279 絶対に外れない予言をされます
私が内心で天然ボケをかますアリスにツッコミを入れていると、おばあさんが急に手のひらを顔の前に持ってきて、親指と人差し指の間からアリスを見た。
「これは占いではないのだけれど、ちょっとアンタさんの事見てもいいかい?」
「え・・・・と、構いませんが」
「では失礼して。――なるほど、アンタさんスキルを持っとるな。プレイヤーなのかい」
おばあさんが優しく微笑んだ。
「なんで分かるんですか!?」
「ズルしたんじゃよ。ワシもプレイヤーなんじゃよ」
「えっ、じゃあお婆さんもスキルを持ってるんですか?」
「うむ。占い師じゃからな、それにピッタリのスキルの噂を聞いて取りに行ったんじゃ。それなりに苦労したんじゃがな」
「ど、どうやって取ったんですか」
え、MoB倒したのしかも印石が出るまで?
――確かに、矍鑠としてるけど、体力が有るようには見えない。
「手伝ってもらったんじゃよ。佐々木って名乗っておったな。下の名前は凄い名前じゃった」
私は「もしかして」と思い、お婆さんに尋ねる。
「佐々木 助平さんですか?」
「そうそう! 流石に忘れられん名前じゃったよ、しかし名前に似合わぬ好青年だった」
「ですよね! 分かります!」
さすがスケさん。お婆さんにも優しいんだなあ。
「そんな風に苦労して手に入れたワシのスキルはな、〖覗く〗」
「〖覗く〗?」
妙な名前のスキル名に思わず尋ね返していた。
「そう、ワシは指の間から4つの風景を覗けるんじゃ。――中指と薬指の間からは対象の心。――親指と人差し指の間からは、対象の情報。――人差し指と中指の間からは対象の未来。――薬指と小指の間からは対象の過去」
なるほど、だからさっき親指と人差し指の間からアリスを見たのか。
おばあさんがアリスに向き直る。
「ちょいと、アンタさんの未来を覗いてみるが良いか? ――ちなみに、ワシの見た未来は絶対に変わらんのじゃが。必ずその場面が来るそういう能力じゃ」
「ちょ、ちょっと怖いですね。でも見て欲しいかもです」
「よろしい。では失礼して〖覗く〗――ほう・・・」
「何が視えましたか?」
「お主が昔のヨーロッパの貴族の様な格好をして、赤子を抱いて乳をあげておる――とても穏やかな光景じゃよ」
「赤ん坊ですか!?」
「なんとなく、隣の嬢ちゃんの面影があるな」
「え!? 涼姫の!? ――どうしましょう・・・・きっと、わたしと涼姫の子供ですよ!!」
アリスが「くわっ」とこちらを振り向いたんだけど、私はアリスの勢いにたじろぐ。
「・・・え・・・・いや・・・生物的に無理でしょ・・・・」
「でも連合なら出来そうな気がします!」
「ま、まじで・・・?」
アリスが勢い込んで、おばあさんを振り返る。
「――おばあさん、チップです! 一万円です! わたし成金なんで遠慮なく受け取って下さい!」
「ほほっ、これはすまんの。じゃあ遠慮なく」
1万円を受け取ったおばあさんが、水晶を手の甲でどけながら、私に向き直る。
「次、隣のアンタさん。見てもええかの? さっきのかげりがなんなのか分かるかもしれん」
私は頷いた。
「はい、お願いします」
おばあさんの眼が、人差し指と中指の間からこちらを見る。
「―――〖覗く〗。なるほど、これは来年の夏頃かな――ん!?」
突然おばあさんの眼が見開かれて、彼女は顔を背けた。
人差し指と中指間から、おばあさんの眼が消える。
「・・・・み、見えん―――何も視えなんだ」
「えっ、でも――」
「いいや、アンタさんが出てくる場面まで辿り着かなんだ」
おばあさんが震えている。
(何を見たんだ・・・・私はどうなるんだ・・・〖第六感〗)
おばあさんが、今何を感じているのかが、私に伝わってくる。
(死)
え!? ――死!?
――わ、私、死ぬの!? 来年の夏に!?
これは、確実に情報を手に入れておきたい!
(おばあさん、ごめん〖サイコメトリー〗)
私は、おばあさんが見たという未来の記憶を貰う。
するとおばあさんがキョトンとした。
「ん――? あ、次、隣のアンタさん。ええかの?」
「いえ、私は遠慮しておきます」
私が断ると、お婆さんは納得の顔になった。
「む・・・そうじゃな、未来のことは知らないほうが良いこともあるかもな」
「はい、じゃあ私達は失礼しますね」
「うむ、お主の未来は輝いておる。頑張るのじゃよ」
「はい!」
こうして私とアリスは、おばあさんの元を離れた。
「涼姫、〖サイコメトリー〗を使いましたね?」
「バレてたか。・・・・ちょっと、どんな未来を見たのか、見てみるよ」
「気をつけて下さいね」
「変えられない未来に、何を気をつけるの〖サイコメトリー〗」
私の眼の前に、沢山の記憶の窓が並ぶ。
その中から、おばあさんの記憶を見つけて、私は覗き込む。
―――こ、これは!!
「涼姫・・・? 涼姫!? ――どうしたんですか、顔が真っ青ですよ!?」
私は唇が震えて返事ができなかった。
私が見たもの・・・・それは――
まず笛の音が聴こえた。
その後、光り輝く3連星の前に私はいた。
バーサスフレームに乗っていない。
やがて私は光りに包まれ、首を無くした。
首を無くした私の体が、宇宙空間を漂っていた。
――それは、私が死ぬ瞬間だった。
「涼姫、何をみたんですか!!」
私はアリスに揺さぶられて、「ハッ」とする。
アリスが真剣な表情で私の瞳を覗き込んでいる。
「え、あ・・・・何でも・・・!」
「いえ、もし涼姫に何かあるなら、私にも見せて下さい・・・!」
「え・・・でも」
「見せて下さい―――ッ!」
アリスのあまりの剣幕に、私は思わずアリスに記憶を見せてしまう。
「なる・・・ほど」
アリスがメモを取っている。
「記憶を、涼姫に戻しても大丈夫です」
「うん、〖サイコメトリー〗」
私は記憶を自分に戻す。
アリスが、メモを凝視し続けている。
そして呟いた。
「・・・・絶対に当たる予言ですか」




