258 クラスメイトにバーサスフレームの操縦の仕方を教えます
(リイム、お昼は果物をリビングに置いてるから食べてね)
私はテレパシーをリイムに送る。
今はアルカナくんがいるから、リイムのお世話は問題ないんだけど。
(うん、ママ。――あっとん兵衛! その果物は それは僕のリンゴ!)
え・・・なんであの子、とん兵衛と一緒にいるの・・・?
鳥類同士の何か?
私は新たに生まれたこの世の謎に戸惑いながらも、チグのホワイトマンに乗り込む。
そして後席に座って、説明を始める。
「飛行形態で普通に発着するのは難しいから、人型モードで離着陸するといいんだ。そしたらフェイレジェの離着陸は、すごく簡単になるんだ」
前方でチグが頷いた。
「なるほどなあ・・・。わかった、やってみる。変形はどうやるの?」
「ホワイトマンの場合、前方中央の真ん中の赤いボタンを押したら自動でロボになってくれる感じ。ちなみにどの機体も同じ場所に変形ボタンがあるから、覚えておくと良いかも。で、飛行形態になるのは脳内で『飛行形態に戻れー』って思ったりするだけ」
チグがボタンを押すと、ホワイトマンがロボ形態になった。
「その状態で『飛べー』って思えば飛ぶよ。他にも足の裏から火が出てるイメージしてみて、足の裏からロケット噴射がでるから。方向はVRで足を動かす感じで決めるの。VRで足を動かしてみて、それで斜め上に飛んでみて。あ、でも人型でずっと飛ぶのは難しいよ。フライボードみたいな感じになる。ずっと飛ぶなら、すぐに飛行形態になったほうが良いかも」
「そっか。おっけ」
人型のホワイトマンが空中に浮いて、斜め上に飛び出す。
「視界の左下に表示されてる『全体速さエネルギー』の下の、『相対速さエネルギー』が100以上――出来れば200になったら飛行機になれーって思うの」
「200になった。変形してみる」
チグはかなり飲み込みが早く、スムーズに空中で飛行機になるホワイトマン。
私は感心しながら、説明を続ける。
「あとは操縦桿やペダルで、水平に飛ぶだけだよ」
「おおっ。スズっちの説明に従うだけで、あんなに難しかった離陸が、こんなに簡単に・・・」
「いやー、この離陸の仕方はフェイレジェの戦闘機乗りの常識なんだけどね。ただ、戦闘機乗りの常識でも、そもそもあんまり戦闘機を使う人いないから・・・戦闘機乗りの常識が広まってないから」
「スズっちみたいに、戦闘機でバリバリ戦う人は少ないの?」
「私もちょっと前に知ったんだけど、凄くマイナーな戦い方だってアリスに言われた」
「カッコイイのになあ」
「え、カ、カッコイイ? デュフフ」
女子としてイエローカードを貰いそうな笑いを披露しながら、チグに簡単な着陸方法を説明すると――人型になり、華麗に着陸するホワイトマン。
「そう、ロケット噴射したままふわりと降りるの。上手い!」
「ほんと楽になるわ、人型は操作が楽だねぇ」
「ただね、飛行機形態になるのは良いんだけど、速度がないと翼の形によっては墜落するから、気をつけてね――三角形に近いほど危ないと思って」
「・・・・つまりホワイトマンは危ないと」
「うん。なんで練習機にダブルデルタ翼の機体を寄越すんだろう? とは、前から思ってる。まあ、人型があって離着陸が簡単だから問題視してないんだろうけど」
私がチグに説明していると、
『虹坂さんばっかりずるですわー! 鈴咲さん、わたくしにも教えてくださいまし!』
『鈴咲、俺にも離着陸を教えてくれよ! 難しすぎてヤバイ! ホワイトマン一個壊れて、街に転送されて・・・・ビビったぜ』
西園寺さんと、茅野くんからヘルプが掛かった。
「て、転送されたの!?」
地球じゃないなら・・・スワンプマンじゃないよね。
「――わ、わかった。じゃあ茅野くんは新しいホワイトマンが送られて来るの待ってて、先に西園寺さんに教えるよ。でも飛行機で頑張るのはあんまりお勧めしないよ。ずっとロボ形態でも良いんだからね? 殆どの人はこっちを選択するから」
『え、そうなんですの? 鈴咲さんが、ほぼ戦闘機しかつかってらっしゃらなかったので、戦闘機が標準だと思ってましたわ・・・』
「普通は人型形態が標準らしいから・・・実際、人型の方がなにかと楽だから戦闘機は出来るだけ使わない方がいいよ。・・・・私はたまたま戦闘機が得意で自分のやり方をしてるけど、楽を出来る部分は人型でやってるから。そもそも戦闘機なんか使ってるのはよっぽどの物好きか、軍隊のパイロットさんくらい」
「鈴咲は、もの好きかー」
黒田さんが笑う。ちょっと、みずきに雰囲気が似てる。
「そうはっきり言われると辛いけど!」
私はみんなにレクチャーしていく。
一時間もすると、みんな離着陸を問題なくできるようになった。
茅野くんと本郷くんが特に上手い、さすが部活全国2位と3位。ただ当然だけど、二人共ロボ形態が向いていると言っていた。柔道部とフェンシング部だもんねえ。
そうして結局、全員ずっとロボ形態のままにしときたいって結論に至った。
だよねぇ。それが普通なんだよねぇ。
私みたいに〈発狂〉デスロードをクリアするために、体から脳までチューンナップしちゃ駄目です。
もとから飛行機が得意な綺雪ちゃんとか、さくらくんが希少種すぎるんだ。
あとマイルズとかユー、マリさん。
よく考えたら全員天才じゃん。
いや、茅野くんと本郷くんも全国2位3位も多分天才なんだけど、方向性がアリスやリッカだし。
『鈴咲様の仰るとおり、ロボは速度がでませんが安全ですね』
『だけど走りにくいなあ』
陸上部な黒田さんがホワイトマンで訓練場のグラウンドを走るけど、すごくぎこちない。
「チュートリアルが終わったら、初期機体選択が有るだけど、その中に走るのに向いた機体もあるよ。エアロアローとか。アレは偉大な陸上選手の体を再現してるから、だいぶ走りやすいと思う」
私の言葉に、何かに気づいたように黒田さんが通信ウィンドウを開いて顔をこちらにアップにしてくる。
『それって! VRで偉大な陸上選手の体を体験できるって事!?』
なるほど、確かにその通り。
「う、うん、そうだと思う」
『凄い! 絶対そのロボット選ぶ!! 鈴咲さんありがとう!! 覚えなきゃ! ―――エアロアロー、エアロアロー』
黒田さんが乗ってるホワイトマンが嬉しそうに飛び上がって、その後エアロアローの名前を何度も唱える。
巨大な鋼が飛び上がって、辺りに巻き起こる振動がすごい。
私は現在、訓練場の地面に立っているから転びそう。
――あと・・・・プレイヤーの間でエアロアローが、エロとか略されてるのは黙っておこう。
私は秘密を抱えたまま、みんなに尋ねる。
「じゃあバーサスフレームに慣れたみたいだし、次は初心者クエスト受けに行こっか?」
「そうですわね。案内をよろしくお願いしますわ」
ホワイトマンから降りて、ヘッドギアを取って髪を振った西園寺さんが、私に寄ってきて頷いた。
するとホワイトマンで茶道のポーズを再現していた御子柴さんが、おっとり答える。
『鈴咲様、お願いします』
黒田さんも走るのを止めて、機体を降りてきた。
「頼むぜー」
みんなが集まる中、笠木くんが私の全身を上から下まで眺めて言う。
「にしても、鈴咲のパイロットスーツってエロいな」
すると、十十くんの笑みが深くなった。
「だねぇ。――鈴咲さん、笠木を殴るならこのあたりが良いと思うよ」
笠木くんの隣で十十くんが「クスクス」と微笑んみながら、笠木くんを取り押さえ、頬を指し示した。
いや前に笠木君の覗きには耐えられなくて殴ったけど、流石にそんな簡単に殴らない・・・よ、多分?
ホワイトマンで、柔道vsフェンシングで戦っていた本郷くんと茅野くんがこっちを向いた。
『どこかへ行くのか?』
『俺等もいくぞ~!』
「初心者の実戦クエスト受けに行く?」
『おう』
『行く行く!』
佐藤さんが私の腕を取ってくる。
恋人がやるみたいな絡め方だ。
「今日の鈴咲さん凄く頼りになるね。配信の時みたい。スウって呼んで良い?」
「スウは・・・止めて」
「やっぱり駄目かー」
パックジュースのスポドリを吸っていたチグが、私に尋ねてきた。
「そうだスズっち、ストライダー登録ってまだ出来ない? あたし、能力値とか調べるやつやってみたいんだよね」
「初心者クエストを全部終わらないと、ストライダー登録は出来ないと思う」
「そっか残念、じゃあさっさとチュートリアル終わらせよー」
「そだね。じゃあ受付窓口いこっか」
茅野くんが頭の後ろで手を組んでこっちにくる。
男女兼用のパイロットスーツだから、茅野くんの体の艶めかしさがとんでもない。
神様、なんで私にあのルックスをくれなかったの?




