝閃光のアリスもよーみとるw❞
「え、アリス!?」
チグに注意される。
「スウっちは、回れ右。後ろを向いていてて」
「ですわね。スウ様の前で生脱ぎは恥ずかしいですわ」
西園寺さんまで同意。
「体育とかも一緒に着替えてるのに!?」
女の子が着替えてる所で回れ右させられる私は、本当に女子なのか?
あ・・・・私、女子の才能無かったわ。
二人が脱ぎ終わった所で、正面を向くことを許可された。
西園寺さんが制服を持ったままだ。
そっか〈時空倉庫の鍵〉がないんだ。
「西園寺さん、これあげる」
私は〈時空倉庫の鍵〉の腕輪を西園寺さんに渡す。
「こ、これは! 有名だけれど普通は手に入らない〈時空倉庫の鍵〉ですの!? 欲しかったんですわ!! ありがとうございます、スウ様!」
「いえいえ」
西園寺さんが制服を仕舞ったので、質問してみる。
「で、どうしたの? 私を待ってたみたいだけど――ここ、私用の格納庫だし」
「ですわ、待ってましたの」
「だなぁ」
「何事?」
「じつはですわね。わたくしたち、この世界の真実を知りたくなりまして」
「そうそう」
「真実?」
「詳しい話は、こちらで」
西園寺さんがが言うと、通信ウィンドウが開いた。
◤CLOSED◢ と表示されている。
『クラスメイトの鷹森さんおられますでしょ?』
『うん』
『彼、何かありそうなんですのよね――それでチグ様が』
『ちょっと興味が出てなぁ』
チグが頷くと、西園寺さんが、
『チグ様は、鷹森さんが好――むごっ』
え、マジで!? ――初耳なんだけど!!
西園寺さんの口が、チグによって押さえられる。
あ、鼻まで塞いでる。チグ、西園寺さんが死ぬよ?
「むー! むーっ!!」
ほら、西園寺さんの顔色が、だんだん悪く。
「むーーーっ!!」
私は念動力で、チグの手をどけてあげる。
すると、西園寺さんは空気を肺に、掻き込むように吸い込んだ。
「殺す気ですの!?」
「殺意は否定しない」
チグ怖いって。
ていうか・・・・殺人未遂では? ・・・BANされかねないよ。
西園寺さんが、チグに秘密を護る宣誓をしてから話を続ける。
『というわけで、スウ様なら何か秘密を知ってるかも。と』
『西園寺さんが死にかけるレベルなのは分かったけど。私、別に何も知らないよ? 知ってることは全部配信に乗せてるし、ほぼ全部言ってるし』
『そうなんですの・・・?』
『残念だな・・・』
西園寺さんが拳を握って気合を入れる。
『じゃあ、もう、やはりアレしかありませんわね』
『だな』
置いてけぼりな私は、尋ねてみる。
『アレ?』
『実は、今度リアトリス旗下のコロニーに凸しようと思ってますの』
「はいいい!?」
私が驚くと、❝なになに?❞、❝どうした❞なんてコメントが流れた。
いや、驚くって。
『流石に止めておいたほうが!』
『それはそうですけれど・・・・』
『まあ、BANされたらどうしようとは思うけどなあ』
『相手はヤベー奴らのリアトリスだよ!? ほんとやめときなって!』
『いや、止める気はないな。一人でも行ってくる』
チグがキッパリ言った。
頑固者だ、この子!
仕方ない、
『じゃ、じゃあ、私もついて行ってあげるから』
『本当か!?』
私は頷く。だってチグを一人でリアトリスのコロニーなんかに行かせるわけにはいかないし。
それに、
『私も鷹森くん、ちょっと気になってるんだよね』
『スウっち、それはライバル宣言か!?』
『そうではなくて』
というか今のセリフ、もうチグは鷹森くんを「アイ オンチュー」って言ってるようなもんじゃん。
『そうじゃなくて、命理ちゃんも鷹森くんが気になるみたいな事言ってたから』
『命理は、ライバルB!?』
そんな、ス◯イムの数え方みたいな。
『違う、なんかどうも命理ちゃんと鷹森くんは面識があるっぽいんだよね』
『命理って、1100年前の人間だよな?』
『そうなんだよね』
『どういうことだ・・・?』
『私も、それを知りたいんだよね』
『なるほどな』
チグの誤解を解いた所で、西園寺さんがチグの手を握る。
『わたくしも手伝いますからね』
『ありがとう、西園寺!』
お? 百合かい? 百合の花が咲いているのかい?
でもチグは簡単には嫁にやれないぞ? お父さん、許しませんからね。
というわけで3人で、ちょっと危ないコロニーに向かうことになった。
さて出発だフェアリーテイルに乗ろうと思っていたら、頭上に足音。
「スウさーん」
「来たぞー!」
あ、アリスとリッカも来た。
という訳で、5人でちょっと危ないコロニーに行くことになった。
ここからは秘密の行動なので、配信は切った。
『リアトリス旗下のコロニーですか?』
私は一応、アイビーさんに連絡を入れておく。
BANにならないか心配だし。
『はい。BANになったりしませんか?』
『微妙な所ですね。クナウティア様に尋ねてみます』
しばしして、
『クナウティア様が〖前人未到〗の称号によって、無理やり許可しました。みなさんの侵入がリアトリス側にバレても問題なくなりました』
『マジですか・・・』
『マジです。――ただ、流石に配信は許可できません。との事です。都合よく物資搬入が行われるので、そのタンカーに乗って潜入して下さい。身分偽装はこちらで何とかします。我々もリアトリスが少し気になっていますので』
身分偽装までしてくれるんだ?
『ありがとうございます。了解しました』
私はみんなに向き直る。
「クナウティアさんが〖前人未到〗で無理やりOKにしてくれたらしい」
「これは酷い」
リッカが呆れた。
西園寺さんが感動したように手を組み合わせる。
「流石スウさんですわ」
「スズっちがいないとBANだったか・・・危ない所だったよ。ありがとうスズっち」
チグに軽く拝まれた。
「いやいや、チグの為だし――ただアリス、リッカ、配信はしちゃ駄目だって」
「まあ、する気もないけどな」
「リアトリス側に、潜入がバレバレになりますし」
という訳でコロニーに移動。
タンカーの丸い窓から宇宙を眺めて「ヨーホー、ヨーソロ、銀河の彼方へ船出の時だ、涙は置いていこう、宝石箱に世界を詰め込むんだ」などと適当に歌っていると、アリスが私の視界に入った。なんだか嬉しそうだ。
「この船、重力制御装置が弱いですね」
「大きな荷物を運びやすいようにしてるらしいけど、それがどうかしたの?」
「体重が減ります」
「そ、そっか・・・」
私が遠い目をしていると、目的のコロニーが見えてきた。




