261 ドミナント・ヘルハウンド戦います
「スズっち!!」
「鈴咲!!」
「鈴咲さん!!」
みんなが私を心配する。
だけど大丈夫、私には修理済みの雪花がある。
ヘッドギアもちゃんと雪花。
――目立つのが嫌だからって、みんなに合わせて初心者パイロットスーツとか着ないで良かった。
ただ、膨大な質量の勢いが殺しきれなくて、渓谷の反対側の壁に叩きつけられた。
止まった瞬間に強烈なGが掛かって、ちょっと息が止まった。
でも怪我はない。
私は〖飛行〗で、ゆっくりと渓谷の上空に飛ぶ。
しかし流石に、ドミナント・ヘルハウンドもバーサスフレームの武器はこたえたようで、あちこちから血を流している。
・・・・そこで私は違和感を感じた。
なんだろう、なにか変だ――、
「え・・・・血?」
まって、MoBが血を流す?
今まで一度も、血を流したMoBはいなかったんだけど。
と思っていたら、血が伸びてきた。
「そういう能力!?」
私が左に躱すと、血が槍のように背後の岩壁に突き刺さっていた。
ちょっとまってアレを鞭のように払われたりしたら、みんなが・・・・。
嫌な予感は当たるもので。
ドミナント・ヘルハウンドの全身から血が棘のように伸びた。
そうして血の棘のそれぞれがしなったかと思うと、鞭のように払われだした。
「イダス、リンクス!!」
二人がみんなを庇ってくれる。
――だけど、衝撃波でみんな後に吹き飛んだ。
「大丈夫!?」
私は叫んだけど、怪我はなさそう。
でもイダスとリンクスのシールドは、いつまでももつ物じゃない。
アルハナがいないから、シールドを砕かれたら回復できない。
(みんなを倉庫に入れるか、早くドミナント・ヘルハウンドを倒すかしないと!)
「とりあえず、まずみんなから距離を取らせよう」
私は私の隣に停滞していた、血の鞭を握る。
〖超怪力〗、〖怪力〗、〖念動力〗。
「せぇのっ!!」
私は、パワー系のスキルを使い、さらに〖飛行〗で勢い付けながら思いっきり引っ張った――よし、本体も引っ張れる。
慣性を掛けるように、カーブして飛んで、双頭の人狼を洞窟の壁に叩きつける。
そのまま落ちろ!
しかしドミナント・ヘルハウンドは血を伸ばして、洞窟の天井に打ち込んだ。
――落下しない。
攻撃を続けないと駄目だ。
でもドミナント・ヘルハウンドの傷が増えると、血の触手が増えて、攻撃が増えるのかな・・・?
とにかくみんなの方へ飛んで、みんなを倉庫に――駄目だ、私を血の触手が追ってくる。
――いや、みんなも避難できた。
今の間に、元来た道をだいぶ戻れたようだ。
ドミナント・ヘルハウンドが、私だけを狙い出した。
よし、もう何の気兼ねも要らない。
「・・・入れ! ――ゾーン」
私はバーサスフレーム用の64ミリ機関銃――タイニーガンでドミナント・ヘルハウンドを撃ちまくる。
どんどん血の触手が増えていく。
「おい! 鈴咲大丈夫か!!」
「どんどん、赤い線が増えて行っているぞ!!」
「スズっち―――!!」
本郷くんと傘木くん、そしてチグが叫んでいる。
「大丈夫!!」
みんなの叫びに、私は頷いて返した。
「本当に大丈夫なんですの!?」
「だ、大丈夫って、もう鈴咲の姿が見えないんだぞー!?」
「ほとんど赤い繭じゃん・・・スズっちは、あの中で鞭みたいなのを躱し続けてるの?」
ゾーンに入った私にとって、この程度を躱すのは問題ない。
私がドミナント・ヘルハウンドを、タイニーガンで撃っていると、救援部隊が駆けつけてきた。
「救援到着しまし・・・――――なんだ、あの巨大な赤い毬は!! ・・・・うごめいているが、まさか攻撃?」
「き、君たち・・・・スウさんは無事なのか!?」
正規兵さんが尋ねるとと、御子柴さんが答えた。
「あの毬の中で、戦ってます・・・!」
私は無事なことを伝えて、とにかくみんなの安全を確保してもらおうとする。
「私なら大丈夫です! みんなの避難をよろしくお願いします!!」
正規兵が、すぐさま反応してくれる。
「りょ、了解!! ――さあ、こちらへ!」
しかし、チグが少し戸惑うように、声を張り上げた。
「こっちって、スズっちを助けてよ!」
すると正規兵さんが、悔しそうな声でチグに返す。
「すまない。あんな攻撃を躱せるのは、スウさんだけだ・・・・我々では君たちを守りながら逃走することしか出来ない」
「そんな・・・」
私は、長い息を吐いてからチグに伝える。
避難して貰う必要も、なさそうだ。
「大丈夫だよ、チグ」
◤ドミナント・ヘルハウンドを倒しました◢
「もう倒した」
私の周りの血が砕け、ドミナント・ヘルハウンドの体も砕け散った。
赤い卵の殻が砕けるみたいに消えていく、ドミナント・ヘルハウンド。
『銀河クレジット200万、勲功ポイント200万を手に入れました。さらにトラブルのお詫びで、銀河クレジット250万、勲功ポイント250万。詫び石10個を手に入れました(詫び石は、バーサスフレーム内か基地の受付で受け取れます)』
『難易度異常〝スウさんごめんなさい。完全にこちらの手違いです。よろしくお願いします〟をクリアしました。銀河クレジット200万、勲功ポイント200万を手に入れました』
え、詫び石ってなに・・・・?
「やべえ・・・勝っちまった、やべえよ。語彙力死ぬくらいやべえよ」
「ははは・・・・ぼく等のクラスメイトなのか、本当に彼女は」
「声が出ないな」
笠木くん、十十くん、本郷くんが、それぞれビックリしている。
「わたくしたち、鈴咲さんに対する解像度が本当に低かったのですわね・・・・と、とにかく無事で良かったですわ」
「で、ですね。本当によかったです」
「マジで焦ったぞ」
「よかったあ」
「いやはや、本当にとんでもないな、スズっちは」
西園寺さん、御子柴さん、黒田さん、佐藤さんが安堵していた。
チグに褒められて、おもはゆい。
私があまり気にしないようにしながら報酬を確認していると、正規兵さんが私を見つめているのに気づいた。
「あれが特別権限ストライダーか」
「――正しく。噂通りだ、軍神のごとし」
だから、おもはゆいんです。
にしてもマジでこの詫び石ってなに、説明もないんだけど。
〖飛行〗でみんなの方に戻っていると、チグが正規兵さんに尋ねる。
「兵隊さん、その特別権限ストライダーってなに?」
「特に優秀な方に与えられる大きな権限です」
「まじかあ・・・やっぱスズっちは、一目置かれてるんだなあ」
正規兵さんが苦笑する。
「一目どころか、二目も三目も――いいや数え切れないほど置かれてますよ。全銀河から彼女に向かう羨望の眼差しは、無数です」
「はんぱね~っ」
頬が熱くなるから止めて。
そして残念ながら、印石は無かったみたい。
てか詫び石ってなに。
――あっ、茅野くんを〈時空倉庫の鍵・大〉から出さないと。
危ない、お持ち帰りするとこだった。
という感じで初心者クエストも、順々にクリアしていきました。
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最初にスウが助けた中学生を、アリスの妹に変更しました。
読み直すと、大分印象が変わるかもしれません・・・。
主にどこを変更したかというと、
7 初配信します
https://ncode.syosetu.com/n0664js/8/
から、
10-2 スウさんありがとうございます
https://ncode.syosetu.com/n0664js/13/
までです。
特に10はあのエピソードをアリス視点で見た形です。
一応、初めて出す追加エピソードです。
あと、第133話の中にあった「憧憬」が7-2に移動し、前半でアリスと妹が喧嘩するシーンが追加されました。URLは以下です。
第7-2話 憧憬
https://ncode.syosetu.com/n0664js/9/
他に少し手を加えたのは、
114 決勝戦が始まります
https://ncode.syosetu.com/n0664js/116/
116 星の騎士団のクランマスターと対決します
https://ncode.syosetu.com/n0664js/117/
118 決着
https://ncode.syosetu.com/n0664js/118/
138 お祝い・・・します?
https://ncode.syosetu.com/n0664js/140/
139 掲示板で噂になります3
https://ncode.syosetu.com/n0664js/141/
です。
この辺りはあまり大きな変更はしていません。
かなり先まで出しておいて、今更の変更申し訳有りません。




