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271 命理ちゃんと合流します

 私が背後に美少年をはべらせながら、ゆったりした曲調になった『ツァラトゥストラはかく語りき』を聴きながら欠伸をして、来賓客に案内チラシを渡して展示の番をしていると、知り合いがやって来た。


「涼姫、来たわ」

「ふぁぁ――あっ、命理ちゃん!」

「涼姫、好きよ」

「うん――今日も告白ありがとう・・・・。――えっと、もうすぐ交代だから、展示でも見て行って」

「わかったわ――そういえば、さっきちょっと早く来すぎて、ここであぐらをかいていた男子生徒に会ったのだけれど」

「ああ、鷹森くん?」

「そう、鷹森って言うのね」

「彼がどうかしたの?」

「――分からないわ。どうして当機は、彼のことを尋ねたのかしら?」

「いや、命理ちゃんに分からない命理ちゃんの事は、私にはもっと分からないというか」

「正論パンチだわ」


 命理ちゃんが、首をかしげる。

 なにかその様子は、意味不明な絵画を観て、その絵画の題名を当てようとする――そんな仕草だった。


「どうかしたの?」


 私の疑問に命理ちゃんが、首を振る。


「少し分かったわ。微笑みが気になったのよ――なんだか、凄く優しく微笑まれて――なにか抱きしめられているような気分になったのよ。女の子をいきなり抱きしめるとか、あれはセクハラの視線だわ」

「た、鷹森くんが女の子に変な目線を送ってる所は観たことないなあ――」


 というかあの人、顔も内面もイケ面&イケメンタルだから、むしろ女子は彼に観られたらクラっと来ちゃう事が多い系男子だし。


「いや、あれはムッツリだわ。なにより私の光崩壊エンジンが、アイツはか弱い女子にも手加減しないオニチクだと言っている気がするわ」

「なにそれ、あはは。確かに鷹森くんって、ちょっとズケズケっと迫ってくる所あるけど」


 私が笑っていると、命理ちゃんが「とはいえ悪い気は、しなかったのだけれど」と言って、戦艦の奥の方へ歩き出した。

 

「じゃあ、時間まで全力で暇を握り潰してくるわ」

「・・・・握力凄いんだから、ほどほどにね」


 命理ちゃんが戦艦の奥へ向かった。

 そうして私がもう3匹ほどあくびを噛み殺すと、最後のあくび殺害現場にクラスメイトがやって来た。


「おーい、スウー!」

「木元くん、交代かな」

「そうそう、後は任せろ」


 木元くんは歯をキラーンとさせながら、席を交代する。


「鈴咲の温かさを、椅子から感じるぜ」

「何いってんだお? 鈴咲さんは、そういう事言われると脳が混乱するんだからやめるんだお?」


 アルカナくんが懐に手を入れている。止めよう! クラスメイトにナイフは止めよう!

 私はアルカナくんにステイを掛けながら、木元くんに苦笑い。


「――じゃ、じゃあ、後はよろしくね」

「おう! しっかりとこの努め、果たしきってみせる」

「そんな重い役目じゃないけどね」


 私は ふふふ と笑って、命理ちゃんを呼びに行った。


 命理ちゃんは、私のレポートの前に立っていた。

 自分のレポートを目の前で読まれると、ちょっと気恥ずかしい。


「お、おまたせ、命理ちゃん」

「楽しかったので、待ってはいないけれど。涼姫、このレポートにある機体の『量子化』という現象は、星団帝国時代にも無かった技術よ。いつの間にこんな物を、銀河連合は実用化したのかしら」

「あ・・・・それは」

「それに、この『螺旋力』というのはとんでもない力ね・・・・無限に成長して、やがては観測可能な宇宙よりも巨大なロボット機体になれるなんて――この力があれば・・・・」

「ごめん、その力は使えないよ命理ちゃん!」

「なぜ・・・?」

「それは『隔絶宇宙』の力がないと・・・・駄目な可能性があるの!」

「『隔絶宇宙』・・・先ずそれを探し出さないといいけないのね・・・」

「う、うん・・・・『アンチスパイラル』がいないと、多分見つけられないから・・・諦めて・・・」

「残念だわ。ところで、この『縮退炉』というのはもしかして光崩壊エンジンにも転用されている、ヒッグス場収束技術による――」

「そ、そこまでにしよう!」


 私は慌てて命理ちゃんの腕を引いた。


 誰だ、あんな紛らわしいレポート書いたの!


 嘘は書かれていないけど、レトリックを駆使して、とんでもなく紛らわしく書いてやがる! サイテーだな!


「で、でも涼姫のレポートは、とてつもない情報の宝庫なのだけれど・・・・」

「いや、ほとんど使えないのばっかだから! ――『縮退炉』辺りは銀河連合も持ってそうだけれど、ロボットを作る側じゃない私達が言っても詮無(せんな)きことだし!」

「それも、そうね」


 こうして、なんとか命理ちゃんを私のレポートから引きはがすのに成功。


 私は学祭の案内を開始するのだった。


「涼姫、美味しそうなものがいっぱいあるわ」

「そうそう、学校のみんなが丹精込めて作ってくれてるよ。何か食べたい? 奢るよ」

「今日は日本円を用意してきたから、大丈夫よ」

「遠慮しないでいいよ、私けっこう小金持ちだから」

「成金なのね」

「その言い方は、他人に言われるとけっこう傷つくよ」

「じゃあイカ焼きが食べたいわ。神奈川の海産物は美味だったし」

「りょ!」


 私達が露天に近づくと、店番をしている生徒が私に気づいた。


「おっスウじゃん」

「マジ? おおっスウだ!」

「は、はいスウです。えっと、イカ焼き3つ貰えますか?」


 私とアルカナくんの分も買う。私とアルカナくんはもう色々大分食べたけど、命理ちゃんだけ食べさせると遠慮しちゃう子だし。

 高校生は食欲旺盛なんで大丈夫。

 アルカナくんは、お腹の具合がちょっと心配だけど。


「スウのお陰で来賓多くて大繁盛だし、サービスに1本ずつおまけしとくよ」

「食材も、なんか尽きること無く入ってくるしなあ――ああ、イカは神奈川のだぜ」


 私と命理ちゃんの会話が聞こえていたのか、イカはここ原産だと教えてくれた。

 でも戦艦で料理を作ってる組は、無尽蔵に食料が手に入っちゃうもんね。特に、タンパク系は凄くよく出来てる。

 ちなみに食料はカートリッジを元に作られるんだけど、今回の食料カートリッジは最高級品で、クナウティアさんプレゼンツ。

 私の懐が一切傷まない上に、極上品の素敵仕様。


「じゃあ、貰っちゃおうかな。命理ちゃん、アルカナくん、二本食べる?」


 私が尋ねると、命理ちゃんが首を傾げる。


「味によるわ」


 命理ちゃんの正直すぎる言葉に、店番の男子が笑った。


「ははは! 秘伝のタレを喰らいやがれ!」

「申し訳ありません、涼姫様。わたくしはそろそろ満腹ぽいです。一本が限界かと思います」


 そっか、流石に食べ歩きに喫茶店でオムライス食べてデザート食べてだもんね。アルカナくんの歳だと、満腹でそろそろ眠くなってくるまである。


「じゃあサービスは、二本でお願いします」


 こうして、私と命理ちゃんは両手にイカ焼きを持って歩きだす。

 一口食べた命理ちゃんが、イカ焼き露天を振り返って声を張る。


「美味しいわー」

「そりゃ良かった!」


 爽やかに笑う店員の男子でした。

 その後はジュースを飲んだり、くじ引きで命理ちゃんが喫茶フェアリーテイルの歓待券を手に入れたり。


「って、喫茶フェアリーテイルの歓待券・・・・? ――どうしても、行けって事か・・・・」

「どうしたの、涼姫。顔が絶望に染まっているわ」

「今、神の作為を感じたところ」

「せっかくだし行きたいわ」

「そうだね、命理ちゃんとなら良いかな。みずきとかアリスと一緒だと、みずきは心を挫く様な事言いそうだし、アリスはまたなんかドSを発揮しそうだから絶対一緒に行くの嫌だったけど」


 こうして私達は2-5に向かったんだけど。


「なんでいるの・・・」


 窓の外から見えた、チビ&金髪。あと仲條さんもいる。


「命理ちゃん、一旦引き返え――」

「あ、アリスとみずきだわ」


 命理ちゃんが言って、絶望を呼び込んだ。


「あら、命理ちゃん来てたんですね」

「おっ、命理だ」


 言われて命理ちゃんが振り返る。


「涼姫もいるわ」


 命理ちゃんが、逃げようとしていた私のスカートを引っ張って引き寄せる。

 命理ちゃんのバーサスフレームみたいな力に逆らえず、私は危険人物二人の視界に連行された。


「命理ちゃん離して! 奴らは――奴らだけは駄目だから! ――あと、見える! 見せちゃいけない布が、人様の目を汚すから!」

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