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276 アリスさん救出作戦を開始します

(じゃあ一つ注意だ。君の名前は名乗ってはいけない、スウという名前もだ。未来の君が、自分がアリス君を助けたと知るのは、あまり好ましくない)


「えっと、はい。――じゃあ、アーカイブを一旦巻き戻して、宇宙に生身で出ないように言・・・・」


(待った! アリス君の命綱をデブリが襲った瞬間が、歴史を歪められた瞬間だ。そこは無かった事にはしない方がいい――その方が正常に戻しやすい。不安定な歴史を、勢いを付けて転がすんだ)


「な、なるほどです。――じゃあこのまま」


 多分、私ならアリスさんを助けられるはず。

 私は、アリスさんに〖テレパシー〗を送る。


(アリスさん!!)


 アリスさんが回転しながら、宇宙空間へ飛ばされていく。

 背中から酸素が放たれ、すごい勢いだ。

 結構、不味い。


 アリスさんがフラグトップに手を伸ばすけど、空気の噴射がかなり不味かったのか、どんどん遠ざかっていく。


 カメラに映るアリスさんが、見る見る間に豆粒のように!


『だ、だれか助けてくださいーーー!』


 アリスさんの絶叫がスマホから聞こえる。


 画面に映る豆粒みたいなアリスさんが、身体を様々に動かすけど、無理だ。

 宇宙ではどんなに体を動かしても、加速は得られないんだ。


『だめ、止まらない、方向転換できません! 〖重力操作〗! だめです・・・!』


 アリスさん顔の血の気が、どんどん失せていく。


『だれか、助けてくださいーーー!!』


 コメント欄も大騒ぎだ。

 私はもう一度〖テレパシー〗を送る。


(アリスさん―――!)


『・・・えっ、誰ですか!?』


 ほ・・・本当にアーカイブが改変された?


 アリスさんは、本来こんな事を言わない。


 しかし急いでアリスさんを反転させないと、彼女は助からない。


 今、アリスさんは衛星軌道に乗れる速度、第一宇宙速度で動いている。

 しかもパイロットスーツから漏れた空気の噴射のせいで、徐々に惑星ハイレーンに向かって飛んでいるんだ。

 本来のアーカイブでは、彼女はこのまま大気圏で焼け死ぬんだ。


(アリスさん、AIドローンを呼んでその推進剤で飛んで下さい!)


『あ! そうですね。ショーグン来て下さい!』


 ショーグンはアリスさんのドローンの名前。


 しかし――、


『だ、駄目です。ショーグンの様子が可怪しいです! 噴射口が壊れたみたいです!』


 AIドローンが変な回転をし始めた。アリスさんとバーサスフレームの間に挟まれた時か!


 不味い、カメラの役割をしているアレの回転が早くなると、アリスさんを見失ってしまう!!


(アリスさん、ドローンを止めて下さい! ――もう動かさないで!)


『わ、わかりました。ショーグン、止まって下さい!』


 早く、アリスさんを反転させないと。


 空気は、全部噴射し終えたみたいだけど。


(アリスさん、何も無い場所に〖重力操作〗は掛けられますか?)


『む、無理です!』


(重力を、何倍くらいに出来ますか?)


『2倍が限度です!』


(〖重力操作〗で動くのは、ほぼ不可能っぽい)


 どうする・・・・よし・・・。


(アリスさん! 〖真空耐性〗を使ってから、頭をフラグトップの反対側に向けて、ヘルメットを開けて下さい! ヘルメットに残った酸素を使いましょう)


『なるほどです!!』


❝アリス、誰と話してんの!?❞

❝・・・わかんねぇ❞

❝誰かがスキルとかでアドバイスしてる? ・・・アリス助かるか!?❞

❝いや、だから〈時空倉庫の鍵〉に入れって・・・・俺が拾いに向かってるから❞

❝あんな狭い入口からどうやって入るんだよ、手足を切れってか?❞


 アリスさんは、私の言った通りにする。

 すると、パイロットスーツ内の空気が猛烈な勢いで宇宙へ抜けて行き、彼女の速度が緩んだ。


 しかし、空気がなくなったことで、アリスさんは喋れなくなった。

 口をパクパクさせている。


(〖テレパシー〗で会話しましょう! ――あと、アリスさんの様子がよく見えるようにカメラに拡大させて下さい)

(わ、わかりました!)


 アリスさんが、回転する画面でアップになる。

 カメラが結構速い回転をしているけど、私なら見失わないでいられる。


(どなたか存じませんが! まだ止まらないんです! どうしたらいいですか!? フラグトップが遠ざかって行くんです――このままじゃ宇宙で迷子になってしまいます! それに〖真空耐性〗は身体に熱が溜まって行くんです・・・真空中で〖真空耐性〗を切ったら直ぐに死んでまいます。けれど、切らないと熱が溜まるんです! ――わたしが生き残るには、時間制限があるんです! 迷子になったら見つけて貰う前に死んでしまうかもしれません!!)

(落ち着いて下さい、アリスさん! ――いいですか、宇宙空間ではどれだけ手足を動かしても、自分の重心の中央を軸とした円運動しかできません)

(みたいです・・・ね)


 実際宇宙ステーションでも宇宙飛行士が、何も手が届かない場所に浮いてしまい、身動きが取れなくなる事故があった。

 そういう時は、服を投げたりすれば良いんだけど。


(宇宙空間では、何かを投げたり蹴ったりしないと方向を変える事も進む事もできません。体当たりでも頭突きでも殴るでも良いですが――蹴れるなら、服でもいい。でも、蹴るならできるだけ質量かエネルギーの多いものがいい。蹴る時は〖重力操作〗で相手をできるだけ重くしてください。――銃は持ってませんか?)

(銃?)


 アリスさんが自分の腰をまさぐる。


(えっと――駄目です、無いです)

(〈時空倉庫の鍵〉には?)

(あ、そうですね。拳銃が入ってます!)

(なら、弾丸を射出する反動でフラグトップへ飛ぶんです! 銃弾なら、かなりの推進力が得られます! もちろん撃つ時は弾丸をできるだけ重くして下さい!)

(なるほどです!)


 アリスさんは急いで拳銃のジェネラル16を取り出して、連射する。


(待って下さい! 焦ってるのは分かりますが、そんなに連射しないで下さい! 貴女には今、さっきの背中からの空気の噴射のせいで、かなり不規則な慣性が掛かってます。それを修正するんです。――ゆっくり確実に、角度を変えながら! 下手したらハイレーンの重力に捕まります! ――換えの弾やマガジンはありますか?)

(マ、マガジンなら1本だけ!)

(今拳銃に入っている弾丸は、残り何発ですか!?)


 アリスさんが弾倉を取り出して――重力がなくてもバネの力で弾倉が出るタイプみたいだ。良かった


 弾倉の後ろを確認した。


 ジェネラル16は弾倉の後ろに穴が空いていて、弾数が目視できる。


(11発・・・です!)

(大事に行きましょう!)

(は、はい!)


 アリスさんがゆっくり確実に弾丸を放っていく――やがて、すべての弾丸を撃ち切った。


 だけど、フラグトップに大分近づいた。


(どうしましょう、弾切れです―――!)


 アリスさんは大分フラグトップに近づいてきたけど、まだ距離がある。


(あの。これ、なにか重いものを振り回して、角運動を保存してそれを直線運動に変換して進めませんか?)

(私も昔、バーサスフレームの操縦の為に考えましたが無理です。――どうやっても、力が釣り合って進めません。外部から力を得ないと無理です、内部の力をどうやっても推進力にはならないみたいです。慣性の向きすら変えられない)

(そ、そうなんですか・・・)

(〈時空倉庫の鍵〉の中身を取り出して蹴りましょう。それしか進む方法はない。だけど、グラップリングワイヤーだけは絶対に蹴らないで下さいね。正に命綱です。グラップリングワイヤーをフラグトップにくっつけましょう――持ってますよね? グラップリングワイヤー)

(も、もってます。分かりました!)


 アリスさんが弾丸を撃ち切った拳銃を蹴った後、〈時空倉庫の鍵〉から物を取り出して蹴っていく。


 コップ、化粧品、靴、食べ残しのお弁当、コンパクトの鏡――


 アリスさんがコンパクトの鏡を蹴った瞬間、私の胸にチクリとした痛みが走った。

 なに? ――今はそれどころじゃないのに。


 アリスさんが頭を抱える。


(あああデブリ回収に来たのに、デブリが増えていきます! 連合に怒られそうです!)

(大丈夫、ほとんどのデブリはハイレーンの大気圏で燃え尽きます!)

(そうなんですか! ・・・・よ、良かったです!)


 よし、大分進んだ。


(だ、だめです。倉庫の中身が尽きました!)


 な、無くなっちゃったの!?

 ――まだグラップリングワイヤーがフラグトップに届かないのに!


(あ、まってください。最後に一つ有りました)


 アリスさんが取り出したのは・・・爽やか炭酸だ。

 しかも。ストロング炭酸1.5リットルペットボトル。

 彼女は真空に爽やか炭酸を置く。


(スポンサーに貰ったんですよね)


 スポンサー、ナイス。


(――じゃあ、これを蹴って)


 あ、駄目!


(待って下さい、それは蹴らないで下さい!)

(えっ、なんですか、そのスポンサーみたいな発言)

(違うんです、少し振って振って、ジェットのように使って下さい。そこは圧力が弱いので、一気に炭酸が吹き出すはずです。もうペットボトルがパンパンじゃないですか?)

(・・・た、確かに!)

(できるだけ液体も噴出してほしいので、振って炭酸を馴染ませて下さい)


 アリスさんが少しペットボトルを振る。


(も、もう弾けそうです)

(じゃあ蓋を開けて下さい)

(はい!)


 アリスさんがペットボトルを構えながら、蓋をひねった。瞬間――蓋が弾けるように飛んで、アリスさんが一気に進んだ。

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