266 魔法少女喫茶に行きます
流石の一式 アリスで、男性客から女性客までどんどん彼女の美貌に釣られていく。
もはや入れ食い。
ちなみにアリスの格好は、不思議の国でも探検しそうな姿を魔法少女チックにした感じだった。
ふと、私に気づいたアリスが駆け寄ってくる。
「涼姫にみずき! 二人も魔法少女喫茶どうですか!? 今なら必殺技を叫んで敵を倒せるサービスとか、コスプレで魔法少女に変身できるサービスもやってますよ!」
「どっちも断じてお断りだけど、アリスのお店は行ってみたい」
「そうですか――じゃあ、邪悪なマスコットを殴り放題はどうですか?」
「えらくバイオレンスなお店をやってるんだね」
「とにかく案内しますね」
「うんうん」
私とリッカがアリスに連れられ、3組に行くと一斉にフリル一杯の衣装の女の子たちが迎えてくれた。
男子はマスコットのきぐるみとか、執事っぽい格好の人もいる。
あと、勘の良い錬金術師みたいな格好の人もいる。
片腕が鋼っぽくて、芸が細かい。
あと、身長が低くて芸が細かい。
言ったら殴られそうな粗暴な目つきも、芸が細かい。
一部、男子も魔法少女の格好もしている。
凄く似合っている、可愛い。いっぱいナデナデしてあげたい。
1日中愛でても幸せを維持できる位には可愛い。
私は彼に、粘着く視線を送っておいた。
ちなみに男子生徒のマスコットは邪悪じゃない方らしく、殴られてはいない。
「ようこそ契約者様!」
「契約者様3名入りまーす!」
お客さんは、契約者って呼ばれるのかあ。
私とみずきは、アリスに日当たりの良い席に案内されメニューを渡される。
「こちら、イェンジク スタレゴ グリモリアになります。ご注文を詠唱下さい」
重厚な造りのメニューが渡された。
古臭い感じに塗られ、分厚い紙でできたそれは、端に豪華な金属飾りまで付いていた。
「こんな金具、どこで手に入れるの」
「ネット通販に、普通に売ってましたよ」
「現代社会、凄いなあ――」
私はメニューをざっと視る。
といっても一般学生の学祭だしメニューが沢山用意できるわけもなく、メニューは3種類。
オムライス、ケーキ、紅茶。
「――じゃあ私とアルカナくんに――・・・・オムライスは・・・・オメレテ ジ アホーズと、紅茶・・・・シャ ヴェルメーリョ。これ何語?」
「スウさんが大統領と仲良くなっていた、ポルトガルの言葉です」
「・・・どんな理由で決めてんの」
ポルトガル語は義務教育じゃないので意味わからないけど、写真付きなので何となく分かる。
ただ、せっかく重厚な装丁でしっかりしてるのに、誰かの趣味かラメで写真がデコられてたりしてて、ちょっと詰めが甘い。
このあたりは女子高生だなあ。
「どうですか、わたしがラメで飾ったんですよ。キラキラして魔法っぽくないですか?」
「そ、そっか・・・」
私の歯切れの悪い返事に「?」を頭の上に出した人が、首を傾げている。
みずきがメニューとにらめっこを終えて、注文する。
「ケーキと、紅茶!」
「ケーキと、紅茶をそのまま注文するなんて――まさか・・・・詠唱破棄ですって!?」
アリスが、ガラスで出来た仮面が壊れるのを目撃したかのような表情で、アゴを隠しながら「ガァン」と言った。
ああ、メニューの言葉を読まないのは詠唱破棄と呼ばれるのか。
私も、あっちが良かったなあ。
――よし。
「私も、ケーキを2人分追加注文したい!」
「こちらの契約者様も、詠唱破棄を!? ――しかも800円代の詠唱破棄の上に、二重詠唱!?」
「なにこれ、めちゃくちゃ楽しい」
「楽しんでもらえて光栄です」
アリスは微笑んでから、カウンターに向かった。
やがて持ってこられる紅茶とオムライスとケーキ。
ケーキまでちゃんと手作り、衣装も作ったはずなのに偉いなあ。
「じゃあ涼姫、魔法の力でオムライスを美味しくしますね?」
「うんうん、やってやって!」
アリスみたいな美人に〝あいこめ〟して貰えるなんて私は、果報者だよ。
リッカとアルカナくんにも別の魔法少女が寄ってきて、あいこめの準備を始める。
私達の周囲が、若干ハーレムみたい。
でも魔法少女かあ。どんな事言うんだろう。
「もえもえキュンキュン。ふわふわ――」
ああ、普通にメイド喫茶風なんだ?
「――トロトロしあわせハートで。大地母神ヨルミルよ、その慈悲で我らが聖餐に恩寵あれ。今ここに立ち戻り、その愛を示されよ。――愛は悉皆者皆ゆき亘り――。我は真の愛により、ただ静かに、ここに福音をもたらそう――」
私は思わず耳を疑った。
「な、なんか急に雰囲気変わった!?」
アリスが胸の前に手でハートを作る――いや、ハートを構えた。
「即ち! ――おいしくな~れ、萌え萌えキュン♥」
「即った!?」
私はこのオムライス食べて大丈夫か? という疑惑の目で、聖餐と化したらしい物を見詰めた。
みずきも ぽかーん とした表情を、自分の聖餐にあいこめしてくれた女子生徒に向けている。
アルカナくんはよく分からないみたいで、静かに執事よろしく立っている。
いや、座って? 君の分も有るんだから。
あと今の魔法少女ではなく、魔法使いですよね?
―― いや、大地母神の力だからプリースト?
「はい、これで美味しくなりました」
私はおずおずと手を挙げて質問を述べる。
「アリス。誰なの、その特殊な〝あいこめ〟考えたの」
「あいこめ?」
「・・・・い、今の詠唱」
「先生です」
「せんせぇ・・・・」
とりあえず食べようかな。
恐る恐る、聖餐を口に運ぶ。
ん、ちゃんと美味しい。
アリスの愛情が籠もっている気がする。
その後、アルカナくんも座らせて、一緒にアリスの愛情の籠もった料理を食べました。
アリスが私達が食事している机に頬杖をついて、話しかけてくる。
「そういえば、涼姫の研究レポート読みました」
「よ・・・・読んだんだ?」
ちなみに私のクラス1-1は、戦艦マザーグースの中にレポートを展示している。
マザーグースは、学校の前の相模湾に浮いている。
現在、学校の前の海は影で真っ暗。
なのでサーファーの方の邪魔になるかと思ったら、むしろマザーグースの重力装置が産み出す波が丁度いいらしく、サーフィンはむしろ盛況。
というわけで1-1の教室は、料理を作るクラスの厨房として明け渡した。
今回、手作りの食品を出してるお店が多くて、調理実習室だけじゃ足りなくなっちゃったんだよね。
実は、戦艦内でも一部のクラスが調理を行ってます。
あの戦艦、合成食料ならほぼ無尽蔵に生み出せるみたい。
――無から生み出す訳ではないんだけど、食料カートリッジから色んな物が作れる。
「はい。でもあのレポートは、フェイレジェの研究レポートじゃなくて、ロボットアニメの研究レポートというのですよ」
「先生にバレなきゃ良いんだよ、バレなきゃ・・・」
「流石にバレてると思いますけれど」
「だって私、みんなの案内で時間なかったんだもん!」
「どうせ訓練VRで書いたんでしょう?」
「『勘のいい魔法少女は嫌いだよ』」
私がすべてを見透かされていると、アリスがポンと手のひらを叩いた。
「あ、そうだ。私、13時頃に体育館の舞台で歌うんですよ」
「え―――ほんと!?」
カッコイイ! 人前に出るのが苦手な私には、人前で歌うなんて絶対無理だ。
「はい、軽音部に誘われて。私は歌手もやってるんで、是非にって。――涼姫とみずきとアルカナ君は来てくれますか?」
「うんうん!」「いくぞー」「お誘いをいただけて、光栄です」
「良かったです。わたしの作詞した〝スウさんへ捧ぐ謳〟が無駄にならないです」
「え、えー?」
ま、またトンデモな歌を作ってくれたなあ・・・この人。
その後アリスが接客を再開したので、私とみずきは卵味の効いたパウンドケーキに舌鼓を打った。
しばらくして一旦カウンターの向こうに入ったアリスが出てくると、表情を困った感じにしていた。
困った顔のアリスが、私に寄ってくる。
「あの、涼姫」
「どうしたの?」
「わたしがちょっとお客さんを連れて来すぎちゃったみたいで、厨房の手が足りなくなっちゃったみたいでして」
「あ~」
「涼姫は、お料理上手ですよね・・・」
「いいよ、任せて!」
「ありがとうございます!」
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そのうち、キャラの人気投票とかしていいでしょうか。
どのキャラを優先して登場させるか、サブストーリーを書けばいいのか知りたくて。




