267 お料理を手伝います
クナウティアさん効果で、来賓客が多いんだよねえ。
ちなみに爽波高校が、私やアリスの学校だとは来賓にはバレていない。
ただ、近くの学校の人とか一部知っている人が来ては居るみたい。
3組の教室の外を見れば、長蛇の列。
「ほんとうに一式 アリスが居る」「噂を訊いて来てよかった」とかささやき声が聞こえる。
ちなみにこの文化祭での撮影は、絶対に禁止になっている。
親御さんでも撮影したらデータ没収の上に即退場――その代わり、先生たちが作った、撮影をしていい「撮影エリア」がテニスコートに用意されている。
私とアリスは「近寄っちゃ駄目って」先生に注意されているという、完全に私とアリスだけの為に決められたルールとエリア。
先生方、至れり尽くせりほんと有難うございます
「どこで調理してるの?」
「涼姫のクラスの教室をお借りしてます。あと戦艦の方でも調理してますが――ただ、戦艦の方は手が足りてるみたいなので、涼姫のクラスの教室をお願いできますか?」
「りょ」
「みずきも良いですか?」
「切るくらいしか出来ないぞー?」
「野菜をお願いします」
私はアルカナくんにも「良かったら」と頼む。
彼の仕事は私の護衛なので、無理強いすべきではない。
でも、「お手伝いできることが有れば」と答えてくれた。
私とみずき、アルカナくんは3組の教室を出て、厨房と化した1組に入る。
「3組のアリスから言われて助っ人に来ました」
「あ、スウさん!」
「スウさんだ! お願いできますか!?」
「わたしもきたぞー、野菜切るしか出来ないけど」
「おお、クレイジーギークスのリッカさんだ。これは心強い」
「わたくしにも出来る事が有ればなにか」
「なんか執事服着たオーラある小学生も来た」
クレイジーギークスの名前も伝わってるのか・・・・まあそうか。
とりあえず私は、気にしないふりをして腕まくりをしつつ、空いてる2つのコンロの前に立つ。
「んじゃ、卵焼きますねオムレツ風のを乗せて切るタイプでいいですか。そっちの方が焼く時間短いと思いますんで」
「出来ますか? それ、出来る人が少なくて」
「まかせてください」
私は2つのコンロの前に立って、〖念動力〗でボールとハンドミキサーを取って机に置くと、卵も〖念動力〗で引き寄せて割ってボールに入れる。
「え、ちょ―――ちょ、調理器具が勝手に動いてる!?」
みずきがジト目で私を視る。
「涼姫が、また奇行を開始した」
「これは奇行っていわないで!?」
私がみずきの言いざまに返していると、アルカナくんが「わたくしが卵を、溶きます」と言ったので、任せる事にした。私は驚いている男子生徒に返す。
「ね、〖念動力〗っていう超能力スキルです」
「ちょ・・・・超能力ですか・・・・プレイヤーの人は本当にヤバイですね」
するとみずきが首をふる。
「コレのヤバさは、他と次元が違う」
「コレ呼び」
私はモタモタするのは悪いので、早速調理開始。
アルカナくんが溶いてくれた卵をフライパンに入れて、手でフライパンを動かして卵を巻いてオムレツを作る。
同時に、もう一方のコンロでは〖念動力〗でフライパンを振ってチキンライスを作る。
〖味変化〗を使うのは、なんか違う気がするからやめとこ。
チキンライスに、プレーンオムレツを乗せれば、
「一個目、出来ました。オムレツの切れ目は、向こうで入れるんですよね?」
「―――は、早すぎ!」
「2つの作業を同時にやってるから、そりゃ早い訳だけど・・・」
「って、リッカさんも早い!!」
みずきが、まな板の上で人参、玉ねぎ、ピーマンを猛然と切っていく。
手の動きが殆ど見えない。アニメに出てくる料理の達人みたいな切り方をしてる。
瞬く間に、ボールに山盛りの野菜のみじん切りが積み重なっていく。
あれは、私には出来ない芸当だ。
リッカが、シンクの方で作業している女の子を振り返った。
「野菜を洗って皮剥いてくれたら全部切るから、置いてって」
3組の調理班が、急いで野菜を洗って皮を剥いていく。
私も作業再開。
既に火を通してあるチキンと、切られた野菜をフライパンに投入。
味付けしたライスに混ぜてチキンライスを作る。
同時にオムレツを巻く。
「はい、2皿目できました。持って行って下さい」
「い、異次元の疾さじゃん。・・・・は、はい!」
執事風の格好をした男子生徒(アルカナくんではない)が食品をお皿に盛り付け、ラップを巻いて慌ただしく出ていく。
食材を入れたダンボールが一箱、二箱と消えて行く。
すると着ぐるみの男子が、駆け込んできた。
「あのっ、どうなってるんですか!? オムライスが美味しすぎて、お客さんが追加注文しちゃうんですけど!? 誰が作ってるんですか!! お客さんがさばけるどころか、増えちゃって! ――って、スウさん!? スウさんが作ってるんですか!?」
「え、マジ? 増えてるんですか?」
私が返すと、思わずと言った感じで着ぐるみの男子が叫ぶ。
「アンタ、ほんとなんでも出来るな! ――じゃなくて・・・・ちょっと味を落として下さい! さっき味見したんですが、あんなの学祭で出して良いレベルじゃないですよ!」
みずきが、私をジト目で見る。
「――涼姫の料理は、阿呆みたいに美味しいからな。アリス曰くほっぺたが落ちるらしい」
「いや、みずきの食材の切り口もヤバイんだけど」
私が、みずきが切った〝自分が切られた事に気づいていなさそうな人参〟を欠片2つ持って合わせると、見事にくっついた。まあ引っ張ったら外れるけど。
するとアルカナくんが項垂れた。
「わたくしだけ普通で、不甲斐なく存じます」
「いや、普通でいいんだよ! これ以上美味しくしないで!?」
着ぐるみ男子生徒が、アルカナくんにツッコミを入れていた。
苦笑いのアリスが教室にやってくる。
「涼姫とみずきに頼んだわたしが馬鹿でした・・・すみません、味を落としてもらえますか?」
「味を落とせと言われても、難しいなあ・・・」
私は、チキンライスの材料を入れる順番を変えたりして対応した。
みずきは体に染み付いちゃった技だから、どうにもならなかった。
でも難しいのでお客さんが減った辺りからは、私も普通に作った。
やがて、食材が尽きた。
「お客をなんとかさばけました。ありがとうございます!」
「また材料を買ってきて、続けます!」
私とみずきが、一応尋ねる。
「もう大丈夫ですか?」
「大丈夫か?」
「はい、助かりました! 学祭、楽しんできて下さい!」
私はこういうハプニングも、学際ならではで楽しいので、素直にその気持ちを伝える。
「いえいえ。メイド喫茶とかもやってみたかったから、楽しかったです」
まあメイド服を見る側が良いんだけど。
私はひっそりと、裏で料理する派。
なんて思っていた私は、口は災いの元という言葉をすっかり忘れていた。
「あれ? 鈴咲さんも接客やってみたいの?」
1-3の女の子が勘違いした。
「え? ・・・・接きゃ――いやっ、ちがくて!」
見る側、見る側! ――料理する側!
私なんかが魔法少女の格好したら、それはもう視覚的破壊しか撒き散らさない。
白い魔王が放つ『スターライトブレイカー』みたいに大変な事になる!
なのに女の子が、私の腕を引っ張りだす。
「じゃあ、やってみようよ!」
「いや、ちょ、君、少し頭冷やそうか!」
「更衣室はこっちだよ!」
「――いいえいいえいいえ!!」
私は選択肢「いいえ」を連呼するけど女の子に連行される。
執事風の男子が、首を傾げた。
「魔法少女の服、余ってたっけ? コスプレサービス用のを使っちゃうのは不味いよな」
「ほ、ほら君! 衣装がないから無理だって!」
「私のが有るよ。体格も同じくらい!」
私は、天を仰いで咽いだ。
「な・・・なんだこの偶然、神の仕組みし罠か!?」
運命の悪戯により、私は魔法少女の格好に変身させられるのだった。




