表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

279/469

275 歪められた世界を知ります

◆◇◆◇◆




「いいかい。トゥイードルダ、トゥイードルテ憶えておくんだ。基本的に、過去は変えられない」

「知らなかったわ」

「知らないの」

「時間っていうのは川のようなものだ――そして過去を変えようとするのは、川で魚が飛び跳ねるような物。――魚が飛び跳ねても川の形は変わらないだろう? これが歴史の修正力」

「魚は、川の形を変えられないわ」

「魚は、川の形を変えられないのね」

「だが、魚にも過去を変えられる瞬間がある。世界に沢山の影響を与える様な、大きな出来事が起きる辺りだ。――例えば、鈴咲 涼姫と八街 アリスが出会う日の付近。ここは改変しやすい」

「何をするの?」

「何をするつもりなの?」

「立花 みずきを救うのに、少し邪魔なんだ。あの八街 アリスという女――鈴咲 涼姫と出会う前日に、死んでもらう。――鈴咲 涼姫と八街 アリスの出会いは、無かった事にさせて貰う」

「できるのかしら?」

「そんな大きな改変。沢山変えないと、殺せないんじゃないの?」

「確かに過去を変更できるとしても、多くは干渉はできないが――あの瞬間なら、ほんの少し触るだけでも歴史を大きく変える方法がある」




◆◇鈴咲 涼姫◇◆




 私はスワローさんのワンルームのベッドの上で、スマホを弄っていた。


「そろそろ文化祭だなあ。高校の文化祭って、どんな感じなんだろう?」


 なんて呟いた時だった――急に、胸に虚無感を感じた。


「え。――今、何かとても大事な物を失った感覚が」


 あ、あれ・・・?


 なんだか・・・・涙が止まらない。

 なにこれ、私の涙腺壊れた?


 とめどなく涙が溢れてきてしまうので、私は袖で拭き続けた。


「どうしたの私。と、止まれ、止まって!」


 私はベッドの近くの棚をまさぐって、ティッシュ箱を取り出した。ワンルームは狭くて便利。


 私は、住む場所が無いから、ここに住んでるんだよね。

 ちなみに地球に駐機していたら国に怒られるので、ハイレーンの侵入禁止区域に駐機して暮らしている。


 しばらくして、やっと涙が止まった。


「ほんと、なんだったんだろう。――あ、スナークさんが配信してる」


 スナークさんもアリスさんが亡くなった時は、大変だったなあ。

 私はアリスさん目的でスナークさんの配信を見てたけど、彼女が帰らぬ人となった後も惰性でスナークさんの配信を見続けている。


 ・・・私も配信者になろうかなあ。

 でも、私って美人でもなんでもないから、私の配信なんか視る人間はいないか。


 配信なんかしてたら緊張しちゃうだろうし、そして音子さんや、コハクさんみたいに死んだら嫌だし。――スワンプマンは恐いよ。


 ていうか、私が視てる配信者、ほとんど一回は死んでる件。


「アリスさんもだし。――私が視るからいけないの?」


 でもこの配信者さんたちは、なんだかどうしても視たくなるんだよねぇ。

 今一番お気に入りのリッカさんの配信は、もう視るの止めたほうがいいのかな。


 あー、スナークさん40層のボスをなんとか倒せないか視聴者と相談し始めた。

 あのボスを倒せないのは痛いよねぇ。

 なんか〝真空なんとか〟っていう武器を連合が作れなくて、無限に復活するボスを倒せないんだって。

 弱ったもんだ。


 でも私、30層のヘルメスに手も足も出なかったから、40層ボスとか行く気もない。

 あの時は初めてボスと戦って、あまりのボスの強さにビックリしたよ。

 それにボッチだとシールドを回復して貰えないから、ボスとか怖くてもう行けない。

 というか回復してもらえないどころか「スワローテイルなんかで来るな!」って、滅茶苦茶罵倒されちゃったし。


 迷惑かけてすみません、くすん。


 30層は1位のマイルズさんと、スケさんって人と、マリさんって人が協力してなんとか突破したんだよね。

 凄い連携だった。

 あとアカキバって人もなんか手伝ってた。

 ――あの人、コハクさんをほぼ殺したようなものだから、嫌い。

 なんでアイツ、BANにならないの。


 とりあえずまあ、私はこれまで通りでいいや。ほどほどのクエストを、ほどほどにこなして行きまっしょい。


 私は、40層のボスを倒す方法なんて思いつかないので、スナークさんの配信を離脱。


 アリスさんが生きてた頃のスナークさんの配信アーカイブを、懐かしい思いで視る。


「あった・・・これだ。アリスさんが死んだ事故・・・・この日、アリスさんとスナークさんが待ち合わせしてて、アリスさんしかいなかったんだよね。しかもなんかデータベースがハッキングされてて、なぜかアリスさんのデータだけ壊れてて、復活出来なくて・・・・」


 私は、懐かしいアーカイブの視聴を開始した。




『はい、そうなんです。今日はデブリ回収のクエストを受けて来たんです』


 アリスさんがVRのマップをホログラムに映す。

 赤点がいっぱい表示された。


『この赤点がデブリです。ハイレーンの軌道上にも、沢山のデブリが浮いてるんですよ。でも、そんなの危ないですよね? だから回収クエストが出てます。――これはお宝探しではなく、安全確保のデブリ探しですね』


❝ハイレーン周辺のデブリ探しは、結構割高なんだよな❞


『ですね。一攫千金がない代わりに、かなり報酬が割高に設定されてます。大きいのを1個回収するだけでも、1万クレジットと5000ポイントも貰えます。小さいのなら10万クレジットに、5万ポイントです。凄いですよね』


❝スゲェな❞

❝モデレイター(音子):ほんとに割がええやん❞


 ハイレーンのデブリ回収って、かなり報酬が割高なんだよね。


 私もたまにやってる。


 日本円はあんまり持ってないけど、クレジットがあれば暮らしていけるし。


『で、わたしは考えました。バーサスフレームでネジ一個とか拾うのは結構至難です。でも生身なら簡単に取れます。特にわたしは』

「アリスさん、油断しちゃ駄目だよ・・・・そのせいで、貴女は」


 この声は、もう貴女に届かないけど。


 アリスさんが彼女の機体、フラグトップを操縦する。

 すると、バーサスフレームのバリアが発動した。


『――よし、小さなデブリがバリアにあたって弾かれました。――わたしは〖真空耐性〗を持ってます。普段着でも宇宙空間で平気ですし、なんなら裸でも余裕です。まあパイロットスーツは着ますけど』


 前に調べたんだけど、この〖真空耐性〗ってかなり凄いスキルなんだよね。


 舐めてた。


 まず真空での体の膨張が抑えられる。

 そのため身体の沸騰も起こらない。


 宇宙空間はほぼ絶対零度だけど、沸騰による気化が起こらないと、真空は熱が伝わるものがないから簡単には体の温度は簡単には下がらない。


 他にも、呼吸が必要なくなる。


 それから真空での熱輻射(ねつふくしゃ)対策もされるから、温度も問題なし。


 更に、真空中で恒星の光や熱を受けても大丈夫になる。

 だから光の一種であるガンマ線も大丈夫。


 ほぼ宇宙空間耐性。


 ただし〖真空耐性〗はパッシブスキルではなくアクティブスキルなので自分で使う必要があるんだよね。

 まあ、常に熱輻射が出来なくなると死んじゃうから良いんだけど。


 普通にパイロットスーツだけで宇宙に出ても、暑く感じるもんなあ。


 あと、あの〖真空耐性〗って耐G対策にもなるらしい。

 ――ブラックアウトしなくなるらしい・・・・レッドアウトはするけど。


 ブラックアウトは、Gで血が下半身に集まって脳が酸素不足になって気絶すること。

 レッドアウトはその逆、頭に血が集まりすぎて気絶する。


 ちなみにレッドアウトは顔や目が充血することが語源であり、視界の変化はキラキラしたりする。

 そしてレッドアウトは頭の血管が切れたりするから、ブラックアウトより危ない。

 なので基本的にレッドアウト状態にはしない。


 急激な機首下げはご法度だ。

 ――浮遊感は楽しいんだけどね。


『よし、じゃあ船外活動ですね』


 アリスさんが、命綱のチューブをつけて宇宙に出ていく。

 あの命綱チューブは触手みたいんに動かす事が可能なので、宇宙で移動できる。


 今アリスさんが着ているのは安いパイロットスーツなので、酸素を放出して移動する機能はないんだよね。

 ちなみに命綱チューブがあれば、スーツに酸素を送ってくれる。

 まあパイロットスーツにも、酸素が充填されてるけど。

 それに、アリスさんは酸素必要なくできるんだけど。


『ありました、ありました』


 アリスさんが、ネジに手を伸ばして宇宙空間を泳いでいく。

 ここで異変が起きた。

 ここからだ・・・。


(アリスさん・・・。この時、私がリアルタイムでこの配信を視ていたら、きっと助けられたのに)


 偶然飛んできた小さなデブリが、命綱チューブに激突した。

 命綱チューブが大きく揺さぶられる。


『え―――これ、なに!?』


 振り子のように弾かれたアリスさんが、勢いよく機体に激突する。


 アリスさんのAIドローンが、アリスさんと機体の間に挟まれて、画面が乱れる。


 フラグトップにシールドの発動を示す無数の六角形が現れて、アリスさんが宇宙に弾かれた。


 アリスさんが呻いた次の瞬間、命綱チューブが引きちぎれる。


 背中にある酸素を貯蔵していた部分が破裂して――


(だめだ、辛すぎる―――もう視るのを止めよう)


 私が顔を背けた時、電車の様な音が聴こえて、ノイズ混じりの声がした。


(視るんだ!)


「え・・・・なに? ・・・なんの現象? ――幻聴?」


(幻聴じゃない! ――アリス君を救うんだ! 世界を正常に戻せるのは君だけだ!)


「えっ、えっ」


(最近やっと気づいたんだ。世界が滅茶苦茶にされている事に。君とアリス君が出会わない様にされただけで、何もかも破壊されてしまっていた! このままでは君たちの地球は確実にベクターの手に落ちる! ――君がアリス君と出会わなかったせいで、命理君が死んだ、音子君が死んだ、コハク君が死んだ。――クレイジーギークスだったメンバーは、今でも不幸だ)


 え? え? ベクターって何――命理さんってだれ!?


 音子さんや、コハクさんが死んだ理由が、私とアリスさんが出会わなかったから?


 ちょちょちょ、とんでもない事の責任を押し付けないで。


 あと、クレイジーギークスってなに、メンバーって誰!


 ほんと、なに言ってるの!? この声!


(君は配信を始めず千種君とも仲良くなっていない、風凛君ともだ。――さらに40層のボス攻略方法はもう無い。――バーサスフレームのフェアリーテイルすら存在しない。――他にも様々な人が不幸になっている。君だって、未だにお金がなくて困っているだろう。――君とアリス君が出会わなかっただけで!!)


 千種って、私の前の席の虹坂 千種さんの事!? ――風凛は誰!!


 40層のボス攻略は、連合が真空なんとかを作れないからでしょ!?

 作ればいいじゃん、私関係ないじゃん!!


 フェアリーテイルってなに、スワローテイルの亜種!?


 知らない人の不幸まで、私とアリスさんのせいにしないでよ!


 私、お金が無いのはクレジットでなんとかしてるから!


「・・・・あの、あまり意味のわからない事まで私のせいにされましても」


(ああ、そう捉えたなら謝ろう。全て君のせいではない――悪いのは恐らくハンプティダンプティ・・・君はとにかく〖テレパシー〗を、アリス君に送るんだ!)


 確かに私は〖テレパシー〗を持ってる・・・変な手に入れ方をしたアレをこの人は知ってるのか。

 ――この前、突然現れた青い妖精に貰ったものなんだよね。


 その時、妖精も確かにこの人みたいな事を言っていた。

 「歪みを正して」なんて・・・。


「でもこのアーカイブは、過去の話ですよね?」


(〖テレパシーψ(プサイ)〗は過去にも送れる。そもそも君の居る地球は銀河連合の宇宙から見れば過去だ。そこにも〖テレパシー〗は送れる。今の君はボッチだから知らないかもだけど)


 ボッチ言われた。

 でも、過去に声を送れる事自体は知ってる。

 ボッチ言われた。


「だ・・・・だけど、過去に送っても過去は変えられないですよね?」


 〖テレパシー〗を貰ってすぐ、対象を見ながらなら過去に声を送れるって気づいたんだよね。

 だから自分の動画をスマホで取って過去に声を送って、未来から過去を変えようとしたんだ。


 お金が欲しかったんで、試しに「当たる宝くじ」を、過去の私に買わせてみた。

 そしたら、買わせた宝くじが無くなっちゃった。

 金庫に入れても、泥棒に盗まれたりする。

 ――どうやっても無くなっちゃう。

 そんな感じで結局、何も変えられなかった。


 私は「これが歴史の修正力かぁ」なんて納得した。

 あと怖いのが「これは絶対に過去を改変できる!」なんて作戦を組んで〖テレパシー〗を使おうとしたんだ。

 すると、私は〖テレパシー〗を発動した瞬間に一気に体力を持っていかれて、意識を失った。


 目が覚めたら3日後だった。


 〖テレパシー〗なんか、送れなかった。


 次の日、学校に行ったら「休む日は連絡しなさい」って言われた。くすん。


 謎の声が、私に説明する。


(普通の過去改変は無理だ。だけど、このアリス君が事故に遭った瞬間なら改変できる)


「あ、でも貴女も〖テレパシー〗してませんか? 貴女はアリスを救えないんですか?」


(ボクは今、君のいるハイレーンの禁止区域に来ている。――ボクの〖テレパシー〗はμ(ミュー)だ。これでは過去に声は送れない。君の〖テレパシー〗はψ(プサイ)だ。それなら過去へ声が送れる)


「な、なるほどです」


(君なら――この改変された過去を、変えられるんだ!)


 つまり本来、アリスさんはここで死ななかったって事?


 そしてさっき〝君とアリス君が出会わないと、何もかも破壊されていく!〟って言ってたけど、私とアリスさんは出会う運命だった?


 私、アリスさんの大ファンだったから、そんな未来が本来あったなら。・・・本当の未来を取り戻したい。


 アリスさんと知り合いになりたい!

 そしてあわよくば友達に! ――これは、流石に高望みしすぎかもだけど。


 こんな、ボッチの日々が消えるかもしれないなら!


「やります―――ッ!! やらせて下さい!!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
テレパシーしてきた相手が誰なのか気になって読み返して、一人称が僕なのは4人と1匹って事はわかったけど話し方が一緒の人が命の理の場面に出てくるハッカーっぽいんだよなぁ。でもあいつ敵っぽいしハンプティダン…
更新お疲れ様です。 以前に顔出ししてた奴等が暗躍したせいとはいえ、文化祭のお笑い感からいきなりヤバい章にシフトしましたなぁ…。アリスとスウちゃんが出会わない=ドラゴンボー○なら○飯じいちゃんが死なな…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ