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272 妖精王が帰還します

 みずきとアリスが、私を見つけて声を掛けてくる。


「涼姫だ、お帰り」

「あ、涼姫もこのお店に来たんですか?」


 私が逃げようとしていると、妖精たちが私に気づいた。


「あ、スウさんだ。みんな、妖精王だ。妖精王が降臨なされたぞ」

「本当だ妖精王だ」

「いらっしゃいませ妖精王」


 私はちゃんと否定しておく。


「誰が妖精王ですか!!」


 せめて女王にして。


「妖精王よ、どうぞこちらへ。お席は準備しています」

「その前に、」


 私は否定を無視されながら教室の入口にでかでかと掲げられた看板を、指差す。


「この『スウ〝公認〟 妖精喫茶 フェアリーテイル』ってなんですか!」

「あっ」

「バレた」

「いますぐ〝黙認〟に書き換えて下さい!」

「黙認ならいいんだ?」

「妥協ですからね!?」


 というわけで、黙認と書かれた紙を上から貼り付けた〝スウ黙認 妖精喫茶 フェアリーテイル〟に足を踏み入れる。


 私は教室の椅子を3つ並べた席に案内された。

 どうせ一個しか使わないんだけど。


 奥の方で星野 空さんが、緑のビキニ姿の女の子と話している。

 格好を指さして、笑っていた。

 あの女子生徒が渋谷 彩さんか・・・・おかっぱな黒髪なのに、華がある。

 なんか、彼女に男子の水着を着せたくなって来た。


 私は煩悩を六根清浄して、命理ちゃんに左隣を指し示す。


「あー、命理ちゃんや、隣においで」

「わかったわ」

「では、右隣はわたしですね」

「わたしじゃないか?」

「すみません、もう三個椅子を下さい」


 アリスとみずきの二人が椅子取りゲームを始める前に私は、妖精にお願いしておく。

 あと仲條さんが苦笑いしてるので、仲條さんの分も。


 結局6人で机を囲む形になる。

 というわけで、私と命理ちゃんは全品タダという歓待だった。

 ついでにアリスとみずき、仲條さん、アルカナくんもタダになった。

 この店で提供されているのは、妖精カレーと、妖精ポトフのスウプ。あと妖精のハチミツ緑茶。他の喫茶と被らないメニュー作りを心がけたらしい。


 ポトフの名前は変えさせた。


 ちなみに私は、女の子の妖精さんに肩と足を揉まれている。


 アルカナくんはもう食べれないという事なので、緑茶だけ頼んだ。

 他のメンバーの3品ずつを届けてくれた男の妖精さんに、アリスが尋ねる。


「しかし、男子まで写真集の際どい水着を着てるなんて徹底してますね」


 これに答えたのは、私の足を揉んでいる女子生徒の妖精。


「妖精の女王の御命令でございます」

「スウさん・・・・」


 アリスの若干、引き気味の視線が私に向いた。

 私は慌てて言い訳をする。


「――いやだって・・・・本気で色々妥協点を頼み込んでるのに全部却下するから、私、人間性を失ったんだもん!」


 私は黒田さんがいなかったら、人間性を失ったままだったかもしれない。――危ない所だった。

 なんなら、あのままだと闇の力に呑まれて、新たなる力に目覚めていたかもしれない。


 にしても・・・・肩揉みとかちょっと困るな、周りの普通のお客さんの視線が痛い。

 なんか、そういうサービスもあるのかって勘違いしてる人もいるし。


「あの、肩揉みと足揉みはもういいですから」

「妖精王のために、今日まで一生懸命練習したのです。御堪能下さい」

「ど、どうも」

「今日まで(合計一時間)」


 なんと返したら良いんですか、それは・・・・。


 私が返答に窮していると、スマホが揺れた。


「だれだろ・・・」

「涼姫に電話を掛けてくる人間がいたのか」


 みずきがカレーを食べながら呟く。あのカレー二杯目じゃないの? よくあんな小さな体に入るなあ。


「最近は、みずきとかも私のスマホに掛けてくるでしょ」

「憶えてないなあ」


 みずきが、わざとらしくしらばっくれる。


「マイルズだ。どうしたんだろう」

「お、男だと!?」


 コレに関しては、みずきがマジにビックリしてる。酷い。


 私はマイルズにスマホで尋ねた。


「どうしたの? マイルズ」

『ああスウ、頼みが有るんだが』

「マイルズから頼み? 珍しいね、なんだろ」

『アレックスの馬鹿がはしゃいで怪我をしてな。航空ショーのメンバーに欠員が出来てしまったんだ。学生のフェスティバルでアイツは何をしているんだ・・・・確かお前はパイロット免許を持っているんだろう? 地球の空も飛べるんだよな?』

「持ってるけど、なんで知ってるの・・・マイルズ、私のファンなの?」

『アリスとリッカが、スウがパイロット免許取って来たと、配信で自慢していたぞ』

「なんで、あの二人が自慢・・・?」


 どういう事なの?


『代役を頼めないか?』

「・・・いいけど」

『すまない。こんな事を頼めるのはお前しか居ない。パイロット免許云々以前にアレックスの欠員を埋められる人間なぞ、銀河ですらごく僅かだ』


 なんだかんだ、アレックスさんの実力は認めているんだなあ。

 ・・・・そうなると私も認められてる訳か。

 いや、普段からプッツン軌道とか言われてるけども――まって、褒めてないよね、これ。


「今から?」

『そろそろだ、頼む』

「じゃあ向かうね。どこに行けば良い?」

『屋上に頼む』

「はい」


 私が電話を切って、「ちょっくら行くところが出来ました」と言って立ち上がると、アリスが首を傾げた。


「どこへ行くんですか?」

「予定されてた航空ショーに欠員が出来たらしくて、代わりに私をって」

「えっ、もうすぐコンサートなんですが」

「アリスのコンサート!? ――そ、そうなの!? あ・・・・でも確かに、もう12時半だ」

「だけど、そうですね。バーサスフレームでの航空ショーの欠員――それもアレックスさんの代役なんて、涼姫にしか埋められないですね。流石にこの場にマリさんや、柏木さんがいるワケがありませんし」


 マリさんと柏木さんは多分、今日も銀河の果てで、お仕事です。

 アリスが暫く考える姿勢になって、考えを口にした。


「よし、では放送で私の歌を流してもらいましょう」

「そんな事出来るの・・・・?」

「戦闘機が飛ぶ中で歌うとか、まるで某アニメのアイドルみたいじゃないですか。一度やってみたいのでゴリ押します」

「・・・・ははは」


 アリスは前に私の倉庫のプラモを覗いた時は、あのアニメの存在を知らない様子だったけど――あの後観たと言っていた。

 というわけで、背後に美少年をはべらせながら屋上にやってくると、既にマイルズと香坂 遊真がいた。


「来たな、スウ」

「ふっ、涼姫と地球で翼を並べて飛べるとはな」


 そういえばユーとかいうこの人、初めて会った時ハングライダーとか言ってたっけなあ。


 私は注意しておく。

 

「ユーに本名バレちゃったのはもう仕方ないし、あんたは呼ばないでって言っても止めないだろうけど。絶対、私の本名をどこかの配信中とか、フェイレジェで言わないでよ?」

「そんなヘマはしない」

「まあ、貴方はそういう所はミスらない気はするけど」


 頭おかしいけど、ミスはしないんだよねこの人。


 マイルズは、そもそも私の本名を呼ばないようにしてくれてるし。


 私はマイルズに、人数が少ないことを尋ねる。


「3人だけ?」

「今回はそうだ」


 まあ、そうだよね。フェイレジェの戦闘機乗りは少ないから「編隊飛行なら4人じゃないの?」とかは、今はどうでもいいんだろうな。


「これが予定表だが、今からぶっつけ本番でいけるか?」


 私はマイルズに渡された紙に書かれたパフォーマンスの順番を、頭に入れる。


「うん、これならいけると思う」

「流石だ」


 マイルズが唇の端を上げて、私の目を見た。

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― 新着の感想 ―
更新お疲れ様です。 ぶっつけ本番なのに「これ(飛行プログラム)ならいけるよ」と言えるスウちゃんつよい(確信) それにアドリブ含め合わせるで有ろう二人…マイルズさんは言わずもがな、変態も間違いなく出来…
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