262 フフフます
次の日の教室は、フェイレジェの話題で持ちきりだった。
ハイレーンの観光は結構楽しかったみたいで「クラーケンのたこ焼きが美味しかった」などと盛り上がっていた。
そして、私の戦いを佐藤さんが話してたりして。
「すごかったんだよ、こーんな大きな巨人を、」
佐藤さんはピョンピョン飛び跳ねながら、手を平泳ぎみたいに動かして頭上に山を作る。
背が低いから、子供みたいで可愛い。
佐藤さんはやがて、円盤投げの前のポージングみたいな姿勢になって、左腕を力こぶを作るみたいな形にして、動かして上下させた。
「鈴咲さんが、ぼこーんって殴ったら。敵が浮いたんだよ!」
「へぇ、大人の男性くらいの敵?」
「ちがうちがう、もっともっと大きい!」
「天井くらい?」
「もっともっと!」
「サトちゃんの話は、大げさだからなあ」
佐藤さんの友達が笑う。そしたら佐藤さんがちょっとムキになって、窓際に行って上の方を指差す。
「あれ! グラウンドから校舎の3階の上まで届くような!」
「あはは、大げさすぎ」
「ホントだもん!」
荒唐無稽すぎて、相手にされてない。ちょっと可哀想。
でも話を近くで聞いた、昔私に詰め寄ってきた3人がちょっと青ざめてる。
私の方をチラチラ視て怯えている。いや、なんにもしない! 恨んですら居ないし。
私が3人を安心させるように、ニコって微笑みかけると、急に3人が震えだした。
え、なんで。
まさか、余裕の笑みの「お前ら、分かってるよな?」って感じに視えたりしたの!?
違うから! 超有友好的な笑顔だから! ああっ、私、笑顔が下手だったわ!
3人を怯えさせた次の日。
つまり文化祭の準備が始まって2日目。
授業も朝の2時間で終わって、本格的に文化祭の準備開始。
いよいよ学校は文化祭の空気に呑まれ、お祭り一色で面白い。
黒く塗られた大量のダンボールが山積みにされていたり、カラフルにデコレーションされた椅子が並んでいたり。
紙でできた巨大な魚が、生徒数人の手で廊下を泳いで行ったり。
風船を持ったピエロが、慌ただしく指示を出していたり。
魔法使いに、魔法少女――あれはアリスのクラスかな?
「ふふふ、みんな楽しそう」
みんなの楽しそうな顔を見ていると、私も楽しい。
他にも、お化けの格好した男子が廊下を走っていたり、妖精の格好をした女の子が走――妖精!?
(ままま、待って。よ、妖精!? い、今たしかに妖精がいなかった!?)
階段を上がった妖精らしき格好をした人物の後を〖超怪力〗で跳躍して追いかけると、妖精らしき格好した人物は、どこかの教室に入った。
「背後から、今なんか通った?」とか声がするけど、それどころではない。
妖精らしき格好をした人物が入った教室に駆け寄ると、2-5・・・・上級生だ。
しかもなんか教室の中に大きな看板があって、美しいレタリングで「妖精喫茶 フェアリーテイル」とか書いて――・・・。
私は目を見開き、大声で叫んだ。
「ちょ・・・ちょっとぉッ!?」
私が思わず出した、大きな声で件の上級生のクラスの生徒たちが一斉に廊下の方を向いて「やべ」って顔をした。
私は、涙目で尋ねる。
「なん・・・で?」
一斉に目をそらされた。
「な、なん―――で・・・・こんな、酷いことするんですかぁ・・・・!?」
私の怯え方が尋常じゃないので、上級生の男子生徒が気まずそうに窓に寄ってきて頬を掻いた。
「いや、儲かるかなって・・・てか、あれ? 話、行ってない?」
私は廊下に、四つん這いでへたり込む。
「ううぅ、しらないです、初耳で初見ですぅ」
「え、ごめん。マジ初耳?」
私は、彼を見上げて、懇願を開始。
「どうかお願いします! この様な戮辱的で猟奇的な公開処刑は、即刻終了して下さいぃ・・・!」
「言い回しが独特だなこの人。いやでも、止めるのは無理。衣装も準備しちゃったし」
「羞恥心が、致死量ぉ」
すると他の男子生徒も、窓に歩いてきた。
「ごめん、一年の鈴咲さんだよね? 俺等のクラス、スウさんのファン多くて・・・・」
彼は、振り返って怒る。
「・・・・木下、だから言っただろう本人に許可取れって!」
「いや、正岡が許可取ったって言ってたし。おい、正岡! お前許可取ってなかったのかよ!」
「ワ、ワリィ・・・俺が話しかけようとすると、スウさん怯えて逃げるんだもん。だから当日までになんとかって思ってた」
「スウって呼ばないでくださいぃ」
緑のネクタイを締めた上級生の男子なんて近寄ってきたら、そりゃ一年生は怖くて逃げますよ。
いや、普通は逃げないかもだけど。
私の啜り泣きに困惑しだす2-5の上級生たち。
すると、2-5の女子生徒が廊下に出てきて、私に駆け寄ってしゃがんで手を合わせた。
「本当にごめん鈴咲ちゃん、もう当日は鈴咲ちゃんに滅茶苦茶サービスさせて貰うから、ね!」
「妖精だらけのお店なんて入店できないですぅ!」
別の女の子の上級生も、駆け寄ってくる。
「なんなら、うちの男子、どうしてくれても良いから。なにしても良いから!」
「女子、お前ら!?」
「うっさい黙れ! お前らを犠牲にして鈴咲ちゃんが救われるなら、安い物だろう! 男子が許可取り忘れたのが悪いんだし」
「十把一絡げ止めろ!」
私はしゃがんでいる女子上級生の肩にすがりつく。
「じゃ、じゃあせめて! フェアリーテイルっていうお店の名前を止めてください!」
「それは無理、ごめん。妖精でやる意味なくなるし」
「うぁあああ」
スン っとした表情で返された。頑固な人だった。
私は心臓を拳銃で撃たれたかのように胸を押さえて、上を向いて咽いだ。
正面の上級生の女の子が、召され掛かっている私を拝んでくる。
「どうかこの店を、許可してくれない?」
「・・・・・・ぁうぁう――」
私は願いが何も通らないので、この世界の残酷さを思い知り、自分の目から希望とともに光も消えるのを感じた。
昇天しかけていたのが、陰として現世に堕天してくる。
「――・・・・分かりました。どうしても止めてくれないんでしたら、私の趣味に付き合ってもらいます」
「え、鈴咲ちゃんの趣味って・・・?」
私は、深淵を吐き出すように口を開いた。
「男子も妖精の格好してください」
私の吐き出した禍々しい言葉に、2-5の男子たちが一斉に呻いた。
「「「う゛え゛?」」」
「あはははははははは!」
「いいじゃん。それ面白い!」
2-5の女子上級生がお腹を抱えて笑うけど、私のターンはまだ終わっていない。
「そして女子も男子も妖精の水着を、私の写真集と同じにしてください」
2-5の上級生、全員が凍った。
「それなら赦します・・・」
私は、宇宙の深い深い闇をたたえるような瞳を、しゃがみ込んでいる女の子の上級生に向けた。
「まって、フェアリーテイルの写真集の水着って、相当際ど――」
「私の恥ずかしい気持ち分かりました? 止めてくださいますか?」
「いや、今更止めれないし・・・」
2-5のみなさんが教室に集まり、相談が始まった。
2-5の上級生たちは、教室の前で『カオナシ』のように立つ私に、怯えながら暫く相談して、
「分かった、鈴咲ちゃんの言う通りにする・・・」
私の出した条件を飲むことにしたようだ。
私は『カオナシ』のように鳴きながら、ウナヅク。
「では当日、その格好でサービスしてくださいね」
「わ、分かったわ」
「お、おう」
女子上級生も男子上級生も、引き攣りながら答えた。
「それなら楽しみ」
私は、リノリウムの廊下を ひた ひた とでも音が鳴るような足取りで自分のクラスに戻っていった。
「鈴咲ちゃんって・・・・怖いんだね」
「・・・怒らせちゃ駄目な人だわ、あれ」
「戦犯正岡、お前、分かってるよなぁ?」
「や、止めてくれ、許してくれぇ――!!」
フフフ。
その後「鈴咲さんは男子に女子の水着着せたり、水着の女子にサービスしてもらうのが趣味だ」という噂が立った。
甘いな・・・女子には、男子の水着を着せるのが私の本当の趣味だ。
こんな噂を流したのは誰だぁ? そのうち着せてやる。クックック。
~~~
前回の「しました」で「?」ってなった人すみません。
最初にスウが助けた中学生を、アリスの妹に変更しました。
一応URLを張り直しておきます。
大きな変更は、
7 初配信します
https://ncode.syosetu.com/n0664js/8/
から、
10-2 スウさんありがとうございます
https://ncode.syosetu.com/n0664js/13/
です。
ミスして申し訳ないです><




