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263 ガチャを引きます

 さて、私が真の姿を現した日の放課後。うちのクラスのプレイヤーが全ての初心者クエストをクリアして、黒田さんが念願のエアロアローをゲットした。


「やった、有難うな! スズっち!」


 え、なにスウじゃなくて、スズっちって呼んでくれるの?


 嬉しさのあまり、私の心に、人間性が蘇っていく・・・!?

 しかし人間性を取り戻した事で、「エアロアローはプレイヤー間で、エロと略されているんだよ」と明かせない自分に辛くなる。

 しかもエロ――じゃなかった、エアロアローのモデルになった陸上選手は女性らしく、エアロアローは実に艶めかしい見た目をしているんだ。


 言うべきか・・・言わざるべきか・・・。


 黒田さんがエロ――じゃなかった、エアロアローの横に立つ。

 そうして彼女はエアロアローの足を手のひらで叩いて、腕を組んだ。


「よし、お前は今日からアロアロだ!」


 なんて愛らしい呼び名を付けるんだ!

 みんながエロって呼んでるって、言うべきか! ・・・言わざるべきかっ!


「・・・・・・・・」


 よし、言おう。弁償できる位の勲功ポイントは有る。


「く、黒田さん・・・実はね――」


 言いかけた時、後から知ってる声がした。


『スウ様』


 振り返れば、クナウティアさんだった。


「ク、クナウティアさん!?」

「その人は、誰だ? スズっち」


 黒田さんが私に尋ねてきた。


「えっと連合の偉い人っていうか、司令官というか」

「あ、思い出した! 熊狩総理と握手してた人!」

『はい、クナウティアと申します』

「――え、なんでそんな人が来てるの!?」

『スウさんは大事な大使ですから。様々な活躍をしていただいていますし――アインスタですし』

「あの――その、アインスタというのは?」


 クナウティアさんに、微笑まれた。

 そして頭を下げられる。


『先日の初心者クエストの折は、申し訳ありませんでした。あの様な事故が無いように対策が取られていたのですが――』


 私のアインスタへの疑問は、今回も無視されるようです。


『――ミュータントが生まれた場合、恒星近くのゲートへ強制転送する筈だったんです。しかしなぜかシステムの一部が誤作動しており、あの様な危険な状態となりました。現在原因究明中です』

「あれは流石に、危ないですね」

『はい。スウさんが現場にいてくれて、本当に幸運でした』

「あ、そうだ。いただいた詫び石というのはなんなんですか?」


 私は時空倉庫から、「詫」と書かれた白くて真ん丸な石を一つ取り出す。


「俺も3つ貰ったぞ? なんだこれ」


 黒田さんもパーカーのポケットから、詫び石をジャラっと取り出す。

 ちなみに黒田さんの格好は前を開いたパーカーに、ヘソ出しスパッツだ。健康的で、実にけしからん。もっとやれ。


 黒田さんは、パイロットスーツを着ても肉体美が凄くて、健康的で実にけしからん。もっとやれ。


『その詫び石を使えば、近頃実装された〝ガチャ〟を引けます』

「え、ガチャできたんですか!?」

『はい、引いてみますか?』

「ぜひ、お願いします!」

『では、こちらです』


 クナウティアさんが歩きだすと、黒田さんが初心者クエストをクリアしてジュースなどで一服していたクラスメイトの方を振り返って手を振った。


「おーい、ガチャってのが引けるらしいぞー! 詫び石もって集合なー!」


 一服していたクラスメイトが「ん?」という感じでこっちを見た。

 それぞれ立ち上がり、歩いてくる。鞄とかに詫び石を取りに行っている人もいる。

 にしても、茶道部の御子柴さんのお茶の飲み方が見事すぎる。お茶を飲んでいるだけなのに、なにかの奥義を感じる。


 クナウティアさんは、静かに待ってくれている。


 やがてみんなが集合すると、クナウティアさんは「あらためて、こちらです」と言って、楚々と歩き出した。


 正規兵の人とか職員の人とかが、クナウティアさんを視るたび敬礼やらをしている。

 その度にクナウティアさんは微笑んでお辞儀を返していた。

 文人敬礼とかを返すわけではないらしい。

 ――にしても流石の貫禄。


 案内された場所には、まさにガチャがあった。

 ただし見上げるほど巨大な。


 私達の前に現れた『それは、ガチャと云うにはあまりにも大きすぎた。大きく、分厚く、重く、そして大雑把すぎた。それはまさにビルだった』


 巨大な四角いケースに丸い球が入っていて、中では膝を抱えたバーサスフレームとかが入っている。


「こ、これは」


 私の喉から引き気味の声が出た。


『ガチャです』

「確かにガチャですけど・・・・――サイズ感どうした」

『流石に空母や戦艦は入りませんでした。でも当たりますよ?』

「マジですか」

「うおー! スゲー!」


 黒田さんが目を輝かせて、子供みたいにはしゃいでいる。

 ピョンピョン飛び跳ねてから、自動販売機みたいな機械に駆け寄った。


「これで引くのか!?」

『はい。詫び石1個か、ガチャチケット10枚、または勲功ポイント30万で引けます』


 クナウティアさんの丁寧な頷きに黒田さんはポケットから詫び石を取り出して、投入口に一個放り込む。


 勲功ポイント30万は高いなあ、勲功ポイントで引くのはあんまり現実的じゃなさそう。

 でもバーサスフレームどころか、空母や戦艦が当たるならそういう値段設定にもなるかあ。

 戦艦はフェアリーさんと同じ様な値段するし。いや、戦闘機一機が巨大戦艦と同じ値段ってのがおかしいんだけど。


「なんか良いの当たれー!」


 黒田さんがレバーを廻すと ドゴォン という轟音と、地面から突き上げるような振動が伝わってきた。


「クナウティアさん・・・大丈夫なんですかこれ・・・」

『はい、強度は考えられています』


 音と振動とは鳴り止まず、中のカプセルが動き続ける。


 最早ちょっとした兵器だよ、これ。

 やがて、黒田さんの左の透明な部屋にカプセルが転がって来た。

 そうしてクレーンみたいなアームが動いたかと思うと、カプセルが開かれる。


 自動販売機みたいな機械が、何が当たったか知らせる。


『回復薬一年分が当たりました!』


 あんま、大したことないのも入ってるんだなあ。

 いや、良いものなんだけど30億円の価値はない。

 とっても良い回復薬でも1個が10000円くらいだから、365個でも365万円くらい。――物品自体は、十分価値はあるんだけども。


「回復薬ってなんだー?」


 黒田さんが私に尋ねて来た。


「傷が、凄くよく治る薬だよ」

「やった!」


 私が言うと、黒田さんが拳を握って喜ぶ。


 運動部は怪我が多そうだし、黒田さんには役に立つかあ。

 にしても素直で可愛い。


 お姉さんが回復薬10年分、買ってあげようか?

 などと心の中で、同い年の黒田さんにのたまう私だった。


「次は何が当たるんだー!?」


 言いながら、黒田さんが詫び石を投入。レバーを廻す。

 次に当たったのは。


『パイロットスーツ S‐32 ナイトハートが手に入りました!』


 連合のパイロットスーツかあ。

 1000万円くらいから1億円くらいの価値があるんだよなあ。

 ちなみにアリスウツが1000万クレジットだって知った時は「アリスなにやってんの!?」ってなったよ。


 ただ、勲功ポイントでパイロットスーツを買ったら5万ポイントとか、高くても10万とかだし。

 これも30万ポイントの価値はないなあ。


「おー、カッコイイ!」


 黒田さんが出てきたスーツを広げて掲げる。

 でも、黒田さんに似合いそうな見た目のスーツだ。

 特に、おヘソが見えるのが。


「最後はなんだー!?」


 黒田さんがワクワクしながら、レバーを回す。

 音と振動が伝わってきて。


『フライトユニット ライトニングサンダーボルトが当たりました!』


 ライトニングサンダーボルト・・・・そんなに電気を強調しないでも。――しかし、これは良いかもしれない。

 特に黒田さんの機体、エアロアローには飛行形態がないし。


 エアロアローは飛べないことはないけど、苦手なはず。


 人型メカの背中に付ける翼みたいなユニットが出現して、アームで格納庫の方に送られていった。


『巨大な賞品の受け取りは、格納庫でよろしくお願いします』

「スズっち、今のはなんだー?」

「エアロアローを早く飛べるようにするパーツだよ」

「アロアロ強くなるのか! 嬉しいぞ!」


 価値的にも60万勲功ポイントくらいするパーツだし、当たりだね。


 その後、他のクラスメイト達も引いていく。

 その中でいい感じの物を引き当てたのは、


 例えば十十くん。バーサスフレーム用の超強い拳銃。


 チグ。〈時空倉庫の鍵〉。これは私があげてよかったんだけど、自分で手に入れちゃった。


 茅野くん。ステータスアップ〈筋力アップ・大〉。


 本郷くん。印石〈磁力操作〉。


 御子柴さん。空母ワンダーコール。


「おー空母じゃん!」

「御子チバすげぇ!」

「俺たちのクラスで運用できるかな?」


 そんで私の番。


「10回かあ」


 いっぱい引ける、こんだけ引けたら良いもの出るかな?

 その結果。


『回復薬、半年分!』

『弾薬補給券、10回分!』

『パイロットスーツ ホワイトベリー!』

『エネルギー補給券、10回分!』

『等身大クナウティア人形!』


「なかなかひどい」


 私が呆然とつぶやくと、クナウティアさんがうなだれた。


『等身大クナウティア人形、駄目ですか・・・? レアアイテムなのですが・・・』

「いえっ! そうではなくて!」


 人形は可愛いんだけども!

 私は手に入れたクナウティア人形を抱きしめて、頬ずりする。

 するとクナウティアさんが、頬を赤らめて両手で挟んで俯いた。プライスレス。


 残り5回か。

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>本郷くん。印石〈磁力操作〉。 印石の生産って連合できたっけ? それとも取得者の白紙化か?
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