257 クラスメイトの訓練を手伝います
言い合う新しくプレイヤーになったクラスメイトに、大事な忠告をする。
「あっ、絶対に気をつけて欲しいのが、生身の遭難。AIドローンやVRすらない状態で遭難すると、以前は誰かに助けてもらうか、死ぬしか帰る方法が無かった程危険だから。今は危険を察知すると、連合からも救助隊が編成されたり、プレイヤーに救出クエストが出たりして、迎えに来てくれるんだけど――助けてもらったら結構クレジットか勲功ポイント掛かるから・・・・借金になっちゃったりするんで」
「ちょっと怖くなってきましたわ」
私は、言った西園寺さんに向かって頷く。
「怖いっていう反応がただしいよ――だって怖いものだから」
クレジットや勲功ポイントに関しては、みんなが遭難したら私が出してもいいけど。
怖いのはそっちじゃなくて、スワンプマン。
私はどう怖いのかを、ちゃんと話す。
公然の秘密になっているFLの言う「死なない」っていうのはなんなのかを、念入りに、詳しく図解などを用いて。
さらには、銀河連合が最悪の場合に行うスワンプマン復活を説明してくれてる動画とかも見せておく。
ただ、復活は本当に滅多に用いられない。銀河連合も、できるだけ部位の再生で生き返らせてくれるけど、それでも起こる可能性は0じゃない。毎年、百人以上のプレイヤーが復活判定を受けている。
私は動画を見せた後、最後の念押しをしておく。
「どうかな、止めといたほうが・・・」
この念押しは私がコミュ障とか関係なく、本当に危険だから念押ししてる。
「行きますわ!」
「まあ、危ないことは止めておけばいいとは思いますけれど」
「少々の危険は納得済みだよ」
大人しそうな西園寺さん御子柴さんと、活発な黒田さんが返してきた。
大人しそうな二人すら止めないかあ。
でも、予想通りの反応。
プレイヤーに選ばれる人って、ここで止めないんだよね。
私みたいにシミュレーターに引きこもるほうが少ない。
プレイヤーの条件って、ここで尻込みしない人っていう条件が有るのかもしれないなあ。
ここで尻込みするようならMoBに立ち向かえないだろうし、連合的には立ち向かえる人が欲しいのかなあ。
やがて私のフェアリーテイルが降りてくると、みんながざわついた。
アンパンをビニール袋から取り出し食べようとしていた笠木くんが、フェアリーテイルを見て「ぽかーん」。
「・・・アレがフェアリーテイルか、俺らのと全然違うじゃん」
茅野くんが、スマホから目を移し見上げる。
「あれって、とんでもない高性能を秘めてるってWIKIに書いてたぜ?」
西園寺さんが、ちょっと顔色を悪くした。
「わたくしは、中身は古い世代の戦闘機だって聴きましたわよ? しかも凄く脆いとか。あとは強い攻撃するとエンジンも止まるしシールドも無くなる大変危険な機体で、鈴咲様にしか乗りこなせないと謂われているらしいですわ」
笠木くんが、アンパンを牛乳でお腹に流し込んでから笑う。
「読んだ読んだ。ポイントさえあれば誰でも買えるのに、誰も買わないほぼスウの専用機だって。普通にWIKIに『スウ』って書いてあって笑ったわ(笑) でも専用機とかいいなあ。いずれ、ああ言うのがほしい」
御子柴さんがスマホで何かを調べながら、呟く。
「しかしポイントを貯めるのが難しくて、かなり取得が困難らしいです。何千万人もプレイヤーが居て、その中の上位100位になった人が3年掛かっても、アレを買えるだけのポイントが集まらないって、攻略WIKIに書いてありました」
本郷くんがぼそりと言う。
「あれ買うのは1000万ポイントだったか? 1000万ってどのくらいの価値なんだ?」
茅野くんが上を見上げていた、頭の後ろで腕を組んだ。
「1000億円って訊いたぜ」
御子柴さんがスマホから顔を上げる。
「え!? 鈴咲様って半年やそこらで1000億ものアレを手に入れたんですか!?」
十十くんがよく分からない笑顔になる。
「鈴咲さんは合計2000万ポイント稼いでるらしいよ。日本円換算2000億円だっけ」
御子柴さんがスマホに顔を戻してギョッとする。
「こ、これは凄まじいですね・・・」
そして十十くんが、とうとう苦笑いになる。
「でも、スウのフェアリーテイルってPvP大会の賞品だから実質タダらしいから2000億はそのまま残ってるんだとか」
御子柴さんのスマホを持つ手が震える。
「――えええ・・・」
8人みんながこっちを見るけど、いや私の資産の話を振られましても答えづらい。
あとホワイトマンやフェアリーテイルを見て、なんか校庭で文化祭の準備をしていた人も集まってきだしてるし、校舎からもいっぱい顔が出てる。
「そ、そろそろ行こうか!」
私が言うと、チグが私に寄って肩を軽く叩いた。
「じゃあ、スズっちよろしく頼むわ。あたしもちょっとワクワクして来たし」
チグが嬉しそうにしてるだけで、私は整った。
これで私の腹も決まった。
「わかった。ここまで来たら、ちゃんとみんなを案内するよ」
鷹森くんが、クラスのほとんどの人を引き受けてくれたし。
クラスの全員を案内しないといけないという、当初の懸念も無い。
「スズっちがそう言うと、本当に安心だわ」
いつも私を助けてくれる側のチグが、私を頼る目で視てくれている。
こ、これがパラダイムシフトか!
――え、ちがう?
と、とにかく、頑張らなきゃ
ゲート組を引き連れた担任の先生も「鈴咲、頼んだぞー」とか言ってる。
ちなみに先生もプレイヤー申請したけど、申請が通らなかった。
鷹森くんは、笑いながらこっちに手を振ってた。
イケ面だけど近寄りがたい雰囲気のあった鷹森くんが、積極的に案内してるから女子が嬉しそう。
私に微笑んだチグが、ホワイトマンに乗り込む。
さらに他の人もホワイトマンに乗ると、全機急上昇していった。
私もフェアリーテイルで彼らを追う。
やがて最初の説明を受けてVR訓練を終えたみんなが、思い思いにリアルの訓練場で訓練を開始した。
『う、上手く飛べませんわーーー!』
あ、西園寺さんが海に墜落していった。
私は、フェアリーテイルで救助に向かう。
射撃訓練場(生身)の方から声が聞こえてくる。
『・・・銃を撃ったらとんでもない振動くるんだけど! 反動で銃が後ろにぶっとんで突き指したんだけど・・・! ――これ制振機ってので反動抑えられてるんだよな? 銃の反動ってこんなにエグいの?』
「そ、その大きな拳銃は、制振機ありでもデザートイーグルくらいの反動があるんだよ。なんでそれから撃つのかな!」
『ロ、ロマン?』
「ロマンなら仕方ない」
笠木くんが怪我したらしい。
私は、ロマンに納得しながら〖再生〗を掛けに行く。
訓練場の端のベンチから声が聞こえてくる。
「フェイレジェのお茶は美味しいですね。黒田様」
「美味しいねぇ、御子柴さん」
あそこは平和だなぁ。でもあれだと、チュートリアル進まないんだよね。――なので説明に行く。
するとチグが苦笑いになった。
「説明したり助けたり、NPCに対応したり――忙しいなあ、今日のスズっち」
「でも多分ゲート組よりはマシだろうし、鷹森くんに感謝だよ。チグはチュートリアル終わった?」
「いや、上手く離着陸できなくて・・・・ちょっと教えて欲しいんだよね」
「うんうん! じゃあ後ろの席に座るね。失敗したら私が補助を入れるから」
「おおおっ。助かるよ、おねがい!」




