273 航空ショーをします
「じゃあ、それぞれの機体を呼んでくれ」
「うん。きて! フェアリーさん!」
「来い、スワローテイル」
『皆様、フェイテルリンク・レジェンディアによる航空ショーが行われます。開始の前に銀河連合の代表の一人であるクナウティア様より挨拶があります。ではクナウティア様どうぞ』
空中に、クナウティアさんのホログラムが大きく映し出される。
地球にない技術だったので、来賓達が一斉にどよめいた。
『地球の皆様、銀河連合三代表の一名クナウティアと申します。本日はこの様なお祭りに招待していただき、とても感謝しております。学生様達のお祭りですがとてもレベルが高く、地球の皆様のお力の素晴らしさを実感いたしました。今日は歓迎頂いた感謝として、プレイヤー様に航空ショーのクエストを発注してみました。快く受けてくださったので、どうか心ゆくまでお楽しみ下さい』
放送部の女の子がアナウンスを続ける。
『では、これより、フェイテルリンクレジェンディアのプレイヤー〝マイルズ・ユーモア様〟、〝ユー様〟、〝スウ様〟による航空ショーが行われます。校舎上にご注目下さい』
「え、私の名前を言っちゃうの!?」
来賓がどよめく。
「スウもいるのか?」「なんかこの学校の生徒らしいけど」「えっ・・・・生徒!? 学生が航空ショーとかしていいの!?」
マイルズが目をつむって頷く。
「まあ、まさか女子高生がパイロット免許を取ってきているとは思わないだろうな。しかし、武器は使うなよ」
「そもそもロック掛かってるから使えないよ」
マイルズが前に進み出る。
「来賓に手をふるぞ」
「うん」
私達は用意された台座に登って、校舎上から下に向かって手を振った。
歓声が挙がる。指笛とかも聞こえてきた。
私達は各々の機体に乗り込み、コックピットに座った。
「〖マッピング〗〖超聴覚〗」
これで二人の位置を見失わない。
「では行くぞ、フライトスタート」
「はいっ」
「おう」
私達は、一斉に空に飛び上がった。
こうして航空ショーが始まる。
『では海側にご注目下さい』
まずは3人で三角形のフォーメーションで飛んで、次は三人の機体をスレスレまで近づける。
私は先頭のマイルズの下に潜り込む、ユーは上に行った。
『上手いぞ、二人共』
『誰に言っている』
「ありがと」
『次はこのまま機体を近づけたまま、ボクの合図で横転だ。そのまま左に曲がる』
『了解』
「はい」
『3、2、1、横転』
私がフェアリーテイルを傾けようとした時だった。
〖超聴覚〗に、来賓の歓声が聞こえてきた。
機体を横転させ、左に曲がりながらグランドを視ると、アリスの巨大なホログラムが目に映った。
「え、空中ホログラムとかクナウティアさんの仕業だよね――!? あの人、なにしてるの・・・!?」
巨大な美貌のアリスのホログラムが、手を振ってマイクを握った。
『みなさーん! 一式 アリスですー! 今日は私の歌を聴きに来てくれてありがとうございま~す! 航空ショーを見ながら聴いて下さい! では一曲目〝スウさんに捧ぐ謳〟です!』
「まって、まって!? ――今、〝それ〟を歌うの!?」
『おいスウ、集中しろ』
「ご、ごめん!」
僅かな伴奏があり、いよいよアリスが歌い出す。
『Her スウ! Her スウ! Her スウ! Her スウ! スウスウスウ!』
ここでアリスが頭上で拍手、客に拍手を要求した。
また少し伴奏があって、拍手が返ってきてアリスは満足げに頷き、Aメロに入る。
私、イントロで既に意識を失いそうなんだけど・・・・。
『無敵の ヒーロー! みせない 涙の い~ろ~!』
「涙を見せないって――ねえ、今まさにそのヒーローさんが泣きそうなんですが!?」
マイルズが困惑する。
『な、なんだこの歌詞は』
ユーがうっとりとする。
『いいじゃないか。まるで賛美歌ではないか』
「ユーは本当になんなの!? その美的センス!!」
いいながらも私達は急上昇して、噴水のように散開。
『不屈の闘志! 未来を Coolに見通し!』
「ちょ・・・ほんとにエグい、アリスやめて! 手元が狂う!」
『震えてくるんだが』
『ぜひ売り出して欲しいな、この歌を』
マイルズが真剣な声で言うと、ユーもまた真剣な声で言った。
私達は機体を人型形態に変形させて、手を繋いで回転しながら上昇。
アリスがこぶしのような物を入れて、急に朗らかに歌う。
『未知の敵から 君を助けに きーたーーーーーーぁ! Say!』
ここで曲が転調。バラード風になって、語りかけるようにアリスが呟く。
私達の機体は手を離し、回転の勢いのまま、螺旋を描きながら急降下。
『奇跡の ヒーロー すなわち 無敵の ヒーロー』
「手元と、私の気が狂うのどっちが先でしょうか?」
『大丈夫だ、お前の気は元々狂っているから、手元だけに集中しろ』
『スウはイカれてやがるからな』
「ユー、お前には言われたくない」
海面スレスレで散開。
『風をまとい 雨をこわし 影をちらし』
「駄目だ、吐きそう意識失いそう。生まれて初めて乗り物酔いしそう」
『耐えろ!』
『風をまとい 雨をこわし 影をちらし』
「ユーは輪唱するな!」
ここからアリスが大絶叫。
曲も激しくなる。
『風の妖精 影の恒星 つらぬけぇぇぇーーーっ!』
アリスがマイクを掲げて、可愛く飛び上がった。
爽やか炭酸のCMの、最後のジャンプにそっくりだ。
『Yethゥ♪』
なんだろう、CMであのポーズを見た時は、心が春になって花が咲き乱れたのに。
今は心にブリザードが吹き荒び、ぺんぺん草一本生えない荒野な荒れ地に成り果ててるんだけど。
アリスが小さくピョンピョン飛び跳ねる。
私達三機がアリスの巨大なホログラムの周囲を、三角形を描いて駆け抜ける。
『スウスウスウスウスウスウスウスウ♪ Her スウ! Her スウ! Her スウ! Her スウ!』
曲のリズムに合わせて、アリスが来賓にマイクを向けるようにした。
すると、体育館にいる人の声だろうか。
『スウスウスウスウスウスウスウスウ♪ Her スウ! Her スウ! Her スウ! Her スウ!』
という合いの手が返ってくる。
鳥肌がヤバイ! 鳥肌が!
『スウスウスウスウスウスウスウスウ♪ Her スウ? Her スウ? Her スウ? Her スウ?』
アリスが尋ねるように、マイクを来賓に向ける。
すぐに返事が返ってくる。
『スウスウスウスウスウスウスウスウ♪ Her スウ! Her スウ! Her スウ! Her スウ!』
『Her?』
『スウ!』
『Her?』
『スウ!』
『Her?』
『スウ!』
「アリスは盛り上げ上手だねぇ・・・」
『これを真剣にお前に捧げているのが恐ろしいな、閃光は』
『素晴らしい誠意ではないか』
私達とマイルズの機体がスモークを後方に吹き出しながら、空に♡を描くと同時に、再びアリスのホログラムが大きくジャンプ。
アリスは来賓の答えに、そのとおりだと言わんばかりに、
『Yethゥ♪』
いい笑顔だなあ。
星をちらし、ハートをまとい、私をこわす。
アリスがもう一回ジャンプ。
『イエッ―――スウ♪』
やや溜めてスウを強調した。
「マイケル、ユー、後は宜しく」
『お前の代わりがいない!』
『スウ、お前の役目は、お前にしか出来ないぞ!』
そうして二番まで熱唱したアリスがペコリと頭を下げて、私への公開拷問を終了した。
友達の気持ちが、重たいです―――いや、なんだろうこれ。
そうだ、エモたい。
友達の気持ちが、エモたいです
歌が止んで、最後に案内の放送部員からアナウンスが入る。
『では最後にマイルズさんは急ブレーキ急反転、ユーさんはコブラ機動、スウさんはロックン・ロールを――という予定なんですが・・・・――スウさん、大丈夫ですか?』
「はい・・・なんとかまだ呼吸しています」
ロックン・ロールは横転コルク抜きの事。
空にハートを描くやつ。
『では、お願いします』
私がドラムロールしながら、さらにスナップロールで急な一回転、太ったハートみたいな機動を描く。
もう一回、スナップロールで回ってやれ。
2連続で急回転して、ハートを壊して自分の心境を前衛的に表現。
「おおおっ」
「なんだあの機動、観たことないんだけど!?」
「スゲェェェェェェ!! なんだあれ!?」
こんな感じで航空ショーは幕を閉じました。




